2024年度新歓公演振り返りブログ⑨ 作・演出 大里尚輝より

こんにちは!活劇工房新歓担当です📣

本日も2024年度新歓公演『聴診器』の振り返りブログをお届けいたします。
活劇ではどんな人が演劇をやっているのか、どのような想いで新歓公演に臨んだのかがわかる内容となっております。
もう活劇に入った方もまだ迷っている方も(もちろん活劇の先輩も!)楽しめるのでぜひご一読ください🎵

最終回の今日は、作・演出の大里尚輝さんに書いて頂きました!


はじめまして、こんにちは。活劇工房2024年度新歓公演『聴診器』の作・演出を務めました、文学部3年・活劇工房48期の大里尚輝と申します。

改めまして、新歓公演にご来場いただきましてありがとうございました。『聴診器』いかがでしたでしょうか。みなさまの心に残る作品になっていたでしょうか。

作品の振り返りとともに、作・演出をするにあたって私が考えていたことを書いていこうと思います。

私が聴診器の作・演出をするに先立ちまして、何かに迷ったときはまず、これを意識して判断基準にしよう!と、考えていたことがあります。それは、この作品が「新歓公演」で上演する作品である、という前提です。そこで、まずはターゲットを新入生に絞った舞台づくりを目指すことにしました。

これまで演劇経験のある新入生はもちろんのこと、大学に入って初めて演劇を選択肢に入れてくれた、将来有望な新入生に向けて、演劇とはどういうものなのかを分かりやすくお見せし、なおかつ演劇の楽しさ、すばらしさが伝わるものにしたい。そこが私の中での舞台づくりの軸になりました。


【そもそも、どうしてこの作品を新歓公演で上演しようと思ったのか。】

後にも書きますが『聴診器』の一番のテーマは「憧れ」でした。子から親への憧れ。弟から兄への憧れ。男と女の憧れ……。様々ありましたが、私はこのテーマの劇を新歓公演で上演することに意味があると思いました。
当日劇場でお配りしたパンフレットにも作演コメントとしてこう書かせていただきました。

「私がこの活劇工房を選んだのは、ここで出会った先輩たちに憧れたからに他なりません。新二年生のみんなもきっと去年の私たちを見て憧れて、活劇工房に入ってくれたものと信じています。きっと私の憧れた先輩たちも、そのまた上の代の姿に憧れ、その方たちもまた上の代に憧れ……その繰り返しの最前に今、我々は立っているのです。」

この、憧れという感情が人の営みの原動力になると感じた瞬間がたくさんありました。このサークルに限らず、誰しもが子どもの頃持っていた将来の夢や誰かに恋焦がれる思い。あるいは、妬みや劣等感といった一見マイナスなもののように見える気持ちも、その奥底には同じ「憧れ」があるのではないか。この公演には、私のそのような考えが大きく反映されていました。


【脚本・演出について】

ジャンルは戦時中を舞台とした時代劇。そして「憧れ」をテーマに据えた家族ほ物語。時代設定は遠く壮大な戦時中ながらも、家族という身近なコミュニティで起こる物語を描くことで、舞台の中に生きる人物たちに、親近感を持っていただこうと目論みました。

『聴診器』の原型の構想自体は、実はかなり前から考えてはいました。一番はじめに考えた設定では、登場人物は医者、息子(長男)、大工、軍人の四人。この時、母親は回想の中だけに出てくる存在で、次男や娘はこの時点ではいなかったし、話は今とは大きく違うものでした。元はどんな話だったかは、長くなるので今回は省きますが基本は最終的にできたものと同じ、医者から長男への世代継承の物語でした。

しかしこのプロットを文字に起こして改めて読むとある問題に直面しました。

シンプルにつまらない。

これはどれだけ巧い役者にやってもらってもつまらないと思いました。それに、かなり短い時間でまとまってしまいそうでした。中身も物足りない。

何が足りないのだろう……と、あれこれと自分の構想を客観的に眺めて出したのは、「人物の多面性」の描写不足でした。

具体的には、父に憧れる長男にも、また彼に憧れる人がいて、その人もまた誰かの憧れである……という連続性を持たせればより物語に深みが増すだろう、という結論です。メインは変わらず父子の世代交代譚。そしてその二人の周りにいる母親や次男、娘といった家族は何を思うか。またこの診療所にやってくる患者はどうこの家族に関わるのか……と、一つ一つ深めていくことにしました。そうしてだんだんとキャラクターが増えていき、上演した『聴診器』に近いものが出来上がりました。

ここからあとは、自分の中ではスイスイと事が運びました。実際に役者に登場人物として動いてもらいながら、脚本の足らないところを加筆したり、言葉では語らずとも、役者の動きや表情で補ったり……という作業の繰り返しです。

役者もさまざまなタイプの人が集まりましたが、ここらで一度、基礎から鍛え直すことにしました。初めて役者に挑戦する人もいたので、とてもいい機会でした。

活劇に限らず、さまざまな公演を見て常々感じていたことがあります。どの役者も、脚本を読み込んで自分の演じるキャラクターを理解する力はとてもある。ものすごく役の解像度が高いのです。しかし一方で、お客さんに見せる上で土台となる技術面がやや疎かになっており勿体無いなあ、という点です。
あくまで創作である舞台上の人物を、どれだけ本物に見せるようにできるかは技術がモノを言うと私は考えています。だからこそ、台詞の読み方、舞台上での歩き方、目線の使い方など、どんな劇のどんなキャラクターにも応用できることは全て伝えることにしました。具体的にどんなことを鍛えたのかは、入サーしてからのお楽しみです。逆に、普段役者をやることもある私も学びを得られました。

詳細はきっとそれぞれの役者がブログに書いてくれていることでしょうが、私はとてもいい稽古場だったと感じています。


【妥協のなかったスタッフワーク】

本公演ではスタッフに大変恵まれました。ここまでしてもらえる演出はなかなかいないと本気で思います。ここからは完全に座組自慢なので短めにします。

まずは舞台美術。戦時中の診療所という設定で、時代を感じさせながらも温かみのある、とで可愛らしい舞台を建てていただきました。壁の緑と白、扉に机と椅子、ラジオ、そして窓に至るまで全てがリアルな舞台。白衣の医者が立てば、どこからどう見ても診療室でした。

診療室の机に置いてあった本や写真立ては小道具プランの自作。完全に舞台に溶け込みつつ、よく見ればちゃんと医学書の背表紙になっているという拘りぶりです。そして劇中の重要なアイテムである聴診器は、医大を卒業された方がフリマアプリに出品していた本物で、胸に当てると本当に音が聞こえます。私も実物で自分の心臓の音を聴きました。

役者が身に纏っていた衣装も、ほとんどがこの劇のために特別に用意されたもの。次男や剛雄の衣装は買ってきた服や靴に汚し加工が施されていたり、軍服は学ランに襟章をつけて制作したりとこれだけでも凄いのですが、もはや目を疑うほどに作り込まれていたのが大工夫妻。大工の着ている法被と大工の妻の羽織りは柄がお揃いで、妻のほうはなんと上下どちらも完全に衣装部の手作りだというのですからもう大変です。脱帽するしかありませんでした。


舞台を彩るのは音響と照明、そして今回は映像を使用した演出を取り入れました。

音響ははじめに私からオープニングに使う曲を指定し、それに合う雰囲気の劇中曲、カーテンコール曲などを選んでいただきました。劇中のラジオの声や飛行機の音といった効果音も、ほぼ本物からサンプリングして流してくれていただいています。これらも舞台のリアルさを引き立たせるのに一翼を担ってくれました。

そして今回お褒めの言葉を多く頂戴した照明。窓から差し込む光や屋台の明かりなど、印象に残る場面にはいつも印象に残る照明がありました。今回私と照明プランナーが一致した拘りとして、LEDの照明は使わないというものがありました。そのおかげで時代劇の温かみと、自然な光を演出できたと感じています。音響照明ともに、オペレーターはかなり仕事が多かった舞台だったと思いますが、5ステージを完璧にこなしていただきました。二人が10人目、11人目のキャストと言っても過言ではないでしょう。

なにより今回自分でもワクワクしたのは、オープニング映像と曲に合わせて役者が一人ずつ出てくるという演出です。本番の二、三週間ほど前に思いつきで映像スチール部に映像製作をお願いしたのですが、大変質の高い映像を用意していただきました。今回は新歓公演ということで、新入生に先輩の顔覚えていただきたかった狙いもありました。それと同時に『聴診器』を見にいらっしゃる先輩方を驚かせる仕掛けを用意してやろう、といういたずら心から思いついた演出でした。おかげさまでその悪巧みは大成功を収めました。
映像スチールにはゲネプロ(リハーサル)の写真を撮るというお仕事もあります。SNSで見かける舞台写真はこの方たちが撮ってくださったもの。何故かカメラを通すとどの瞬間を切り取ってもカッコよく見えるんですよね。配信用の映像もこの方たちの撮影と編集です。骨の髄まで楽しんでください。

事前の宣伝にも力を入れてもらいました。時代劇の温かみのあるふたつのフライヤー。当時の看板を模した第一校舎外の立て看板。洗練された役者紹介画像。おしゃれなPV映像。そして当日配布されたパンフレットに配給切符を模したチケット。世界観が統一された、無駄のない宣伝美術のおかげで、全ステージがほとんど満員になりました。

そして、本番当日にお客様をお迎えし誘導した制作部をはじめとする当日運営の皆さま。
やってくるお客様は様々な立場でそれぞれの事情をお持ちです。一人一人に丁寧に対応し気分良く、劇を見ていただくためには、この方たちの活躍が不可欠です。大きなトラブルなく本番をを終えられたのは制作部さんたちのおかげです。

そして最後に、すべてのスタッフと役者陣を束ねた舞台監督。僕は彼に感謝を伝えきれていません。何のトラブルもなくすべての日程を終え、片付けまで無事に済んだのは、彼と彼の下で働いた舞台監督補佐たちのおかげです。本当にありがとう。


……と、このように、一つのたくさんの人の思いが寄せ合って成り立っているのです。そんな人たちの思いをお預かりし、一つ一つお返ししていくのが演出の仕事だと私は考えています。だからこそ、一番最初に名前が載るわけですね。
決して気楽な役割ではありませんが、色々な人に演出に挑戦してみて欲しいなと思います。

大変長くなりましたが、まだまだ伝え足りないことはたくさんあります。新入生の皆さん、ぜひ活劇工房でお会いしましょう。そして共に良い作品を作っていきましょう。お待ちしています!


5日間に渡る振り返りブログはいかがでしたか?
これを期に活劇工房に少しでも興味を持っていただけたら幸いです。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!

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