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『すべての人類を破壊する。それらは再生できない。』第11巻原作者コメンタリー
『すべての人類を破壊する。それらは再生できない。』第11巻の発売を記念した原作者コメンタリーです。
第10巻のコメンタリーはこちら。
第41話『俺たちの邂逅(中編)』
久遠との連続バトルの中編です。二番勝負の時点でルーが負けてはじめにバトンタッチするのはだれの目にもあきらかかと思い、回想のシークエンスなど、ドラマ部分をいつもと違う味つけにしました。
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『メルカディアン・マスクス』発売前のスタンダード環境では、エンチャントレスはトーナメントシーンで目立った成績を残していません(デッキ自体は存在しました)。そのため久遠のオーランカーは創作色の強いデッキ・レシピになっています。ホワイト・ライトニングの動きをギミックとして取り入れているのは、四積み必須のあの全体強化エンチャントがポリをコレされて、作中で白単ウィニーをあつかいづらくなってしまったためです。
サブキャラクターの多くは九十年代に活躍した著名人から名前をつけています。はじめの友人であれば浅倉と貴水(access)、加賀谷と松本(松本ハウス)、といった具合に。幕間で紹介されているルーの友人たちはフランス語で「一、二、三」を意味する「アン、ドゥ、トロワ」とかけて、響きが似ている映画監督の名前を拝借しました(アンヌ・フォンテーヌ、ドゥニ・ヴィルヌーヴ、トラン・アン・ユン)。
第42話『俺たちの邂逅(後編)』
久遠との連続バトルの後編です。コミックスの巻頭に収録されているルーのカラーイラストは、月刊少年エース本誌ではこのエピソードの扉絵でした。担当さんにリクエストはないか聞かれ、「スクール水着はこすりすぎたのでもういいんじゃないですかね」というようなことを伝えたところ、競泳水着を着たルーと慧美のイラストがあがってきて笑った記憶があります。まあかわいいからヨシ!
現在ではアルター・ドレイクは玉虫アルターという呼びかたのほうが一般的でしょうか。青単でも成立するのですが、久遠のキャラづけのため多色のデッキ・レシピを採用しています。《玉虫色のドレイク》にエラッタが出た関係上、作中で取り上げられるタイミングはここしかありませんでした。
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久遠がマジックアワーに入ったことを示す演出では、横田卓馬先生にアイルランドのトリニティ・カレッジ図書館をイメージして背景を描いてもらいました。
第43話『続・俺たちの祝典』
修学旅行編最後のエピソードです。この回の扉絵はHi-STANDARDの『MAKING THE ROAD』というアルバムのジャケットのパロディになっています。1999年といえばこれ、というかたも多いんじゃないでしょうか。ずっとあたためていたパロディのひとつなので、横田卓馬先生に超感謝です。
観光バスに乗るとき男子生徒たちがうたっているのは嘉門達夫の『修学旅行行進曲』。慧美が持っているショッパーはCECIL McBEE(によく似たブランド)のものです。九十年代末期からゼロ年代初頭にかけて、CECIL McBEEのショッパーは女子中高生のステータスで、駅なんかでよく見かけましたね。
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連載初期に「主人公とヒロインが結ばれておわりじゃなくて、その先が描きたい」というような話を当時の担当さんにしていました。恋愛をゲームになぞらえて「攻略」と表現する人がいますが、告白して成功することをクリアとするなら、その後の追加コンテンツのほうがはるかに長くて面白いし、攻略難易度は高くなります。この回の社長の台詞にはそんな思いをこめてみました。
第44話『俺たちの共同戦線』
おうちデート回です。これも前述の話題と関連して描きたかったエピソードのひとつですね。純喫茶しぶやま初代マスコットの名前は、『マジック:ザ・ギャザリング』のデザイナーであるマーク・ローズウォーター氏の愛称と、それにちなんだカードから。
『スターター』は日本語版未発売ということもあり、国内での流通はきわめて少なかったようです。僕は当時、存在すら知りませんでした。エアプですみません。
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このコマの台詞は進研ゼミの販促コミックのパロディです。『マジック:ザ・ギャザリング』から英単語や英語の構文を学ぶのは、当時の若年プレイヤーにとってはあるあるだったと思います。というのも、当時は(いまも?)言語によってパックに価格差があり、日本語版よりも英語版のほうが安価に入手できたんですね。『第4版』までは日本語版が発売されていなかったことも手伝って、古参プレイヤーほどカードを英語名で呼びます。本作ではときおりカード名にカタカナのルビをあてていますが、これには『デュエルファイター刃』の影響だけでなく、そういった背景もあったりします。
このエピソードの制作中、慧美の台詞に名前が出てくる古谷一行さんがご永眠されました。謹んでご冥福をお祈りします。
こぼれ話
昨年九月と今年の二月に、二回に分けて修学旅行編の取材を敢行しました。自腹で。
せっかくですので、ここであらためて修学旅行編で取り上げた各施設を振り返ってみたいと思います。
・博物館明治村
日本の名建築大集合的なテーマパークです。滞在時間が二時間ほどしか取れなかったのですが、ちょうどその時期コロナ禍が何度めかのピークをむかえており、平日だったことも幸いして目星をつけていたところはほぼ観ることができました。
はじめが来島と再会したのはフランク・ロイド・ライトの手による帝国ホテル中央玄関という建物になります。建築マニアのかたにおすすめです。
・志摩スペイン村
周央サンゴ特需に沸く志摩スペイン村は、ともいきの国 伊勢忍者キングダム(旧名:伊勢戦国時代村)とならぶ三重県の二大テーマパークのひとつ。ピレネーというジェットコースターが有名ですが、取材当日はあいにくの雨で運行休止となっていました。
来島との二連戦の舞台はハビエル城博物館という建物の一室です。実際にここでカードゲームをすると怒られるのでご注意ください。
・鳥羽水族館
慧美がひたすら悶々とすごしていた鳥羽水族館はかなりおすすめの水族館です。順路が決まっておらず、広い館内を自由に観てまわれて、ある意味オープンワールドです。
展示されている生きものも国内最多らしいので、いま行ったらテンション上がって「魚〜!」「チンアナゴ〜!」とかやっちゃうかもしれませんね。嘘ですけどね。クルミちゃん推しなので。
・ミキモト真珠島
鳥羽水族館とセットで行くのが板です。作中ではあまり掘り下げられなかったのですが、海女さんの実演だけでなく、真珠でできた王冠なんかも観れたりします。これは一見の価値ありかと。
僕はこの取材で真珠に興味が出てしまって、第43話のプロットを書いたあと安いネックレスを一個買いました。
・伊勢神宮
国内最強パワースポットは伊達ではありません。広い。とにかく広い。はじめが久遠と話しこんでいた場所はおかげ横丁という鳥居前町です。
余談ですが、僕はよくペンネームの苗字を「伊勢」と誤記されます。つきあいの長い編集さんや作家さんでも間違えるので、もうあきらめました。
こんなところでしょうか。
時間ができたらまたゆっくり各所をまわりたいですね。今度はKADOKAWAのお金で。
今回のコメンタリーは以上となります。
読み返してみると、「愛」という言葉がやたらと出てくる巻になっていましたね。大人になると軽々しく使えなくなる言葉だからこそ、「イマ」を全力で生きている子どもたちに言わせたかったのかもしれません。
次巻からはなにやら物語の核心に入りそうなイキフンですよ。お楽しみに。