りんごを切るたびに思い出すこと
今年もスーパーの店先にりんごが並ぶ時期が来た。昨日、今年初めてりんごを買って夕食の後、包丁でカットしてみた。
私のりんごのカットの仕方は、まず半分に切り、そこからくし形に切って皮をむく方法である。生協などの農薬使用が少ないりんごであれば、皮をそのままつけていただく。
「くし形」と書いたが、ずいぶんと前からかなり薄いくし形に切っている。幅1センチくらいだろうか。その方がりんごのサクサクした感じが味わえると思ったからだ。この切り方を教えてくれたのは30年近く前に数回お会いしていた女性である。仮にA子さんとしよう。
A子さんと私の出会いはちょっと不思議で、もともと彼女は私の知人男性であるB氏の知人だった。B氏は、A子さんと知り合ったばかりであったが、なんとか彼女との距離を詰めようとしていた。それでドライブに誘うことになったのだが、いきなり二人きりは緊張するということで「クッション」として選ばれたのが私だったのである。B氏がそういうことを言ったわけでなないが、3人でのドライブ中に私はそう察した。
さてドライブからほどなくしてお2人は無事に付き合うことになり、そこからトントン拍子にことが運んで結婚・第一子出産となった。彼らの初期の付き合いに立ち会っていた私は、産まれたばかりのベビーも見に行ったし、かれらの新居にも恐らく2、3回立ち寄った。
第一子ちゃんがまだ1歳くらいの頃、かれらの新居で夕食をふるまわれた。メインのメニューは忘れたのだが、デザートが「かぼちゃのココナツミルク煮」とりんごだった(梨もあったかも)。かぼちゃのデザートは雑誌『LEE』を見て作ったのと彼女は、はにかみながら言った。メインディッシュについてはB氏が「素材の味を生かしている(=あんまり手の込んだものではない)」と笑いながらコメントしていた。そしてりんご。それはくし形で薄くカットされていた。そういう風に切るとおいしく感じられることを私はその時に知り、以後自分でもそういう風にカットするようになった。
月日は過ぎて。その後、B氏とA子さんは別々に暮らすようになった。私はもともとB氏と知り合いなので、彼がその後新しい家族と新しい暮らしを始めたことを知っている。赤ちゃんの時に会ったベイビーは彼が引き取っていたが、その子も素敵なママになったらしい。だがA子さんとは、あの「りんご」の時以来、会えなくなってしまった。
A子さんとはこの先もお会いすることはないだろう。だが気候が涼しくなりりんごが出回り始め、それを自分で薄くカットするたびに私は彼女のことを思い出す。そこにいない、もう会えない人であっても自分の中にはそういう、誰かから教えられたことがしっかりと根を張って存在している。
もう一つ思い出した。「コーヒーには利尿作用があるからトイレが近くなる」これもあの一番最初のドライブの時に、一緒に入った出先のお手洗いで彼女が教えてくれたことである。その時、彼女は恥ずかしそうにそのことを私に伝え二人で一緒に手を洗った。その時の彼女の発言を知っているのは私だけで、B氏はそれを知らないままなのだなあと、いま気がついた。
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