『ずっとあなたが好きでした』歌野晶午 文春文庫

 オムニバス形式の恋愛短編集。アルバイト先の女子高生との淡い恋が語られたかと思えば、集団自殺を企てる初老の男の話になり、続いてはまた転校生に心をときめかす小学生の姿を描き出し……と、コンセプトも方向性も分からないままに次々と繰り出される恋愛模様は、最後にどんな姿を現すのか。

 この作品は歌野晶午という書き手について知っているか知らないかで薦め方が全く変わる。
 もし知っているなら、大丈夫、信じて読めばいい、とだけ言えばいい。むしろ普通のミステリよりも今度は何を企んでいるのかと期待値が上がるかもしれない。
 知らない人になら、とりあえず一つ一つの短編がトリッキーで面白いから、少しずつでも読み進めてみて、と言うだろうか。文庫にしても分厚いので少しハードルは高いかもしれないけど、他の本の息抜きにでもどうか、くらいか。言い添えたいことはいくつもあるが、何を言ってもネタバレになってしまいそうで、いいから読めという乱暴な感じになってしまう。

 とはいえ、一編ごとが魅力的だというのは間違いない。本格ミステリテイストのものあり、意外な真相あり、サスペンスあり、ネットを通じた恋愛あり、ほろ苦い青春物語から甘くけだるい愛憎ものまで、バラエティに富んだ話を楽しむことができる。
 それがまさかあんなことに。

 とりあえず、よくもこんなことを思いつき、それをきちんとまとめ上げられるものだというのが率直な感想。
 これぞ歌野晶午、という作品。


 

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