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最近、ウロウロしていないので。

僕は考えに行き詰まると部屋の中を歩き出す癖がある。特に重めの企画書や原稿を書いているときは、数十分に一度部屋の中を無言で歩き回る、ちょっと目障りなヤツになる。

ディスプレイを睨んでいると思えばおもむろに立ち上がり、ウロウロし出したと思えば、あっ!とか言いながら急いでイスに戻る。そしてまたしばらくすると席を立って歩き出す。これはもう染み込んだ習性みたいなもので、隣のデスクで働く妻には悪いのだけれど治りそうにない。

で、ふと気づいたのだけれど、最近ウロウロする数が減っている。

悪いことではない。行き詰まっていないのだから。でも、少し考えてみれば、コロナの影響で新規案件が軒並み延びたし、口座残高は目減りするばかりだし、手元の案件は難易度が高いものばかりだし、課題がないはずはないのだ。

それでは、なぜ僕はウロウロしていないのだろう。

なんてことを思い巡らせている時点で、結構な余裕がある証拠なのだけれども。せっかくだから思考を続けてみると、不意に納得する答えが見つかった。僕がウロウロするときは、いつも言葉を探していたんだ。

企画書のコンセプトコピー、キャッチフレーズ、本文中の別の言い方など、もっと相応しい言葉探して、僕は周囲を歩き回る。目に付く本のタイトル、テレビで流れるテロップ、デスクに貼ったメモ、そういった偶然との出会いに期待しつつ、ダイヤル錠の番号を総当たり打ち込むように、歩きながら言葉が見つかるのを待っていた。

逆にいえば、僕が今ウロウロしていないのは、言葉を探していない。開けるべきドアまでたどり着けていない状況とも言えるわけで。……つまり、僕はボンヤリと突っ立っていて、あかるい方はどっちかな、なんて周囲を見渡しているような隙だらけの状態のようです。強盗がきたらイチコロだ。

こういう時期は、年に一度ぐらいやってくる。だいたいは繁忙期と繁忙期のあいだに。ときどきフェーズの変わり目に。ただ、多少なりともキャリアを積んできたので、こういう時期は慌てず、本を読んだり考え事をするチャンスだということも知っている。

そんなわけで、7月から日経新聞の購読をはじめました。

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最近、クリエイティブ系の本ばかり読んでいたので、その反動です。いまさら? いいのです。そんなところから始めるのです。

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加藤 信吾|LANCH Inc. 左ききの道具店
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