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アマビエちゃんと加藤くんのお話 第7話『ネブラスカ(前編)』

「アマビエちゃん。」
 
「うん、どうしたの加藤くん?」
 
「さっき友達から連絡があったのだけど、僕がお世話になった高円寺のバー、ネブラスカの信(しん)さんが1月12日に亡くなったらしい。
僕が愛知県から東京に出てきて、高円寺の風呂無しアパートに住み始めた時、徒歩1分の近所に、ネブラスカはあった。信さんには、たくさんお世話になった。
つらい。」
 
「昨日だね。そうか、寂しいね。」
 
「うん、寂しい。」
 
「おいくつぐらい?」
 
「たぶん、67歳ぐらいだと思う。」
 
「亡くなるには若いね」
 
「若い。あと20年ぐらいはネブラスカを続けてくれると思い込んでいた。昨年12月ぐらいにいった時は、信さん、バーにたっていたんだよな。元気そうだった。」
 
「昨年末にお会いできてよかった。それに、元気な姿が最後で良かった。」
 
「うん、そうだね。会えてよかった。」
 
「会った時にどんな話をしたの?」
 
「なんて話したかなあ。久しぶりにいって、一杯だけ呑んで、店をでた気がする。
火曜日が定休日だったんだけど、その日はたまたまネブラスカの開店記念の日でやっていたんだよね。
俺が隣に座った店のお客さんと話しているときも、信さんは暖かい目で見守っていてくれていた。
店に入ると、『おお!!加藤』っていつも言ってくれるんだよね。
座・高円寺という所で上映された、俺のドキュメンタリー映画も観に来てくれて、店の壁にポスターを貼ってくれたんだよね。」
 
「そうか。嬉しいね。」
 
「うん。」
 
「お葬式とか、お別れ会とか、あるのかな?」
 
「ネブラスカに電話してみるよ。」
 
(10分後)
 
「電話つながらないな。」
 
「コロナもあるし、そういう会は先かもね。」
 
「そうだよね。でも・・・なにか今、信さんにできることをしたいな。」
 
「献杯したら?」
 
「献杯?」
 
「相手のことを想いだして、お酒を飲むんだよ。彼の分のグラスとお酒を用意してあげて、乾杯して。正式なやり方は知らないけれど。
私はそうしてるよ。」
 
「献杯、やってみようかな。」
 
「うん。形はなんでも良いんだよ。加藤くんの想いが伝われば。
きっと伝わるから。
ね?」
 
「うん、ありがとう。やってみるね。でも、その前に・・・」
 
「?」

「高円寺のネブラスカに今から自転車でいってみるよ。」
 
「自転車で?加藤くんの家は三鷹だよね。けっこう時間かかるんじゃない?それに1月の夜だから寒いよ。」
 
「うん、でも今日、ネブラスカに行きたいんだ。もしかしたら、誰かいるかもしれないから。」
 
「そうか。わかった。
いってらっしゃい。気をつけてね。」
 
「アマビエちゃん、ありがとう。いってくるね。」
 
つづく

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