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僕のコピーライターの仕事。

最近、左ききの道具店にエネルギーを割いている。noteでもお店の話が増えている。この傾向は加速していくのだろう、と予想しているのだけれど、僕の本業というか、専門分野は変わらずコピーライターだ。

そう、僕はコピーライターなのだ

……とは言ったものの、実のところコピーライターの仕事を、完全に説明できるかと問われると困ってしまう。「広告のキャッチコピーを書く仕事です!」と説明ができたのは、もうずいぶん昔の話。これだけコミュニケーションが多様となった今では、コピーライターごとにその定義が揺れていてもおかしくない。

と、そんなエクスキューズを前段に置きつつ、あくまで僕のコピーライターとしての仕事を書いてみようと思う。小売と二足のワラジを履いた今だからこそ、本業を言語化した方がいい気がするのだ。たぶん数年後には変わってしまうだろうから。


僕の仕事の最終的なアウトプットだけ取り出せば、ウェブと紙のツール、そしてサービスのネーミング等に集約される。具体的な案件を知りたい人は上記のサイトを見てもらうとして。

分類してみると、コーポレートサイト、サービスサイト、採用サイト、会社パンフレット、営業パンフレット、採用パンフレット、広報誌、商品ネーミング、プロモーション動画、ときどきCMや新聞広告などの純広告と呼ばれるものがある。

ただ、これだけ並べても僕の仕事は見えてこない。

大事なのは、各ツールのアウトプットに至るまでにどのような役割を担ったかだ。僕は、明確に2つのスタンスで仕事に臨んでいる。


答えを出す。

僕に声がかかる案件の、体感80%ぐらいが「コンセプトストーリーを書いてほしい」というもの。声の主の多くは制作会社かデザイナー、ときどきカメラマン。受注がほぼ決まり、制作物も大枠決まっている。でもコンセプトが決まらない。一本筋を通す言葉がほしい。そんなときに思い出してもらう場合が多い。

この状態、僕は明確に「答えを出そう」というスタンスで取り組む。「問い」はもう出ているのだ。求められているのは、チームにいるすべての人が、心地よく腹に落ちる言葉。これが実現できれば問題を解決できるよね、よし後はつくるだけだ!と思えるストーリー(すごく便利なやつ)。

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こんなとき、僕が大事にしているのはテクニカルなコピーワークではなく、情報の整理。すでにある情報をゴールに向かって丁寧に並べていく。まだない情報を収集して補填する。ここにクリエイティビティは必要ない。ひたすら合理的に情報を紡いでいく。実のところ、僕の仕事の70%〜80%がこの時点で完了する。

残りは仕事のうち半分は、短く具体的な言葉に置き換えていく作業。もう半分は、チーム全員が納得できるための資料づくりだ。

僕は、とりわけ後者に重きを置く。昔はきれいなパワーポイント資料を作っていたけれど、今はもっぱらテキスト。ほとんど口語体で、案件の目的、ゴール、情報の整理、抽出したポイント、懸念される課題、解決するためのプロセス、制作物の内容、コンセプトとなるコピー、ボディコピー、今後想定されるフォローツールなど、ぜんぶ書き出す。

思考のプロセスごと共有できれば、コピーワークについて指摘が入ることは少ない。場合によってはつくるものが変わることも多いが、そのときも納得してもらえる。クライアントがほしいのは素敵なコピーではなく、課題解決への具体策なのだから。


階段をつくる。

もう一つ、僕が案件に向き合うときに意識することが、「答えを出さない」だ。いきなりすごい矛盾するけれどそうなのだ。答えを出すのは僕じゃない、あなたです。というスタンス。これは、いわゆる「ミッション」「ビジョン」「バリュー」をはじめとする、企業の根幹を言葉にする仕事において特に心がけている。

広告やツール類の寿命は短い。情報が古くなれば刷新しなければいけないし、流行にも左右される。そのときどきに、最適な外部のクリエイターを選んでいけばいい。

でも、会社の存在意義を定義するような言葉の寿命は長い。5年、10年、ときにもっと長い間使われることになる。そういった言葉は必ず自分たちの中にあって、外から持ってきても馴染まないことが多い。だから僕の役目は、言葉を社内から掘り起こすことだ。全社員へのアンケート、キーマンへのインタビュー、さらには主要メンバーへのワークショップなどを通して、その会社の風土にフィットするキーワードを探していく。

キーワードが見つかったらそれを軸に言葉にしていくが、大体においてそこからが長い。人間というのは、視覚で捉えて初めて意識できるところがあって、たとえ自分たちから出た言葉でも、あらためて文章にされると違和感が生まれる。確かに僕らの言葉なのに、なんか違う。そこからはヒアリングと言葉の置き換えの繰り返しだ。

これを僕は「階段をつくる仕事」と呼んでいる。階段は言葉で、階段を登っているのはクライアントだ。一段昇れば違う景色が見える。その印象を踏まえて、もう一段、もう一段と増やしていく。この仕事には、僕の個性やセンスが入る隙はない。ただただ、頑丈で踏みやすい階段づくりに徹するのみだ。

僕が仕事をする上での2つのスタンス。現時点では、前者が8、後者が2ぐらいの割合だろうか。でも、これから数年かけてこのバランスを逆転させたいな……とたくらんでいる。その上で、今後特に強化したい、突き詰めていきたいと考えているのが「ブランディングを言葉の領域からサポートする」仕事だ。


ブランディングの方角を言語化する。

いわゆるブランディングという言葉が持つ意味は広い。その定義は専門家に委ねるとして、僕の周辺で観測されるブランディングの仕事は大体以下に集約されていく。

・企業のショルダーコピーの作成
・ミッション、ビジョン、バリューの作成
・新ロゴ、新カラーの作成
・新メインビジュアルの作成
・ロゴ、カラーに合わせた各種ツール(看板、名刺、ウェブサイト、営業ツール等)の統一

ごく端的に言えば「見え方を変える」ブランディングだ。これは「答えを出す」仕事としては、かなり寿命が長く影響力が大きい部類に入る。ガラッと印象が変わるし、外の人はもちろん、中の人にも「会社が変わっていくんだな」という意識を与えられる。クリエイターの仕事としても、幅広い領域に関われる楽しい仕事のひとつだと思う。

ただ、こういう仕事にいくつも関わらせていただく中で、僕は長いこと疑問に思うことがあった。

「納品後、社内の人はこれを更新できるのかな?」

ブランドを積み重ねていく行為をブランディングと呼ぶのならば、見せ方を変えるのはスタートラインにすぎない。重要なのは、そこからどんなアクションを取るか。

新しいサービスやプロダクトをつくる。営業方法を刷新する。社員教育に力を入れる。経営方針をアップデートする。そのすべての根幹に、ブランドが向かうべき方向が影響していくはずなのに、納品後、「見え方」が変わっただけに留まってしまうケースが少なくない。

すごくもったいない。

素晴らしいデザイナーから生まれるロゴやビジュアルというのは、クライアントが想像する以上に深く考えられていて、そこには確かに企業の未来が詰まっている。でも、それがうまく伝わっていない。自分たちの血肉に変わっていない。そして、僕はこう思う。

これ、単純に言葉が足らないのではないか?

思うに、企業のショルダーコピーやミッション、ビジョン、バリューといった言葉は抽象度が高すぎるのだ。航海をする上で北極星にはなれるかもしれないけれど、推進力にはなれない。もっと現場の人レベルが使える、道具としての言葉がつくれないか。

そんなわけで、今、少しずつ「道具として使える言葉」を整えようとしている。具体的にはこんなやつ。これを、今と未来を行ったきたりしながら言語化していく。

・市場における自分たちの立ち位置
・自分たちのサービスを購入する人
・サービスが購入される理由
・自分たちが社会に提供できる価値
・自分たちが目指す場所 
・etc…

商品開発の目線でみると、すごく普通。マーケターから見たら当然じゃん、って話。でもそれを会社全体に置き換えたとき、部門ごとに分けたとき、ひとつ一つが言葉として明確に定義されている & 社員全員が同じ答えを出せる会社がどれだけあるだろう。僕は結構疑問を持っている。で、これを外部が「答えを出す」のではなく「階段をつくる」やり方で取り組みたいなと。

一緒に情報を整理して、抽出して、最後に僕がコピーとして昇華する。そのすべてのプロセスを解放していく中で、自分たちの足下の輪郭や未来を高い解像度で共有する。で、その上で、ミッション、ビジョン、バリューといった言葉や、ロゴやビジュアルといった表現の領域に進んでいけばいい。

多分、大きな企業がコンサルファームと広告代理店に投げれば、十二分な答えが返ってくるに違いない。でも中小企業にとってはどうか。リソースが限られているからこそ、殊更に自分たちの今と未来を言葉にする必要があるのではないか。僕が役に立てるのではないか。……なんてことを考えている。


書きながら、これってコピーライターの仕事だったっけ? という疑問が湧いてきた。でもいいのだ。コピーライターを称する僕の仕事なのだからいいのだ。と、強引におさめて終わりにする。最後まで読んでくれた人、ありがとう。もし相談したいなと思ってくれたら、いつでもご連絡ください。仕事、待ってますよ!

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加藤 信吾|LANCH Inc. 左ききの道具店
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