『七つの海を照らす星』七河迦南 創元推理文庫

 海が見える丘の上に建つ児童養護施設・七海学園。様々な事情を抱え、そこで暮らす子どもたちの保育士として働く北沢春菜は、子どもたちを悩ませる学園の七不思議を解明するため奔走する。いないはずの少女、あるはずのないもの、消えてしまった友人……6つの謎の真実が知らされたとき、7つめの不思議が姿を現す。


 日常の謎を解き明かしていく連作短編集。とはいえ、舞台が児童養護施設ということもあり、人は死なないまでも、重たいテーマの話が多く、読み味は少しだけ苦い。
 挿入される法律の解説や実情の説明からは、詳細な取材と調査をしていることがうかがえる一方、説明にばかりならないよう、そして主観が入りすぎないように慎重に取り扱われている。物語を読み解く上で必要な知識は十分に与えられるし、テーマに添って考えさせてもくれる。
 それでも主眼は本格ミステリ。読み物として十分に面白い。この両立というかバランスが実に絶妙。

 保育士の北沢春菜が謎を見つけ、その解明に乗り出す語り手。その手助けをするのが児童福祉司の海王や友人の野中佳音。3人のポジションは明確に決まっているわけではなく、お話ごとに探偵役や助言役が入れ替わったりする。7つの連作短編なので、パターンが決まりすぎるとマンネリ感が出てしまったかもしれないから、この流動的な配置も読みやすさの一因だったと思う。

 1つ1つの話はそれぞれで完結し、きちんと謎は解かれ、そこに関わった子どもたちは過去を乗り越えて新しい気持ちで明日を迎えることができる。驚きも救いもきちんとあって、短編として十分に面白い。
 ただ、1番大切なところはきちんと説明されるものの、ほのかな不思議が残っていく。七不思議をモチーフにしているので、謎そのものが少しオカルトじみているから、そういう演出の一環なのかと思っていた。実際、海王のセリフの中に「不思議が少しくらいあるほうがいい」という趣旨の言葉もあり、これも作品のテーマの1つなのかとも思えた。
 ところが、この不思議は読み進めるにつれて積み重なっていくことになる。
 その重なりを確認して、物語の骨子が明確になっていった。
 この不思議の中に、何かがある、と。

 果たしてそれは7つ目の短編で明かされることになる。七不思議は一般に知られているのは6つだけで、最後の7つ目は誰も知らない、というのはよくある設定だけど、その俗説すらも公正の中に落とし込んで、謎そのものを最後の最後に浮き上がらせてくる。
 しかもそれが何かあるなというちょっとした引っ掛かりに対する答えとは思えないほどのものだったのだから、もうため息をつくより他にやれることがなかった。
 バラバラだと思っていた6つの短編が、7つ目の短編が語られたことによって1つの物語に姿を変えた。もちろん、重たいテーマに起因する部分もあったとは思うけれど、ここで得られた感動は本物だと思う。

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