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進化の原理:自己チューニングする宇宙

私はシステムエンジニアの視点から生命の起源について個人研究を進めています。

生物は進化することがよく知られていますが、生物が登場する以前には化学物質同士が相互作用して化学進化と呼ばれる現象が生じたと考えられています。私もこの考えを基本的に支持しており、システムという観点でそのメカニズムを説明するための研究をしています。

生物の進化だけでなく、化学物質の進化を考えていくと、そこには単純な法則に基づいた相互作用があり、一定の条件さえ満たせば進化が可能であることに気がつきます。そして進化を突き詰めて考えていくと、複数の対象が相互にチューニングし、それが積み重なっていく現象だとわかります。

これは、化学物質に限らず、よりシンプルな物理法則であっても構いません。そして、宇宙スケールのマクロな対象でも、量子スケールのミクロな対象でも生じる現象です。そして、この視点から眺めると、私たちをとりまくあらゆる対象が、自己チューニングに基づく進化の結果によって出現したという解釈が可能になります。

この記事では、こうした普遍的な進化のメカニズムについて、相互作用に基づくチューニングという観点から分析していきます。

■進化とチューニング

進化という言葉を使うと、大きな変革を意味しているように感じられます。

一方で、進化の本質はチューニングです。小さな進化はまさにチューニングを意味しますし、大きな進化は変革的な手段によるチューニングと言えるでしょう。

■安定化チューニング

チューニングが対象の安定性を高めることがあります。

このような安定化チューニングが、進化の本質にあります。

安定化チューニングの度合いが低ければ、対象は不安定です。安定した対象の方が、不安定な対象よりも長く存在することができます。

従って安定化チューニングは累積することができ、それが進化と呼ばれる現象です。

■共進化と相互安定化チューニング

共進化は相互安定化チューニングと言えます。

2つの対象が、互いに変化していく中でチューニングされ、安定化する現象と言えます。

■相互安定化チューニングの網

2つの対象が相互安定化チューニングする場合、その変化によって別の対象との間での安定化チューニングが崩れることがあります。

一方で、他の対象との間でも相互安定化チューニングが維持されることで、複数のチューニングがバランスを保つ場合もあります。

このため相互安定化チューニングはネットワーク状の構造を形成することができます。

■安定化ネットワークの成長

相互安定化チューニングが形成するネットワークを、安定化ネットワークと呼ぶことにします。

多数の対象が相互作用して様々なパターンの状態に変化している場合、相互安定化チューニングが発生し、そこから安定化ネットワークが形成されることがあります。

もちろん必ずしも完全な安定化に至るわけではありませんし、一時的に安定化ネットワークが形成されても、何かのきっかけで全てが崩れてしまうこともあります。

ただし、安定化ネットワークの崩壊には限界があります。全ての相互安定化チューニングが崩れている状態です。

一方で、安定化ネットワークが形成され、成長していく方向には、明らかな限界はありません。強いて言えば全てが安定化して状態変化のパターンが有限の範囲に収束するケースが限界です。

このため、多数の対象が相互作用して様々なパターンの状態に変化する場合、平均的に見れば安定化ネットワークが形成されている状態が自然な状態です。

そして、一定のレベルに達するまで安定化ネットワークが成長することは必然です。

■成長と自然選択

安定化ネットワークが成長すると、全体が崩壊する可能性は低くなります。一部が崩壊しても、他の部分は維持されるためです。

そして安定化ネットワークが成長することで、部分的に崩壊しても復元され、崩壊した部分を補う形でネットワークの規模は維持されます。

こうした部分的な崩壊を繰り返すことで、安定化ネットワーク内部では、より崩壊しにくい構造が存続していくことになります。

この自然選択の仕組みにより、安定化ネットワーク自体が、より安定した構造を持つことになります。

■安定化ネットワークの空間的支配

安定化ネットワークが成長すると、空間に広がっていくことになります。その結果、一定の範囲の空間全体に広がっていく場合があります。

空間全体に広がった安定化ネットワークに、非常に高い安定性を持つ部分があると、その空間においては、その部分が存在することがデフォルトの状態となる可能性があります。

これは安定化ネットワークの一部が空間を支配している状態と言えます。

■安定層の時間的堆積

空間を支配する安定化ネットワークの一部分は、層のように捉えることができます。これを安定層と呼ぶことにします。

安定層はその空間のデフォルトの存在となり、その上に残りの安定化ネットワークが成長していくことになります。

そして、新たに安定化ネットワークの別の一部分が安定層として空間を支配することがあります。

この繰り返しにより、空間に安定層が堆積していきます。

■安定層の相互安定化チューニング

安定層同士にも、相互安定化チューニングが起きる場合があります。つまり安定層の堆積は、安定層同士の共進化により強固な安定性を獲得していきます。

もちろん、必ずしも相互安定化チューニングが生じるわけではなく、場合によっては新しい安定層が既存の安定層を崩壊させることもあります。

安定層は空間を支配しているため、その上にある安定化ネットワークの一部分が安定層と共進化したり、崩壊させたりするということは、困難なことに思えるかもしれません。

しかし、上にある安定化ネットワークの一部分もまた空間を支配するところまで成長すれば、安定層同士が相互作用することに不思議はありません。むしろ何も影響を与えないと考える方が不自然です。

■水平方向と垂直方向の安定化ネットワーク

このように整理すると、安定化ネットワークには、デフォルトの安定層を持つ空間上で成長する水平成長と、安定層が堆積する方向に成長する垂直成長があることになります。

それぞれの成長は、相互安定化チューニングにより、時間と共に安定性を増加させていきます。また、部分的な崩壊を繰り返すことで自然選択の仕組みが働き、より安定した構造が選択されていきます。

こうして、相互安定化チューニングを単位とした層構造の安定化ネットワークは、水平成長と垂直成長の組み合わせにより、非常に強固な安定化を実現することになります。

■自己チューニングする宇宙

層構造の安定化ネットワークの安定度の強さは、この宇宙を例として考えるとよく分かります。

この宇宙は、ファインチューニングされていると言われます。それは、宇宙の基礎的な多数のパラメータが、銀河や恒星の形成から、地球と生物の誕生に至るまで、非常に適切に調整されているためです。

従来、これらのパラメータは宇宙が始まった時には予め決められており、その事前に設定されたパラメータに従って宇宙は進化してきたという考えが主流でした。

しかし、層構造の安定化ネットワークという視点から考えると、果たしてどこまでが事前に設定されたパラメータで、どこからが事後的に相互安定化チューニングされたパラメータなのか、という疑問が浮かびます。

そして、突き詰めて考えてみると、あらゆるパラメータの中に、確実に事前に決定していたといえるものは1つもないことが分かります。つまり、これらのパラメータは全て、宇宙が始まった後に層構造の安定化ネットワークの中で自己チューニングされた可能性があるのです。

それが真実であると仮定すると、これらのパラメータは不変であるように見えるような度合いまで、強固に安定化されたという説明が可能です。

■さいごに

宇宙のファインチューニングされたパラメータは、銀河の形成や生物の誕生にとって非常に都合が良いため、なぜそのようなことが起きるのかという疑問が持たれています。

一般的には、パラメータの異なる無数の宇宙が存在するという多次元宇宙という考え方と、宇宙を観察している私たち人間が存在するような宇宙しか存在できないという人間原理という2つの解釈があります。前者はどんなに稀な確率であっても多数試行していれば発生するという力技に頼った説明ですし、後者は結局初めの疑問の答えにはなっていません。

これに対して、水平方向と垂直方向の安定化ネットワークによる自己チューニングする宇宙は、第三の解釈となります。

多次元宇宙は生命の起源における非常に稀な化学物質の組合せという解釈に相当し、人間原理は宇宙から生命が地球に飛来したという説に相当します。これに対して、水平方向と垂直方向の安定化ネットワークによる自己チューニングする化学物質群は、第三の解釈となります。

このように、安定化ネットワークの自己チューニングは、分野を越えた様々な事象に共通する原理を示しています。かつ、量子場、素粒子、原子、宇宙空間、銀河、恒星、惑星、化学物質、生物、社会は全て安定化ネットワークの安定層として堆積されていることにも気がつきます。

これが、システムの観点から進化について見つめることで導かれる、この宇宙の姿です。

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katoshi
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