【ETH PoS化】The Mergeについて
こんにちは!
FUELHASHのインターン生AKIです。今回は、9月中旬に予定されているEthereumのPoS化(通称:The Merge)について、これまでのおさらいと今後の予想を解説していこうと思います。
Ethereum 1.0 (PoWチェーン)
Ethereum 1.0とは
Ethereumとは、ブロックチェーン上でプログラムを実行するためのテクノロジーであり、その独自通貨としてイーサ(ETH)が存在します。2013年にヴィタリック・ブテリン氏がホワイトペーパーを発表し、これをもとに作られました。
Ethereum 1.0とは、ブロックチェーンの承認方法にPoW(Proof of Work)を採用している、従来のEthereumのことです。
現在、Ethereumは時価総額第2位の27兆円を記録している業界を代表する仮想通貨です。
Ethereumの人気拡大の要因の一つにスマートコントラクトの実装があります。スマートコントラクトとは、条件が満たされたときに自動的に取引を実行するプログラムです。
Ethereumでは、スマートコントラクトを用いたdApps(分散型アプリ)を構築することが可能であり、これによりDeFi(分散型金融)の発展やNFTの取引がEthereum上で活発になりました。実際に、現存するDeFiのアプリケーションの約95%はEthereum上に存在しています。
Ethereumは、2015年にスタートした古参プロジェクトであることや、dAppsの数の多さ、さらには企業による利用なども進み、Bitcoinと共に他のコインとは一線を画す存在です。
課題
画期的なブロックチェーン技術であるEthereumでしたが、いくつかの課題が存在します。
まず一つが、スケーラビリティ(拡張性)の問題です。スケーラビリティとは、システムの規模の増大にどれほど応えられるかの度合いです。
Ethereum利用者の大幅の増加に伴い、処理速度の低下が利便性を損なっています。また、取引実行数に比例する手数料(ガス代)の高騰もまた、利用者を苦しめる一因となっています。
元来ブロックチェーンには、スケーラビリティ・分散性・セキュリティーの三つが鼎立するトリレンマが存在します。Ethereumは、分散性とセキュリティーは担保できましたが、スケーラビリティには課題が残っています。
ノードとは、取引情報の監視や管理、取引承認などを行う通信機器(PC)のことです。マイナーたちも、マイニングにより取引を承認するノードです。
また、Ethereum 1.0は持続可能性の面でも問題を抱えています。
PoWアルゴリズムでは、コンピューティング能力を維持するために莫大な電力を消費します。デジタル経済調査サイトのデジコノミストの調査によると、Ethereumはオランダの年間消費量に匹敵する113T(テラ)Whの電力を使用しています。
他にも、PoWマイニングは専用の電子機器を必要とすることも多く、これらのゴミは環境に多大な負荷をかけることになります。
Ethereum 2.0 (PoSチェーン)
これら課題を解決するためのバージョンがEthereum2.0です。
イーサリアムの生みの親であるブテリン氏は長年PoSメカニズムへのアップグレードを支持してきました。
Ethereum 1.0との大きな違いは三つあります。
PoSアルゴリズム
なんと言っても大きな違いは、PoWからPoSへとコンセンサスアルゴリズムが変わったことでしょう。
PoS(Proof of Staking)とPoWは、ブロックの承認者の選出方法に違いがあります。
PoWでは、新しいブロックを生成(承認)して報酬を獲得するべく、マイナーたちがハッシュレートを上げ、競い合っていました。
一方PoSでは、ユーザーのステーキング(保有)している仮想通貨の合計数とステーキングした時間に応じて、バリデーター(承認者)を選出します。
選ばれたバリデーターは、新たなブロックを承認する権利を与えられ、この作業をこなすと、報酬が付与されます。
Ethereum 2.0のPoSでは、最低でも32ETH(9月6日現在、約730万円相当)を預け入れすることによりバリデーターノードとなることができ、承認者になる資格を得ます。(よくある間違いで後述)
最後に、PoSとPoWを比較した際のメリットは以下が挙げられます。
マイニング専用機器のような、高価なハードウェアが不要。
エネルギー効率が良い
ネットワーク中央集権化へのリスクが低い
エネルギー効率の向上はイーサリアムがサステナビリティを追求する上で非常に重要です。
以下はEthereumの公式ホームページに掲載されていた、The Merge後の年間消費電力量を比較したグラフです。
PoS化することで、約99.99%のエネルギー消費がカットされ、動画配信サービスなどに比べて年間消費電力が圧倒的に少なくなることがわかります。
シャーディング
しかしながら、PoSアルゴリズムにアップデートされても、取引が一本道であり「渋滞」が起こっている現状は変わりません。そのため、Ethereum 2.0で導入されるのが、シャーディングです。
シャーディングとは、データベースを分割することで負荷を分散させる技術を指します。Ethereum 2.0では、64個のシャードチェーンに分割することでスケーラビリティの向上を目指します。言うなれば、渋滞の起こっている道に対して、横道を作ってあげる感じです。
バリデーターは、それぞれのシャードチェーンで分割されたデータを処理すれば良いため、負担が減ります。そのため、より多くの人々が参加することが可能になり、より堅牢なセキュリティ、および安価な手数料、そして高速なデータ処理が可能になります。
実際、ロールアップ技術の普及と併せて、ガス代が0.002 - 0.05ドルまで落ち着くだろうと予想されています。
現在は、The Mergeが優先されているため、シャードチェーンのアップグレードはThe Merge後に本格的に議論されるそうです。
ビーコンチェーン
ビーコンチェーンは、EthereumのPoS化の導入を可能にする、及びシャードチェーンの統制を図る役割を持った、2020年12月にリリースされたEthereum 2.0のメインチェーンです。
しかしながら、PoWで動作する既存のブロックチェーンとは異なり、ETHの送金やスマートコントラクトの処理をすることはできません。そのため、取引の処理を可能にするためThe Mergeを行い、既存のチェーンを「取引をメインにする」実行レイヤーとする必要があるのです。
ビーコンチェーンは、The Merge後に予定されているアップレードでシャードチェーンが導入されたのちは、各シャードに対してランダムにバリデーターを割り当てる役割を負うことになります。ランダムに割り当てることで、不正な取引承認を防ぐことが可能になります。
The Merge
Ethereum 1.0が今のEthereumメインネットとして稼働しているのは当たり前ですが、Ethereum 2.0も既に稼働しています。
稼働しているEthereum 2.0はビーコンチェーン、つまりPoSレイヤーです。ステーキングも開始されていますが、現在はあくまで別個のチェーンに留まっています。
Ethereum1.0とEthereum 2.0を一つに統合して、メインネットがビーコンチェーンに統合されることをThe Mergeと呼びます。結果的に、メインネットをビーコンチェーンによって管理制御される、PoSシステムに基づいたEthereumになります。
テストネットにおけるマージは単にマージと呼ぶことが多いです。
The Mergeは "Bellatrix"と"Paris"の二つのアップグレード期間を経て行われます。
開発進捗
マージを行う最後のテストネットである"Goerli"は8月11日にマージを完了しました。既に他のテストネットである、"Ropsten"と"Sepolia"もマージを完了していて、一連のリハーサルは終了しています。
冒頭で9月の中旬ごろの行われると述べましたが、筆者がこの記事をのんびり書いている間に、イーサリアム財団によって正式な日程が決定してしまいました。
Beacon Chainを起動する"Bellatrix"アップグレードを9月6日の協定世界時(UTC)11時34分47秒(日本標準時:20時34分47秒)に実行されます。これが、The Mergeに向けた最終プロセスの始まりです。
これ以降の期間に、設定された最終合計難易度(Terminal Total Difficulty : TTD)に到達すると自動的に"Paris"アップグレードが開始され、次のブロックはPoSチェーンであるビーコンチェーンとバリデーターによって生成されます。生成はTTD到達の約13分後に行われ、このブロックの確定をもってThe Mergeが完了したとみなされます。
合計難易度とは、そのチェーン上の全てのブロックの難易度の合計のことを指します。つまり、最終合計難易度とはPoWチェーンで生成される最後のブロックまでの難易度の合計ということであり、そのチェーンで作業がどれほど行われたかを示します。採掘難易度はマイニングのハッシュレートにも依存するため、TTDに到達するタイミングは不確定です。
Ethereumではプライベートブロックチェーンを構築可能なため、例えばThe Mergeのトリガーをブロックの合計生成数としてしまうと、悪意を持った開発者がプライベートチェーンを用いて先に条件を達成し、The Mergeが混乱に陥る可能性が考えられます。
そのため、メインネットで正しくThe Mergeが行われるように、攻撃者がハッシュレートを獲得して妨害できないように、合計難易度を用いたTTDをトリガーとして設定しています。
イーサリアム財団は、9月10日〜20日の内にTTDに到達すると予想しています。一方で、予測サイトの"Bordel.wtf" 及び "797.io/themerge" のウェブページで確認できる到達日は、現時点で共に9月15日と予測されています。
よくある勘違い
Ethereum公式ウェブサイトはThe Mergeを控え、よくある勘違いを更新しました。
まず、ノードになるために32ETHが必要であるというのは間違いであるそうです。ノードには2種類存在し、バリデーターノードと一般ノードがあります。
PoSステーキングを行い、報酬を受け取るバリデーターノードとなるためには、最初にETHを預け入れる必要がありますが、無報酬でEthereumを支える一般ノードになることは誰でも可能であるとしています。
他にも、The Mergeはネットワークキャパシティに関して変更を加えるものではないため、The Mergeによって直接ガス代が下がるのではなく、PoS化が先駆けとなるロールアップ技術によってガス代が変わるとしています。
同様に、The Mergeによってトランザクションの速度が劇的に向上することはなく、ほぼ同程度にとどまるだろうと説明しています。
After The Merge
では、The Mergeの後には何が起きるでしょうか。
ETHの価格推移
結論から述べると、EthereumはThe Merge後、デフレ圧力が働き(ETHの相対的な価値の上昇)、価格を上昇させる可能性が高いのではないでしょうか。
Ethereum公式サイトによると、The Merge前の現在、発行量は次のとおりです。
しかし、EthereumはThe MergeでPoS化することでマイニング報酬がなくなり、ステーキング報酬のみになります。そのため、1日の新規発行量が約90%減少し、資産としてのインフレ率が0.46%にまで落ち込みます。
一方で、取引にかかるガス代のバーンは変わりません。ガスの価格を平均16gwei(gwei = 10^-9 ETH)とすると、毎日およそ1600ETHがバーンされます。
つまり、取引量の推移次第では、Ethereumの正味の発行量がゼロもしくはマイナスまで落ちる可能性があります。そうすれば、「供給の落ち込み」が起こるため、価格の押し上げが起こる可能性が高いと考えられます。デフレ的圧力のかかる資産となるということです。
更に、既にビーコンチェーンでステーキングしてあるETHやステーキング報酬・新規発行されるETHはロッキングされるため、The Merge後およそ6ヶ月〜1年の間は引き出せません。取引の際のチップは引き出せるものの、流通量は多くないです。
"Shanghai"アップグレードで出金できるようにする計画ですが、非流動的な状態が数ヶ月の間続くことになります。つまり、市場に出回る量が更に絞られるため、デフレ圧力が強まり、価格の上昇が起こりやすくなるでしょう。
しかし、次に説明する分裂が起こった際には、市場に混乱が大きく生じ、ETHPoWへの流入もあり、価格が下がるでのはないでしょうか。
ETHPoWとETHPoSへの分裂
The Merge後に起きると噂されている現象の一つに、ETHPoW(ETHW)とETHPoS(ETHS)への分裂があります。
あくまで可能性程度にとどまっていますが、The Mergeのタイミングでハードフォークが行われ、ブロックチェーンが分裂しETHWとETHSが誕生するのではないかとされています。
ETHWは、従来どおりPoWコンセンサスアルゴリズムによるマイニングができるEthereumを意味し、ETHSは、PoSアルゴリズムによるThe Merge後本来のEthereumです。
この分裂はもちろん公式によるものではなく、中国の有力マイナーであるチャンドラー・グオ氏が、マイナー達が同じマイニングマシンで報酬を続けて得られることを目指すために、ETHW分岐のプロジェクトを発足し始まりました。
これを受けて、後述する海外取引所Poloniexの主要投資家であるジャステイン・サン氏が、このプロジェクトのサポートを表明しました。
現在、暫定ガバナンスグループのEthereumPoWが立ち上がり、内部の開発組織ETHW Coreが活動を始めています。8月26日にはETHPoWのテストネット第一号"Iceberg"を発表しています。
取引所の対応
このETHW・ETHSへの分裂の可能性に対して、取引所の対応をいくつかご紹介します。
各取引所によって対応が異なるため、ETHの分岐に伴ってETHWの受け取りを狙う場合には、適切な取引所を選ぶ必要があります。
①bitFlyer
国内大手仮想通貨取引所のbitFlyerは8月22日に対応方針を発表しました。
お知らせによると、ETHPoWのトークンが誕生する可能性を考慮し、状況によってはETHPoWトークン現物での付与、取扱い、または価値相当額の現金の交付を検討するそうです。
また、日本国内でETHWの取引を始める場合は、一般社団法人日本暗号資産取引業協会(JVCEA)等の審査を経る必要があると述べており、仮にETHPoWが誕生したとしても対応等の柔軟性は低いかもしれません。
②Poloniex
ETHPoWを推進するジャスティン・サン氏が主要投資家である海外取引所Poloniexでは、8月4日にETHPoWへの対応を早くから表明しました。
同取引所は、The Merge後にチェーンが分岐した場合、取引所でETHを保有していたトレーダーはフォークにより生まれる資産(ETHW)を1:1の比率で受け取る、としています。
また、ETHWの取引を提供しており、ETHPoWのフォークが成功した場合はETHWの市場は残ることになります。
ETHPoWに対して対応の早い取引所は既に先物取引を開始しています。主なところでは、Poloniex・Gate.io・MEXC・CoinMarketCapで取り扱いがあります。
持続性に疑問
取引所が対応を迫られている一方で、市場のETHWへの期待が薄まっているとの指摘もあります。既にETHPoWをIOU(借用証明書)で上場させていたcoinmarketcapのチャートが以下になります。
上場当初の高値である19,000円から7,000円ほどまで価格を大幅に下げており、1日あたりの取引高も約70%減少しています。
当初は盛り上がりを見せたETHWですが、アプリケーションやエコシステムに関する情報の少なさから、重要な情報が見えてこず、トレーダーが離れた可能性が高いでしょう。
エコシステムを構築するためには、DeFiや関連企業がETHPoWに対応する必要がありますが、既に対応しない声明を出している企業もあります。
ステーブルコインUSDTの発行企業TetherはフォークされるETHPoWチェーンに対応しないことを既に発表しています。同様に、DeFiに必要なオラクルプロバイダーのChainlinkは、ETHPoWフォークをサポートしないと公表しました。
Ethereumを支えるNFTの分野も、ETHPoWでサービスを展開することはなさそうです。弊社のらんまるNFTも取り扱っている、世界最大級のNFTマーケットであるOpenSeaは、ETHPoSにのみ対応することを発表しました。先日、NFT制作スタジオのYuga LabsもETHPoWチェーンをサポートしないと公表していました。
Ethereum Classicへの流入
一方で、Coindeskによるとマイナー達が、Ethereum Classicに流入する可能性も示唆されています。
Ethereumマイニング業界は、およそ190億ドル規模にまで成長しており、マイニングができなくなるEthereumから離れる必要が出てきます。マイニングプール(集団)の移動先として、冒頭コラムで解説したEthereum Classicが噂されています。
Ethereum Classicは長らくEthereumに比べて目立たない存在でしたが、7月中旬に150%近く高騰するなど、その兆しを見せています。
他にも、マイニングプールのアントプールはEthereum Classic関連に1000万ドル投資したと発表しています。
ハイブ・ブロックチェーンのキリック氏は、現状Ethereumブロックチェーン上に存在しているDeFiやNFTの開発者がPoWブロックチェーンを好めば、Ethereum Classic上に移行してアプリケーションを展開する可能性もあるだろうとしています。
同記事ではEthereum Classicを代表として述べていましたが、収益性の高い他のPoWコインへマイナーたちが流入することは十分ありえると考えられます。
まとめ
今回は、来るEthereumのThe Mergeについてその内容と今後について解説しました。The Mergeは仮想通貨業界における一大イベントであり、全てを網羅できた訳ではありませんが、少しでもためになれば幸いです!
弊社では、マイニングや最新のトレンドのクリプトプロジェクトについて記事にしています。また、9月は豪華景品の当たるキャンペーン「FULMINING祭」を実施しています。ぜひご参加ください!
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