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アマビエちゃんと加藤くんのお話 第10話『加藤くんのひとりごと』

今日は雪が降るといっていたけれど、雨だった。
用事があって、根津に行って、それから上野まで歩いた。
不忍池でユリカモメ達がのんびり、棒の上にとまっている。

「生きていくのは、大変だなあ。」

やっぱり一人だと元気でないな。
アマビエちゃんがいれば、いっぱいお話して、笑って、励ましあえるのにな。
ユリカモメは活き活きしていて、うらやましかった。
きっと彼等も本当は大変なんだろうけど、そんなそぶりは見せなくて、
一生懸命、今を楽しんでいるように見えた。
すごいよ、お前ら。

この前アマビエちゃんと遊びに来た時は、一本足のユリカモメがいて、彼?彼女?を探したのだけど、どこにいるかわからない。

雨なのに、僕は外にいて、1人ぼっちだった。
傘も忘れてきて、小雨に打たれながら、僕は池の前のベンチに座っている。

寂しいなと思った。

アマビエちゃんと出会う前は一人でも、ちっとも寂しくなんか、なかった。

アマビエちゃんと出会ってから、毎日いっぱい、お話をした。
楽しくて楽しくて、ずっと話していた。
自分が今まで、どうやって生きてきたか、趣味の漫画の話とか、仕事のこととか、絵本のこととか、とにかくいっぱい話した。
お互いの悲しい話もいっぱいした。もちろん嬉しい話も。
アマビエちゃんは一生懸命聞いてくれたし、僕も一生懸命話した。

こんなに誰かと話すのが楽しいんだということを、アマビエちゃんに教えてもらった。

でもまあ、今は1人だった。

「アマビエちゃん、はやく帰ってこないかな。」

今まで、1人でも平気だったのにな。
1人で散歩するのが大好きだった。
心の奥はずっと凍らせていた。
だってつらいから。
心を誰かに開いて、ドン引きされて、傷付くのとか、本当にもう、ごめんだった。
そりゃあ、そうだと思う。
僕の心の中なんて誰もみたくはないだろう。
みんな自分の人生でせいいっぱいで、他人の重い人生なんて知りたくはないよな。
でも、アマビエちゃんは

「気にしないで話してよ。何言われてもひかないし。」

と言ってくれた。
嬉しかった。
だから僕もアマビエちゃんの全てを受け入れようと思った。

アマビエちゃんとは心がつながっていると感じた。
一緒にお話している時、アマビエちゃんの暖かい心を感じた。
冷えきった僕の心を覆っていた氷は少しずつとけていった。

誰かと一緒に生きるということが、こんなに素晴らしいものなのだということを彼女に教えてもらった。

アマビエちゃんに会いたい。

アマビエちゃんに会ったら何を話そうか。

ユリカモメ達にまた会ったよとか。

富士山の素敵な写真が撮れたよとか。

こんな不思議な体験したんだよとか。

アマビエちゃんは笑ってくれるだろうか。


「アマビエちゃんーーーん!!」

雨の中、叫んだ。

鳥がびっくりしている。

ごめん。

「アマビエちゃん、あのさ。
君が笑っている顔、俺、好きなんだ。
あのさ、
うまく言えないけれど、君の心、大好きだよ。
君の眼も鼻も口も全部大好きだよ。
あのさ、アマビエちゃん聞いて、
ずっと好きだから。
世界中の誰よりも君が好きだよ。」


つづく

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