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『spring』を読んで、表現の在り方を考えさせられた

去年の年末に放送されたお笑い番組「爆笑問題の検索ちゃん」で、バカリズムがやっていた食リポのネタがおもしろかった。「食リポ便利ワード一覧表」を提示して、これさえ言っておけば大丈夫というネタ。笑いつつも、僕自身たまに食レポ記事を書くことがあるので、少し考えるところもあった。

芸術を表現する際、文章にするとどうしても似たり寄ったりの形容になってしまう。激しい音楽は「アグレッシブ」「攻めてる」「高揚感がある」など。特に優れた芸術に対峙した場合、それを文章にして伝えようとすると、逆に陳腐な表現になってしまい、その芸術作品の評価を下げてしまうことすらあるのではないか。そんな苦悩がある。

表現者のそんな悩みに一つの答えを出しているのが、恩田陸さんの『spring』だ。今回はこの本について深掘りしていきます。

表現不可能とされたバレエの世界観

『spring』のテーマはバレエ。本作は、天才バレエダンサーで振付家でもある人物・萬春の生涯を追った物語です。作者の恩田陸さんはこの作品を完成させるまでに、構成・執筆で十年の月日を費やしたと言います。

取材を進めていくなか、バレエを小説で表現するのは不可能だと言われたこともあったそうです。BSテレ東の番組「あの本、読みました?」で取材に付き添った担当編集者がそう明かしていました。

ただし、本作を読んでいくと、実に巧みな表現で、バレエを描いていることが分かります。ダンサーたちの生き様が見事にバレエに表れており、読んでいく中でただただ感心しました。

想像の世界とリンクさせるという技法

どんな書き方をしているか詳しく読んでみると、踊り自体をあらゆる語彙を使って形容するというやり方のほかに、想像を膨らませたストーリーを提示し、そこに人物たちの心理状態を投影させるものがあると気づきます。

まさしく想像は無限大!作品のスケール感が大きくなりますし、これこそ小説にしかできない表現技法だと感じます。描写力がある土台のうえに、やはり丁寧かつ膨大な取材があってこその描き方なのでしょう。

以前、本屋大賞を受賞した『蜜蜂と遠雷』にも見られた技法でもありますね。そんな作者目線で本作を読み進めると、ここで筆がのってきているなと感じる場面も多々あり、より読者も巻き込んでいく一体感が得られます。

作品の構成も見事

優れた描写力に加えて、作品の構成も見事だなと感じます。本作の主人公は萬春だと言えますが、第一章から第三章にかけては、当時の春とかかわりがあった人物の視点で語られます。客観的に書かれることで、萬春の天才性がより浮き彫りになる形です。

しかし、最後の第四章では、萬春自身が語り手となっており、人間らしい部分が垣間見えることで、天才性は薄くなった感じがします。ただし、それは才能と努力が重なった人物がより真の天才だという証明になっているのかもしれません。

プロ野球選手のイチローさんが最近は取材によく応じるようになって、より人間らしい一面が見られるようになり、さらに天才だと感じるようになったというのにも似ています。

ニンが見えると、感動の幅が広がる

先の食レポの話に戻すと、より魅力が伝わるようにするには、作り手の料理人の生き様や思いに言及するというところかもしれません。最近よく漫才でも「ニン」が見えると、さらに引き込まれるという考察をする人がいますね。

その人(作り手)のニンが見えると、ただのお気に入りから、根強いファンへと変わっていく。作り手側はいかにその人の素性を織り交ぜながら伝えられるかが、今後の表現の要になっていくのかもしれません。

ということで、僕ももっとプライベートなところをさらけ出していこうかなぁ。まあ、おいおいで(笑)


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