動的な総体と、動的な存在の基礎的な整理

はじめに

生命の起源、つまり有機物から細胞ができ上がるまでの過程を考える上で、静的な部品が組み上がって完成するというイメージでは解けない問題なのだろうという見立てをしています。このため「動的な存在」として細胞を理解し、その誕生の過程に現れる動的な存在に着目する必要があると考えています(参照記事1)

この記事では、動的な存在というキーワードについて、自分自身の考えの整理のために、2つの話題を記載します。

動的な存在と動的な総体

有機物の集合から、シンプルないくつかの動的な存在が作り出され、それらが静的な有機物の部品を複雑なものにしたり、動的な存在同士が絡まり合って新しい種類の少し複雑になった動的な存在を生み出したりする。そういった過程を繰り返していくうちに、複雑で多様な有機物と、それを使って複雑で多様な機能を実現する動的な存在へと進化していき、その結果として細胞が出来上がる。そういうイメージです。この過程は、どこか地球の一箇所でなく、数多くの場所(水たまりや池や海)で、地形や気象による水の循環を利用して全地球規模で進行し、数多くの組み合わせを試しながら多様性を増幅させ、複雑な階段を一歩一歩上り詰めていく積み重ねだったのではないかと想像してます(参照記事2)。

このように捉えると、個々の部品や動的な存在だけでなく、それが交流して多様性と複雑さを獲得していく環境が重要で、その環境中で発展をしていったというイメージを持って考えることも重要だと考えています。そのような意図から、このような動的な存在が織りなす進化のための環境全体を、動的な総体と呼んでいきたいと思います。

はじめは一つの水たまりや海底の熱泉の周囲が、有機物の動的な存在に取って、動的な総体の版図だったのかもしれません。それが徐々に広がったり、全く別のところで発生したものと交流できるようになっていったりして、版図をひろげ、やがて地球全体を動的な総体が覆うまでに至ったのではないだろうか。そのようなイメージで考える事が、生命から誕生の謎を紐解いていく時に役立つかもしれません。

動的な存在の基本的な整理

ここからは、動的な存在について、基本的な整理をしていきます。

動的な存在は、最終的には細胞のように非常に複雑な仕組みを持つことになります。しかし、シンプルで小さな動的な存在が組み合わされて複雑化したり、ある程度の複雑さを持った動的な存在同士がシンプルに組み合わされて行くことで、段々と成長や進化をしてきたと考えられると思います。そのため、動的な存在の基本パターンを整理することで、動的な存在という概念についての理解を深めることが有用なはずです。

既に、参照記事3にて、渦と振り子のという基本的な動的な存在を見てきました。

このような動的な存在のパーツのパターンを考えていく前に、動的な存在の有り様について整理しておきます。

再生産の基本的な考え方

まず、「再生産」ということについて考えます。再生産とは、動的な存在が、同じようにまたこの時間と空間上に現れることを意味します。まずは、時間方向、そして空間方向の順に考えていきます。

有機物の動的な存在を時間軸方向で考えた時、最もシンプルなものは、1度化学反応が起きたら、それで終わり、というものです。動的な存在とはいえ、これだけシンプルだと一瞬の出来事であり、存在とすら言えるのかもわかりませんが、論理的にはそうしたものが最小です。

次に時間方向として考えると、この化学反応が、循環構造を持って連続して発生するようなものが想起されます。こうなると、しばらくこの化学反応が続くことで、動的な存在としての存在感が出てきます。

この時、先ほど見た最小単位の時間軸方向の動的な存在が、一度消えてまた発生したという解釈も可能です。その意味で、ループ構造による同じ化学反応の循環は、時間方向に再生産された、という解釈が可能です。

次に、空間方向に考えてみます。ここでは有機物が浮かんでいる物理空間という意味でなく、複数の有機物がある時にその有機物群の中で起きること、というイメージで考えてください。

同一の動的な存在を作り出すような仕組みがあると仮定します。その仕組みが、複数の動的な存在を作り出すとき、空間方向に再生産された、と解釈します。

最もシンプルな動的な存在である1回の化学反応に対して、その化学反応を時間方向に10回ループ的に繰り返すような動的な存在が、空間方向に10個作り出されたとき、時間方向と空間方向の掛け算で、100回の再生産が行われた、という風に考えることができます。

再生産の応用的な考え方

では、もう少し再生産について考えてみましょう。

まず、時間方向と空間方向に対して、斜めに再生産が進むケースがあります。これは、有機物群Aが化学反応連鎖Bを起こせる時に、有機物群A1~A10の10個が横並びになっている様子を想像してください。そして、最初の有機物群A1で化学反応連鎖Bの1回目(B1)が発生し、次に導火線についた火のように、A2でB2が発生し、A3でB3が発生し、その連続でA10でB10が発生するまで継続するというイメージです。この時、有機物群Aが化学反応連鎖Bが織りなすシンプルな動的な存在は、時間と空間を斜めに再生産された行ったと解釈できます。そして、一般的には、この斜めに再生産された一連のものを1つの動的な存在と認識することもできます。

これは、プールの栓を抜いた時にできる渦が、絶えず水自体は流入と流出をして過ぎ去っているけれども、1つの渦として認識される様子と似ています。川であるとか、波であるとか、そういうものも同じような性質があります。また、人間の体も絶えず新陳代謝を繰り返し、同じ物質で構成され続けているわけではありません。

このように、同じ有機物を常に使い続けるわけではないのに、1つの動的な存在として認識され、機能し続ける場合があるというのは、動的な存在の大きな特徴です。

他にも再生産の観点で応用的なものとして、分岐があります。有機物群C
が化学反応連鎖Dを起こせ、有機物群C1~C7があるとします。最初の有機物群C1で化学反応連鎖Dが起きた後、2つに分岐してC2とC3で化学反応連鎖Dが起き、さらにそれぞれ2つに分岐して、C4, C5 とC6, C7でも化学反応連鎖Dが起きる、という具合に、化学反応が分岐しながら連鎖反応をしていく、というパターンがあります。ネズミ算式の反応です。

そして、この分岐的な再生産の極めつけが、化学反応だけでなく、有機物群の再生産も併せて実行できる、分裂/自己複製です。

こう考えると、最初に分岐型の再生産を行うことができる動的な存在が現れ、それが何かの拍子に、分岐に必要な有機物群の一部を生産できるようなものが現れ、それがさらに進化して、分岐に必要なすべての有機物群を生産できるようになった、と考えられるかもしれません。遺伝子の発現のきっかけは、このような過程だったのかもしれませんね。

休眠停止性と死停止性

次に、動的な存在の動作が止まった時のことを考えてみます。

ループを持つ動的な存在は、外界からエネルギーや資源の供給を受けることで動作し続けることができます。一方、これらが途絶えてしまうと、内部にある程度のたくわえを持っていたとしても、やがては動作が止まることになります。

動作が一度止まっても、条件が整えば再び同じように動き出すことができるものがあります。この場合は休眠しているようなものですので、休眠停止性を持つ動的な存在と呼びましょう。

一方で、一度停止すると構造が崩れてしまい再度動くことができないものもあります。こちらは死停止性を持つと呼ぶことにします。

なるべき長く動的な存在が存続することを考える場合、一度止まっても再び動き出せるのですから、休眠停止性を持つ動的な存在の方が有利です。死停止性を持つ動的な存在は、存続のためには資源やエネルギーが途絶えないようにする必要があります。

ところで、細胞は死を迎えます。私はこれまで、そこ着目して生命の部品には死停止性のある基本構造が重要だという発想から、結びつきとつなぎ止めという基本的な構造を重視してきました(参照記事4)。

しかし、それは結果である細胞自体が、そうなっているから考えついたことです。細胞自体がもし休眠停止性だったとしたら、そもそも死停止性のことを考える事もなかったはずです。では、改めて、なぜ存続に有利な休眠停止性ではなく、死停止性を細胞が持っているのか、と問われると答えに窮します。逆に言えば、死停止性を持つ細胞が登場したということは、休眠停止性を持つライバルを倒したのか、あるいは進化のスピードで凌駕していたのか。

動的存在の停止性について整理したことで、そんな根源的で不思議な問いに気づきことができました。この謎を解くことが、また一つ生命の起源の答えにつながっている気がします。

自己修復・学習・蓄積

ここでは深く掘り下げるほど考えが進んでいないため、項目だけ挙げておきます。

おそらく動的な存在がシンプルな構造のうちは持ち得ないため、ある程度複雑な機構を伴えるようになった段階移行にはなると思いますが、細胞が持つような自己修復能力を備えた動的存在も考えられます。

また、過去に経験してきた刺激や環境条件に対して適用するため、何らかの学習能力を細胞や細胞の部品となる動的な存在が有していたとしても、おかしくありません。

さらに、エネルギーや他の生産に使用できる有機物を、いつでも使えるように蓄えていくことも、生存のためには必要な機構です。

このあたりも、今後の思索の中で掘り下げていく必要があるテーマです。

さいごに

自分自身の思考の整理のために、動的な総体の話と、いくつかの観点で動的な存在の基本的な概念の整理を行いました。

その中で、再生産の話では、遺伝子の発生過程に一つの仮定を持つことができました。また、停止性の話題については、直感に反する大きな謎が浮かび上がってきました。

ここでは掘り下げることができなかった、自己修復・学習・蓄積などの動的な存在の性質や機能についても、今後検討していきたいと思います。

参照記事一覧

参照記事1

参照記事2

参照記事3

参照記事4

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katoshi
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