アマビエちゃんと加藤くんのお話 第3話『焚き火』
2021年1月の、どこまでも青く晴れ渡った
ある日、アマビエちゃんと僕は焚き火をした。
『加藤くん、火と薪が音を出してるね。』
『うん、とってもきれいだね。』
『いつまでも見ていたいな。』
『うん、ずっと見ていたい。』
『加藤くん…』
『アマビエちゃん、何?』
『どうして泣いてるの?』
『え…』
『どうしたの?』
『ごめん』
『なんで泣いてるの?』
『いや…焚き火があまりにきれいだから』
『うん、きれいだよね』
『う…う…ぎれいだ、ずごぐぎれいだよ』
アマビエちゃんは僕の頭を、そっとなでてくれた。
『加藤くん、大丈夫だから』
『…』
『大丈夫だよ。私がずっと頭をなでてあげるから』
『ほんどう?』
『うん、ずっとなでてあげるよ』
『ごめんね。45歳の俺が泣いでるなんでさ、がっこわるいよね…』
『そんなことないよ。かわいいと思うよ。』
『う、ああああーん、アマビエちゃん、ありがどう』
『よしよし』
こんなに泣いたのは、いつぶりだろう。
子供の頃、僕は泣き虫でいつも泣いていた。
明日、病院で注射があると聞くと、怖くて前日から泣く子供だった。
でも、大人になってからは我慢して、人前では、泣かなくなった。
大人は泣いてはいけない。
男は泣いてはいけない。
人前で泣くなんてカッコ悪い。
でも、大きくなっても、時には、泣いてもいいのかもしれない。
大人だって、たまには、泣きたくなることもある。
20代のころ、どうしても泣きたくなる時は、自分のアパートにこもり、誰にも見られないように、1人で泣いた。
自分はやっぱり孤独なんだって思った。
やっぱり1人なんだと思った。
でも今アマビエちゃんに頭をなでられながら泣くのは、1人ではなくて。
アマビエちゃんと2人で焚き火を見ながら泣くのは…
嬉しかった。
つづく