不自由さとは、老いることなのか?
抗いたいのは、この足の痛みなのか?
タイトルに共鳴してこの本を開いてみようと思った人は、おそらく「年齢」というものを意識する機会を度々感じている人かもしれない。だがそれはきっかけの一つに過ぎないことに、ある時ふと気づくだろう。
物語は70歳を過ぎた主人公の「岬」が、ある日突然左足のつけ根の痛みに襲われ、もがき苦しむ場面から始まる。
ところで老いることは、生きていれば必ず直面する事実である。それは体の痛みや体力の衰えだったり、見た目の変化、物忘れが増えるだとか現象は様々であるが、いずれも現実に反映されたときのギャップを感じたときに、その事態について「老い」を認めるのかもしれない。
しかし、ギャップとは何に対してだろうか?
誰しも自分自身に抱いている「理想」があるはずだが、それが叶えられなかったとき——人は、自分にもどかしさを感じるような気がする。「こんなはずではない」と、認められない「自分という事実」に落胆したり、否定したり、嘆いたりするのではないか。
岬はいたって真剣だ。子供の時から今に至るまでずっと、目標を掲げて生きている。そこに忠実に従っている。
信念や哲学に基づいて生きる人は、強く見える。けれど、どうしてそうあらねばならなかったのか?
現代を生きる人々にとって、生をより良く全うすることは、果たして成し遂げなければならない義務なのだろうか。
「老い」がどんな役割をもってこの本に登場しているのか、読者によって受け取り方は変わってくる。実際にこの本の入口は誰にでも開かれていて、ひとつに限らないということを伝えておきたいし、この最も軽妙なタイトルから始まる何かにずっと裏切られている感触を楽しんでほしいと思う。
大真面目であることは、ひょっとしたら軽い。
(桂書房・編集部)
◉書誌情報
『老いは突然やってくる』
真山美幸 著
2023年6月24日刊行|四六判変・148 頁|ISBN978-4-86627-135-4