Partner Interview 04 [稲垣佳乃子(さりげなく)]
LANCHは、さまざまな分野のパートナーに支えられて仕事をしています。対等な立場で課題に向き合い、フラットに意見を交わしながら取り組むことのできるありがたい存在。ここでは、そんなプロフェッショナルたちをご紹介します。今回は出版社さりげなくの稲垣佳乃子さん。東京と神戸で3社複業の最中にTwitterで出会い、LANCHの仕事を一緒にするようになり、気付いたら出版社を設立、という情報量の多い人です。
初めてお会いしてから、もうすぐ2年が経ちます。出会った当時から、3社複業というちょっと常軌を逸した働き方をしてたけれども、それを続けているんですよね?
2017年に新卒で入ったのが東京の制作会社アソブロック。で、ほとんど同時期に今も在籍している神戸のレミさん(KUUMA代表)に誘われて複業を開始して。さらに東京のヘラルボニーの前身となる会社でも働き始めたんです。
それからジンさんとお会いして、LANCHでのお仕事もご一緒させていただいて。昨年(2019年)には出版社「さりげなく」を始めたので……そうですね、社会人になってからずっと複業してます。
・・・素直な疑問なんだけど、どうして複業しているの?
いや、私は別に複業がしたいわけじゃないんですよ! 声をかけてもらったり興味を持ってしまったら止まらないというか。結果的に複業になってしまったというか。でも、いろんなボスについた方が、いろんな考え方がゲットできるという思惑はありますね。やっぱりそれぞれに違った特徴があるから。
(KUUMAの)レミさんは、感性とか直感で動くタイプやし、(LANCHの)ジンさんの合理的な考えは周りにはいないし。そういった違うボスの考えを自分の中に取り入れていってる感じです。
でも、複業って単純に仕事の量や人間関係が倍増するし、それをやっていくのにすごいエネルギーが必要だよね
正直いうと、大変なことの方が多いですね。
東京と神戸と京都を行ったり来たりして、ときどき名古屋で降りて(2019年までLANCHは名古屋にありました)。途中、こりゃ死ぬかもと思いましたからね。今は京都からほとんど動かんでもいいからずいぶんラクになりましたけど。でもどんなにしんどくても、決めたのは自分なんで。
どんなに大変でも、やりたいと思ったら飛びこんじゃうんだね
はい、決めたらやりますね。ただ、単純にやりたいだけで動くかと言われたら、違うかもしれないです。危機感だったり、やるしかないみたいな切羽詰まった状況で突き動かされていることも多いです。
複業に至ったのも、同じところに居続けたらよくないかも、、、みたいな感覚がずっとあったんです。私、停滞しちゃうぞ、って。
でも漠然と成長したいって気持ちはぜんぜんないんですよ。ほんとない。ただ今の自分に出来ないことを出来るようになりたい、もっと出来る範囲を増やしたい、って思いはすごいあります。相当、負けず嫌いだと思いますよ、自分。
ちいさい頃から、そういう子だったのかしら?
私、人生のいろんな場面で「絶対無理や」って言われてきたんですよ。たとえば中学の三者面談で、担任の先生に「おまえにこの高校は無理じゃ」とか言われて腹立ったのまだ覚えてますもん。
でも私はそれに「いやいや何言ってるんですか! 私受けますから!!」って返す子で。その後めちゃくちゃ勉強して受かったんですよ。ただ実際入ってみたら後ろから2番目の成績だったんで、あながち先生も間違ってなかったなと今は思いますけどね。
そういう「無理やろ」、って誰かに言われる状況が、今までに何度もありました。高校のバスケ部で周りが上手い子ばっかりの中でレギュラー目指すとか、全然勉強してなくて大学受験失敗して一浪させてもらったときとか。
そういう壁って、簡単には乗り越えられないじゃないですか。だから周りも無理っていうし。厳しい状況と、どんな気持ちで向き合ってきたんだろう
基本的に、私が最初から出来るってことはあんまりないんです。周りにはすごく勉強ができたり運動ができる子がいて、そういう子を見ると自分は違うってわかった。だから別のやり方をせなあかんと思うんです。
私、小学校からバスケが好きでやってたんですけど、中学にはバスケ部がなかったんです。高校にいったら絶対バスケやる。レギュラーになりたい。でも3年間のブランクって結構すごいやろな。だったら陸上部や! 走りまくればバスケに活きるはず!って考えたんです。
これは個人的には大成功で、高校ではずっとバスケをやってきた上手な子たちがたくさんいたんですけど、走ることだけは負けなかったんです。長距離走やってたから体力に自信あったし、誰よりも練習量をこなせる。3年の最後にはレギュラーになれました。
この成功体験は、私にとってはすごく大きな出来事で。やり方変えて本気でやったらすごい人にも勝てるんや!って。今でも、その漠然とした確信が自分の中にありますね。
その姿勢が、社会人になっても続いているんだね
はい。ただ私みたいな新卒で3社複業なんてどこにもロールモデルないんで、やり方もなにも、とにかくがむしゃらで働いてました。依頼を断ることを自分に禁じて「頼まれたことぜんぶやったる!」って感じの前のめりで。3社ありましたからね。結構な量をやったと思いますよ。
でも、それで4年間走ってきて、なんでもやるのはそろそろ卒業しようかと。合わない仕事はやっぱり合わないし、それより自分が一番力を出せるやつだけに絞っていった方がいいと感じているのが今ですね。
自分が一番力を出せる、出したいと思っているのは?
やっぱり、自分が代表の「さりげなく」ですね。まだ本は4冊しか出せてないですけど(2020年12月時点)、新しいのをいくつも仕込んでいるし、本を作るだけじゃない動きも出てきました。
ジンさんと一緒に進めてる左ききの道具店の小冊子「あいだがら」もそうですし、KUUMAと一緒に雑誌を企画していたりもするんですよ。他にも作家さんのプロデュースも着実に広がってきてるし。
それに、進行をメンバーに任せることも増えてきて、チームも成長してきた手応えもあります。これからもっとおもしろい事が起こるんやろうな、って気配がめちゃめちゃありますね。
いいね。これからの目標とかってあるの? どうなりたいとか
仕事の面では、さりげなくで食っていけるようにする、ですね。正直、お金の部分はまだまだぜんぜんで……。はやくみんなに十分なお給料が払える状況にしたい。そして、願わくば50年ぐらい続けたい。社歴50年の出版社さりげなく。めっちゃよくないですか? 本気でそうしたいと思います。
私生活ではどうですかね。あんまりこんな人になりたいとかないんですけど、あえて挙げるなら、お母さんが目標です。本当に尊敬してます。高校生のときとかはよく喧嘩もしましたけど、社会人になって、人とのコミュニケーションの取り方とかで参考にするのはいつもお母さんです。
あと、うちの母、めちゃめちゃ計算が早いんですよ。特に暗算がすごくて。スーパーとかで複雑な割引も一瞬で答えを出しちゃう。母には、さりげなくの経理もお願いしていて、私が数字に弱いから全面的に頼りにしています。
先のことを考えると、今はとにかく不安です。もうすぐさりげなくを法人化して、はじめて人を雇って、関わる人もどんどん増えて……。きっと失敗しまくるんやろうなと思います。でも、今までの人生も、最初は失敗ばかりだったんで。ちゃんと乗り越えて進みます。やると決めたら、やる子なんで。
text:LANCH
彼女が代表の出版社「さりげなく」