【連載小説】Especial Pink《3》『マウント』
前回までのお話です↓
そして登場人物紹介はコチラ
《0》
私がサークル活動参加に消極的だったのは、勉強や家の手伝いが主な理由だが、もう1つ……高校時代の部活動も関係していた。
「山岸先輩! 私、部長は三田先輩じゃなくて、先輩の方が合っていると思うんですよねー」
これは当時所属していた英語部で、私の不在時に後輩が言っていた言葉らしい。別の後輩が頼みもしないのに報告をしてきた。
「山岸先輩も満更じゃなさそうな顔をしていましたよ。私、三田先輩が可哀想だと思ったんで、つい喋っちゃいました」
「……へぇ、そうなんだ。いいんじゃない? 山岸さんは本当にしっかりしているし」
後輩が何を期待して私にこのような報告をしてきたかは未だに謎だが、プライドが傷つかないワケはないだろう。残ったプライドを使って平常心で返すのが精一杯だった。
人をまとめるのは才能が必要だ。
それらは知識や経験で後押しが可能だが、やはり性格的な要素が一番のベースになっていると私は考える。つまり私のような自己肯定感の低い人間にリーダーは向かない。
だから部長を決める時に、私は社交的で決断も早い山岸さんを推薦した。
「いや、絶対に三田さんだよ! だってウチらの学年で三田さんが一番英語ができるじゃん!!」
この山岸さんの『鶴の一声』で英語部の部長は私に決まってしまった。よくよく考えれば、この時から既に彼女の『独裁』が始まっていた、ということになる。
結局、私が部長、山岸さんは副部長に決まった。
そして実際に部活を仕切っていたのは彼女……。
企画を一人でどんどん進めることは勿論、私が一生懸命考えたことも「こっちの方がいいよ」と何度も口を出す。これが2人だけの打ち合わせであれば、特に問題ないだろう。しかし彼女の『裏部長』ぶりは部員たちの前でより発揮された。
とんだ引き立て役だ。
(だったら、山岸さんが部長やれば良かったじゃない)
この心の声を、何度声帯に変換したかったことだろう。
部の雰囲気の為に……と我慢していた私だが、後輩から聞いた前述の言葉で、全てがバカらしくなってしまった。
(部活……辞めよう)
数日後、私は「受験に専念したいから」という表向きな理由と共に退部の意思を告げた。
「えぇ!? 辞めちゃうの!? 三田さんがいなくなったら、私寂しいんだけど!?」
大げさに驚いた山岸さんを冷めた目で見ながら、私は脳内で言葉を返した。
(あなたが寂しいって思うのは、自分を誇示するための『踏み台』がいなくなるからだよね?)
彼女は別のクラスだし、部活はこの日で最後だったのだから、今まで溜まっていた不満を、一気にぶちまければ良かったかもしれない。
でも出来なかった。
「私、忙しいの」
残念ながら、このセリフだけで精一杯だった。
『寂しい』と言っていた割には、その後の山岸さんが私に話しかけることはなかった。勿論こちらも同じだ。私たちはこれ以降、会話らしい会話をすることはなく残りの高校生活を終えた。
「優生、大変だったね。今までよく耐えられたよ!」
部活動を辞めた経緯を、同じクラスで親友の下山真凛に話した時、彼女は私に優しく言ってくれた。
彼女の言葉がとても有り難かった。
この手の話をする時は相手を選ぶことが重要だと思う。中にはじれったい顔をしながら、こんな『有難い』アドバイスをする人間がいるからだ。
「不満ならどうして《その時》に《ハッキリ》と言わないの!?」と。
それが出来ないから苦労しているのに。
「ねぇ優生、山岸さんに自覚はあったのかな? 自分が卑怯なマウントを取っているってことが……。うん、あの子は『しっかり者』じゃなくて、ただの『プライドクラッシャー』だよ。優生を利用して『ワタシ2番手ですが、実は1番手より凄いんですよ』って周りにアピールしていたんだから」
「そうなるね」
「私、断言するよ。山岸さんがここで悔い改めなかったら、将来カレシやダンナに同じようなことをして、間違いなく愛想尽かされるね。何だかんだ言っても、男の方がプライド高めだからさ」
「真凛……言うねぇ。それにしてもあんた何歳よ」
「へへへ……だから、優生は気にしない気にしない」
真凛の言葉でかなり救われたが、大学に行っても、部活やサークルに入るのは辞めようと思った私だった。
《1》
そんな私が、ある日突然、演劇部の門を叩いてしまうなんて、人生何が起こるか本当に分からない。
『今までと違う自分に会ってみたくなった』という理由はあるのだが、我ながら凄い決断だと思う。
「情報科1年の三田優生と申します。演劇は全くの素人ですが、よろしくお願いします」
私は部室の入口で深く頭を下げた。
「まあまあ、ユーキちゃん、そんなに固くならないでいいから。あ、コイツらの紹介するわ。こっちのメガネが部長の小林で、こっちの二重少年がアーちゃん」
随分雑な紹介だ。
「よろしくね。僕、同じ1年の相楽敦士です。ちなみに電子科。敦士だから『アーちゃん』って呼ばれてるの。だからユーキちゃんもそう呼んでね。僕もユーキちゃんって呼ぶから」
『二重少年』こと相楽敦士くんは仔犬のように人懐っこい。
「あ、よろしく、アーちゃん」
そして『メガネ部長』の方は……。
「三田優生さん、初めまして。自分は部長の小林直人といいます。先ずは、あんなに酷い部活動紹介だったにも関わらず、入部を決断してくれたことに心から感謝いたします」
(け、敬語キャラ!?)
「おい小林、さりげなく俺の考えた部活動紹介のシナリオをディスってんじゃねーよ」
成田さんが口を挟む。
「『人がインフルエンザで寝込んでいる間に、随分好き勝手にやりやがって!』って、未だに根に持っていますよっ! 動画を見た時、また熱が上がってしまうかと思いました。…………おっと話が逸れましたね。失礼しました三田さん」
「は、はい」
「成田さんからあなたの話は聞いていました。どうやら演劇に関して、全くの素人だそうで。それなのにいきなり初舞台がヒロインという重荷は、個人的にどうかと思うんですよ。しかし未経験分野に挑戦しようとする三田さんの気持ちはとても素晴らしいです。そこで俺は考えました!」
「…………はぁ」
なんだか圧倒されてしまう。
「旗揚げ公演の女優は、市内の社会人劇団の方に助っ人をお願いして、三田さんはもう少し負担の軽い役を……と思っています。勿論、発声などの基礎は俺が責任を持って教えましょう。そうやって少しずつ経験を積んだ方が……」
「小林! 何、勝手に話を進めてんの!?」
「誰かさんもそうでしたよね?」
「ウイルスに負けた己を恨め! それにあの部活紹介があったからこそ、アーちゃんみたいな素直な子が入部してくれたんじゃねーか!」
「あ、僕は元々演劇部に入部するつもりでした。だからあれは関係ありませーん」
「アーちゃん、そこは俺の味方してよ! とにかく俺はユーキちゃんを見て直感が働いたの!! 3月の公演は彼女がヒ・ロ・イ・ン!」
「基礎と経験が大事です!!」
「高校演劇で中途半端な結果を出して、天狗になって入部するヤツより、まっさらなユーキちゃんの方にに可能性を感じるわっ!!」
(えっ? えっ? えっ?)
もしかしてこれは『(ある意味)私のために争っている』状態なのだろうか? 2人の怒号に挟まれた私は、どうしていいか分からず、オロオロしながら視線を左右に移動させていた。
「ユーキちゃん、気にしないで。キュウさん&コバさん『4年ズ』はいつもこんな感じだから。前回は冷やし中華のマヨネーズはありかナシかでバトルしていたし……」
アーちゃんは涼しい顔でくつろいでいる。
「あっ…………そうなんだ」
2人のバトルは暫く続いた。
「ま、それでも基礎だけは小林に任せるけどな」
成田さんはそう言ってポリポリと頭を掻いた
「でも小林、言っておくけど最初だけだからなっ! ……で、ユーキちゃん、基礎を習得した後は、俺やみんなの動き見て、感覚で吸収しなよ」
「いやいや、『感覚』とか言われても…」
「ガチガチにならなくていいよ。行動に移した方が早いって。そんなワケで早速今日から練習しような。暫く俺は外野だけど」
「………………は、はい」
《2》
その後、他の部員たちが続々と部室に集まって来た。
みんなヒロイン候補の私が素人だと聞いて、少々不安そうな顔はしたものの、基本は歓迎ムードだった。ただ私の外見を見ただけで、ガッカリを隠しきれなかった男子が2人ほどいたが……。
(もしかしたら、あの2人って成田さんが前に言っていた『何しに入部してたか解らない』って1年?)
ダルそうな自己紹介でそれは正解だったと判った。遊び感覚で入部してきた彼らにとって、大事なのは私が『舞台で使えるか?』ではなく、『自分の好みか否か』だったのだろう。
(千春のような美人が入部してきたら、目をキラキラ輝かせるんだろうな)
だったら、お遊びサークルの『BAY-CLUB』に行けば?……と思う。
そうこうしているうちに、部員全員が揃ったようで、私たちはグラウンドに移動した。
「小林、俺らは自主練してるから、ユーキちゃんのことよろしくな」
「分かりました」
成田さんたちは、そのままストレッチを始めた。そして残されたカタチとなった私は、緊張した表情で小林さんを見ながら、「よろしくお願いします」と頭を下げた。
「別に取って食うつもりはありませんからもう少しお気楽に」
「は、はい」
「先ずは自分が限界だと思える大きな声を出して下さい。『あー』で構いません」
「…………は、はい」
いきなり1人で!? 正直、恥ずかしいと思った。しかしそれでは何の為に入部したのか分からない。私は覚悟を決めると、野球部が練習してるグラウンドに向かって「あーーーーー!!」と思い切り声を上げた。
「…………はい。では次に自分の腹に手のひらを置いてもらえますか? さすがに俺が女性の腹を触るワケにはいきませんから。三田さん、発声には腹式呼吸と胸式呼吸の2通りがありますが、一般的な舞台で必要なのは腹から声を出す腹式呼吸の方です」
「はい」
「お腹に溜め込んだ息を吐く際に、その息に声を乗せることをイメージして下さい。ちなみに、三田さんが一生懸命出した大声よりも、舞台でヒソヒソ話のシーンを演じている役者の声の方が圧倒的に大きいハズですよ」
「……………」
「では、いきますか。お腹に息を溜めるようにして吸って下さい。そして吐く。こ時に声を出して下さい」
「あー、あーーー」
思ったようにいかない。頭では解っているのに、お腹と声帯が上手く協力し合えない状態だ。
「まあ、初日に成果は求めませんよ。結局地味な積み重ねです」
その後も(息が)苦しい発声練習は続いた。通りすがりの学生たちがチラチラとコチラを見ているが、もうそれどころではない。
「おーい!? 小林、発声終わった? そろそろ『エチュード』やるかい?」
成田さんが私たちに近づいて来た。
「まあ、初日なので、これくらいにしておきましょう。三田さん、お疲れさまでした」
「はぁ」
私には『これくらい』なんて思えないほどしごかれた感覚があるのだが……。明日目覚めたら、腹筋が痛くなっていそうだ。
「ところで『エチュード』っ……何ですか?」
ヘトヘトでスルーしそうになったが、初めて聞く単語に私は反応した。
そんな私に向かって成田さんはニヤリと笑う。
「台本なしの『即興劇』のこと。先ずは1人が設定作るような芝居して、あとからどんどん人が入る。例えば俺が催眠術師の役をやって、ユーキちゃんに『阿波おどりやれ!』って言ったら、ユーキちゃんはそれに従う。嫌ならそれを回避するためのセリフを即興で言って、流れをナチュラルに変える。何をやってもいいけど『素』になるのだけはNG」
(えーーー!? 台本を読んで感情乗せるだけじゃダメなの!?)
ニヤリと笑う成田さんが悪魔に見えてしまった私だった。
「疲れたぁ~」
家に帰った私は、そのまま吸い込まれるようにベッドに倒れこんだ。
エチュードでの自分の演技は、恥ずかしくて思い出したくもない。たった数十分の間に何度『素』に戻ってしまったことか……。まあ、成田さんから「『素』はNG」と脅されていたにも関わらず、失敗しても全員優しかったけれど……。
(きっと『初心者御祝儀』みたいなもんだよね)
散々だったエチュードだが、先輩たちの芝居は見応えがあった。新しい参加者が増える度に流れが変わり、場面をどんどん塗り替えてゆく。
その中でも成田さんの演技と存在感はやはり別格だった。何て言うか、まるで役が彼に『憑依』したかのような……。
「………………」
いつの間にか私は、成田さんの姿を思い出していた。
大変だったけれど、中身の濃い初日だったと思う。
そして……
身体に残っている『狭い世界から抜け出したような感覚』が不思議と気持ち良かった。
《3》
「ねぇ、ユーキちゃんって……もしかして演劇部に入った!?」
数日後の朝、1限目の準備をしていると、前の席に座った千春が興味津々な顔で尋ねてきた。
「そうだけど?」
私は涼しい顔で返事をする。
「あの演劇部だよね?」
「その演技部だけど?」
「マジ!? ウケる!! もしかしてユーキちゃんってアレ? 『オタサーの姫』になりたかったとかぁ?www」
「………………はっ?」
絶対に何かは言われるかと思ったが、このセリフは予想していなかった。唖然としている私を見て、彼女は更に調子づいてしまったようだ。
「ねぇ、マーくんに頼んで誰か男の子紹介してもらおうか? そうそう私たちね、今度の夏休み、ディズニーに決まったの!」
「…………」
一番言いたかったのはソレか……。
「ちなみに泊まりがけ」
「良かったね。でも私には紹介とか必要ないから」
「あー! もしかしてユーキちゃんのお目当ては、あの『紫頭』とかぁ?」
「…………トイレ行ってくる」
私は無愛想な顔で立ち上がった。
別の世界を知ると、前にいた世界の狭さがハッキリしてくる。その後も千春たちは、私の演劇部参加をちょくちょく弄ってきたが、思ったよりもダメージは受けなかった。
『オタサーの姫』!? むしろしごかれていますが何か!?……という気分だ。
そんな私は最近、アーちゃんと一緒にいることが増えた。聞けば彼も未経験者で、高校時代に足を運んだアマチュア劇団の舞台がきっかけで、演劇に興味を持ったらしい。
「……ところでユーキちゃん、僕のことはすぐに『アーちゃん』って呼んでくれたのに、キュウさんは『成田さん』のままだよね? キュウさん『ユーキちゃんが打ち解けてくれない』っていじけてたよ」
「いやいや、1年生のアーちゃんと4年生の先輩を一緒にはできないでしょ。それに関しては小林さんだって『成田さん』呼びじゃん」
「コバさんは頭固いからねぇ」
アーちゃんは苦笑いをする。
4年生部員は、小林さんと成田さんの2人だけだが、生真面目な小林さんよりも、ちゃらんぽらんな成田さんの方に人望があるように見えた。
それに彼は、ああ見えて判断力があり、いざという時は、さっと部員をまとめることもできる。実際の年齢は小林さんよりも1歳上なので、私には成田さんが『影の部長』のようだと感じてしまう時があった。
すると、私を利用して自分を大きく見せようとしていた英語部時代の山岸さんを思い出してしまう。
勿論、成田さんにそんなセコい気持ちがないことは解っている。それに昔の私と違って、小林さんは全く気にしていないようだ。
(それでも真面目な人間って、どこか損していると思うんだよね)
我が身を振り返り、何となく切なくなった。
「でも、僕はコバさんを尊敬しているよ。無愛想だけど一生懸命だし」
「……そっかぁ」
私はクスッと笑った。
「おはようございます!」
演劇部に参加して1ヶ月ほど経ち、この空気がやっと通常モードに感じられるようになってきた。
…………しかし
「……ウィッス」
私は思わず「ゲッ!」と言いそうになってしまう。
部室の扉を開けると、例の『ヤル気のない1年生』2人が寛いでいたからだ。私たちは同じ学年でありながら、未だにまともな会話をしたことがない。
(えっ? 部室に3人だけ? 何か気まずいんだけど……)
部には慣れても、彼らとは打ち解けられる自信はゼロだ。
用事を思い出したフリして、また後で出直そうか……と脳内で検討していた時、誰かが私の肩をポンッと叩いた。
「おはよう、ユーキちゃん。あ、お前らもいたんだ?」
「あ、成田さん! おはようございます」
今の私には彼が救世主に見えた。
「あ、キュウさん! おはようございます!!」
この2人……成田さんだけには一目置いている。裏表のある態度にイラッとしたが、私は靴を脱いで部室に入った。
「今日も暑いっスね、キュウさん。なのに今日も発声やるんですか?」
「初心者だろ、頑張れや」
「マジぃ? 勘弁して欲しい」
「あんな地味な練習、いつまで続くんですかね? 俺、そろそろ飽きてきましたよ」
「そうそう。だってコバさん細かいし、二言目には『基礎』『基礎』『基礎』だしwww 俺はパーっと面白いことやりたいんですよ」
「…………」
何だかイライラが倍増してきた。しかしこの2人が私の表情など気にするワケがない。その後も調子に乗った彼らは、練習の不満を次々と口にした。
「…………で、アレですよね。キュウさんの方が面白いし、演技力あるし、俺、部長はコバさんじゃなくて、キュウさんの方が合っていると思うんですよね」
「!?」
コイツらは見事に私の『トラウマスイッチ』を押してしまった。高校時代に味わった悔しい気持ちと共に、何か言い返そうと思ったが、上手い言葉が出てこない。
「お前らバカじゃね?」
そこに、一刀両断するような成田さんの声が響いた。
「…………えっ?」
「お前らが、何を思って入部してきた分かんねーけど、小林の凄さを理解出来ねーヤツは、ここではやっていけねーぞ。部長はアイツだ!」
「………………」
まるで別人のようになった成田さんに、当事者の2人は勿論、私までが圧倒されてしまった。
そして沈黙が暫く続く……。
「俺ら用事を思い出したんで帰ります」
2人は目を合わせて立ち上がると、そのまま部室を後にした。
「……………」
『天敵たち』はいなくなかったが、今の成田さんと2人でいるのも何だか気まずい。
(こ、この空気で一体何を話せばいいんだろ)
何故かさっきより焦ってしまう。
その時、成田さんが私の頭をポンポンと軽く叩いた。
「ユーキちゃん、このこと誰にも言わないでね。小林にも、みんなにも……」
ニカッと笑う彼は、いつもの成田さんだった。
「……はい」
何だか過去の私の仇まで取ってもらった気分だ。
それが原因かもしれないが、私はうっかり口を滑らせてしまった。
「なんか……カッコ良かったです。キュウさん」
「へっ?」
私は舌をペロッと出して、悪戯っぽく笑った。
《4》
「久しぶり、真凛。東京生活はどう?」
その日の夜、私は東京の大学に通う親友の真凛に電話をかけた。LINEではメッセージを送り合っていたが、声を聞くのは久しぶりだ。
「優生、久しぶり! うん、頑張ってるよ。優生こそ、演劇部はどうよ? 楽しんでる? 英語部であんなことあって『もう部活はやらない』って聞いていたから、一体何が起こったの!?とは思ってた」
「うん、あのね………」
私はキュウさんとの出会いから、今まであったことを詳しく話す。真凛は「うん、うん」と言いながら、嬉しそうに聞いてくれた。
「……そんなワケで、練習は大変だけど、頑張って続けてるよ」
「うん、安心した。ところで優生」
「何?」
「優生って、その『キュウさん』のこと好きなの?」
「…………………………はっ?」
私はスマホを落としそうになってしまった。
「だって、『キュウさん』の話をする優生の声がちょっと可愛かったから」
「ないないないないないないない!! それはないからっ!」
「優生、顔赤いよぉ」
「もぉ!カメラ使ってないんだから、顔が見えるワケない!!」
「でも好きなんでしょ?」
「だから違う!」
この後も私たちの女子トークは続いた。実は頬に熱を感じていたことを、真凛には必死で隠しながら……。
↓《4》に続く↓