皿屋敷考
私はこう見えて、結構合理的な人間である。
普段の生活はちゃらんぽらんなのだが、落語のセリフで合理的ではないセリフが入ると、『んっ?』と結構引っかかる。
落語『皿屋敷』で、青山鉄山がお菊さんを責める時にこんなセリフがある。
「お菊を荒縄で高手小手に縛り上げ………余った縄を井戸のくるまきに結びつけ………長いやつをズバー、袈裟がけじゃ。これからこれへザクッと切れた。かえす刀で結び目をプスッ。井戸の中へザブーン。無惨な最期」
高手小手、よく落語に出てくる言葉だ。天狗裁きなどにも出てくる。重罪人を逃亡できないように、両手を後ろに回し、首から肘、手首に縄をかけて厳重にしばりあげること、らしい。
くるまきは滑車の部分を指す。
まず引っかかるのが、くるまきに結びつけるという表現。滑車に結びつける?結びつけることも物理的には可能だが、その後、お菊を上げたり下げたり(省略してるがそういうセリフがある)するのだから、普通に考えたら、その滑車能力を使った方が合理的で、ここでは『井戸のくるまきにひっかける』という表現の方がふさわしいのではないだろうか?
もっとも引っかかるのが、『返す刀で縄の結び目をプスっ』という部分。
SMでめっちゃ縛り上げられてぶら下げられてる人を想像して欲しいのだが(余計に想像しにくいかもしれないが)、縄の結び目はだいたい身体に密着した部分にある。重罪人などなら、逃げられないようにする為に余計に身体に食い込んだ位置にあるはずだ。
袈裟がけに切った返す刀で、縄を切り落とすためにわざわざそんな所を狙う奴おる?
井戸のくるまきに結びつけたという先の表現が正しいとしても、人間がぶら下がっても耐え得るような太い荒縄の結び目(二重にも三重にもなっているはず)という、1番切り落としにくそうな場所を狙う必要ある?
ましてや、『プスっ』だから切ったんじゃなくて、突き刺している!一番切り落としにくい方法を選んで!!
わからん。
青山鉄山の気持ちがわからん。
ここでは、お菊を井戸の中に落とすのが一番の目的であるはずのに、やっている行動は一番落としにくい手段をことごとく選択しているように見える。
それ程、剣の達人ということなのだろうか。
青山鉄山。
私は君の事がよくわからない。
《さらに補足》
返す刀という言葉は、切り下げた刀を切り上げる、もしくは切り上げた刀を切り下げる、右に振った刀を左に返す、もしくは左に振った刀を右に返す、しかあり得ない。
返す刀で、『プスっ』はやっぱりおかしい。突き刺すという動きは返す刀にはなり得ない。
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