![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/155916095/rectangle_large_type_2_e66dea684595bde73dba72054aa1a992.jpg?width=1200)
『すべての人類を破壊する。それらは再生できない。』第16巻原作者コメンタリー
『すべての人類を破壊する。それらは再生できない。』第16巻の発売を記念した原作者コメンタリーです。
第15巻のコメンタリーはこちら。
第60話『俺たちの千年紀』
八雲が八奈見杏菜もまっ青な負けヒロインぶりを発揮する回です。コミックス巻頭のカラーイラストはこのエピソード収録の月刊少年エースに掲載されたもので、椎名林檎の『本能』のアートワークが元ネタです。
《ハールーン・ミノタウルス》柄のデッキケースはスタイリスト私物ならぬ伊瀬私物です。裏面が《セラの天使》柄で、高級感があって中学生のころ愛用していました。サプライや関連書籍といった『マジック:ザ・ギャザリング』の周縁にフォーカスした描写はこれが最後になるかもしれません。
第13巻の原作者コメンタリーで書いた地名や施設名の元ネタ解説から漏れてしまいましたが、刈屋市は『マジック:ザ・ギャザリング』の次元の一つであるカルドハイムから、清海スノーパークは星界から名前をもじりました。清海スノーパークの看板に巻きついているのは《星界の大蛇、コーマ》です。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/155916098/picture_pc_e0fac67e347dfb7753d9f750f898818f.png?width=1200)
はじめと八雲が撮影したプリクラは、注意して見ないとなにが写っているかわからないようにしてください、と横田卓馬先生にお願いしました。印刷の関係でイメージよりもはるかに視認しづらくなってしまいましたが、くっきりさせると一部の読者が荒れそうな気がしたので、そのままにしています(笑)。
第61話『俺たちの訣別』
『ネメシス』発売前後のエピソードです。本来、八雲とルーの恋の結末は一巻ほど先で描く予定だったのですが、前巻あたりから最終話までの残り話数を決めてプロットを書く必要が生じ、構想とはやや異なるエピソードになりました。最終話までの構成を見直すため、本誌では分割掲載になってしまいました。その節はまことに申しわけございません。
扉絵はマライア・キャリーの『RAINBOW』のアートワークのパロディ。一駆が読んでいるのは羅川真里茂先生の『赤ちゃんと僕』、台詞にある「スウィート・ホーム・カミカワ」はレーナード・スキナードのサザン・ロックの名曲『スウィート・ホーム・アラバマ』と韻を踏んでいます。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/155916106/picture_pc_2c907f2e2dcb697627c01353471f96e8.png?width=1200)
『ネメシス』に関しては、正直語るほどの思い出がありません。というのも、よく遊んでいた一学年上の友人が高校受験をしていたり、同級生間でもブームが去ったりして、僕と『マジック:ザ・ギャザリング』に距離ができはじめていた時期に発売されたカード・セットだからです。ただ、連載準備中、横田先生にここまで描きたいと話していたのも『ネメシス』で、そういう意味では感慨深いものがありますね。
もしこのエピソードを読んで、ルーが久遠からはじめに乗り換えたとか、横恋慕していたとか、そういう解釈をされたかたがいらっしゃったら、「違う違う、そうじゃ、そうじゃない」と強めに言っておきたいです。でもキスしてるじゃないかって? それはそう。まあ、フランス人だからってことで! ルーにまつわるだいたいのことは「フランス人だから」で説明がつきます!
第62話『俺たちの最終戦争(前編)』
千年大祝祭でのはじめといとの師弟対決、慧美と八雲のキャットファイトを描く前後編の前編です。実質的にはここからが最終章ですね。このエピソードには、東野将幸さんと森雅也さんっぽい人がちらっと出てきます。
可児浦市の地名や施設名はどれもラヴニカに由来しています。入萩神社は《猪の祟神、イルハグ》、第61話の比丘尼百貨店は《火想者の高巣、ニヴィックス》にちなんで名前をつけました。白杜リゾートホテルの宴会場の名前は力線サイクルから。第63話で出てくる麓泥館は《迷宮の宮殿、リックス・マーディ》を鹿鳴館っぽくしたものです。
このエピソードでルーが使っているのはアウェイクニング・ライダー、または単にアウェイクニングと呼ばれていたロックデッキです。ほとんど描写がありませんが、対戦相手が使っているカウンター・スリヴァーとならんで、長らくエクステンデッドに花を添えていました。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/155916117/picture_pc_2d0e5b9686d1faf15178b240b269da0e.png?width=1200)
一応、はじめには主要なキャラクター全員と対戦させておきたくて、このタイミングでいととマッチメイクすることになりました。はじめは構築で使うようなカードではないと言っていますが、《稲妻のドラゴン》は同時期のポンザ・レッドで採用実績があります。
いとの変なポーズは『機動武闘伝Gガンダム』の東方不敗をイメージしたもの。来島のトレーナーは井浦新(旧名:ARATA)がかつて経営していた裏原系ファッションブランドのREVOLVERの、幕間に描かれているカードゲーム族の名前は『TOKYO TRIBE』シリーズのパロディです。慧美の「爆砕!! 厄災!! 大祝祭!!!」という台詞の元ネタは……怒られそうなので伏せさせてください。名前を出すと「オレはすでにキレているわ!!」という声が聞こえてきそうです。
第63話『俺たちの最終戦争(後編)』
千年大祝祭でのはじめといとの師弟対決、慧美と八雲のキャットファイトを描く前後編の後編です。印刷や予算の都合上、付録のプロモーション・カードは各巻で出てくるデッキをウィザーズ・オブ・ザ・コースト社さまにあらかじめお伝えした上で選んでもらっています。それを受けて僕がカードバトルの詳細を決めるという流れです。ところが今回はコミュニケーションエラーがあり(だれが悪いという話ではありません)、《噴出》を本編に出さずにこの回の原稿が完成してしまいました。というわけで、本誌掲載後にあわてて加筆修正したのがこちらのページです。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/155916125/picture_pc_36aa09b98fae16ae7e590cbe1d73ba3a.png?width=1200)
そんなトラブルがありつつも、このエピソードは珍しくカードバトルの展開を考えるのが楽しかったです。ブースター・ドラフトでの対決を一定量ページを割いて書くのは第5巻収録の19話以来でしたが、そのときよりカード・プールが広がったぶん、自由度が高くて。前回のはじめ対久遠が黒赤と白青の対決だったので、今回の慧美対八雲は白赤と黒緑にしました。
このエピソードの終盤では、成長した八雲の姿がちらっと描かれています。プロットでは外見に関しての指定はしていなかったのですが、ペン入れされた原稿を見たら彼女が胸囲的に……いえ、驚異的に成長していて悪くなかったです(なにが)。
こぼれ話
前回のこのコーナーでは、過去に本作に登場したデッキのなかから、個人的に気に入っているものをピックアップしてご紹介させていただきました。今回はその逆、もうマジで名前も見たくないデッキ三選です!
【ターボ・ジーニアス】
第12話と13話で†片翼の天使†が使用。中学生のころ組みたくても組めなかったあこがれのデッキは、二十年近いときを経て嫌いなデッキになりました。
カードバトルの展開を考えるときは、まず結末を決めて、そこから逆算して、ゲームの全体像が見えるような見せ場をいくつか設けます。その上で可能なかぎり自然かつリアルなゲーム展開にしようと努力するわけですが、何度やってもマリガンさせても三ターン以内にターボ・ジーニアスが勝つんだが!? という原作者泣かせなデッキでした。対戦相手が数マナぶんの動きしかできない序盤に、十マナ、二十マナぶんの動きができますからね。一本道ゲーがしたいのにオープンワールドを体験させられているような感覚でした……。
【オーランカー(エンチャントレス)】
第40話と41話で久遠が使用。『スペランカー』みたいな名前のくせに、クリーチャーがムッキムキに育ってさんざん僕が想定するゲームプランをぶちこわしてくれました。ルーのカササギ・ブルーとおたがいにドローしまくって丁々発止させたかったんですがね!
このデッキはドローが強いのはもちろんのこと、《怨恨》が軽くてなおかつエンチャントしたクリーチャー(ここでは《オーラトグ》)にトランプルを持たせてしまうのが厄介でした。ちなみにこの対戦を書いているころ、『マジック:ザ・ギャザリング アリーナ』では《無常の神》や《樹海の自然主義者》を採用した類似デッキがはやっていましたが、僕はそれも嫌いです。
【ピット・サイクル】
第51話から53話にかけて†アンゴルモア†が使用。ハリソン山中がこのデッキを手にしたら、「《ネクロポーテンス》と違ってドロー・ステップがありますが、《ヨーグモスの取り引き》でライフをよく支払います、ライフを支払ったほうが楽なので」と言うに違いありません。
このデッキが嫌いな理由はターボ・ジーニアスとだいたい同じです。一進一退の攻防を描きたいのに、カードが引けるしマナも出る。プレイングの選択肢が多いから、ゲーム展開を決めるための試行回数が増える。そのつどライフ・ポイントと手札を調整する。違和感なく†クラウド†零式のツイスト・ブラックに勝たせるため、最終的にあまりこのデッキに採用されていなかった《真鍮の都》を使わせてダメージ量を増やしたのはいい思い出です。
中学生のころ僕が組んでいたデッキのひとつではありますが、当時いかにカードも頭も足りず、本領を発揮できていなかったか思い知らされました。
以上のデッキは、ゲーム展開を決めるのに要した時間の最長記録を更新したものばかり。そして次巻では、これらのデッキ以上に僕の頭を悩ませ時間をうばったデッキがはじめに牙を剥きます。
以前、開封大好きよしひろさんのYouTubeチャンネルで公開されたインタビュー動画にて、八雲を「最終的に一番(中略)人間的に成長したなっていうキャラクターにしたい」と話しました。この巻で公約を達成できたのではないでしょうか。
泣いても笑っても残り二巻。次巻はどのキャラクターにスポットライトがあたるのか、はたまたあたらないのか、楽しみにしていてください。