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本の感想

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#感想

僕はやっぱりこの場所が好きらしい 『モノローグ書店街』小坂俊史(竹書房)

僕はやっぱりこの場所が好きらしい 『モノローグ書店街』小坂俊史(竹書房)

ここのところ、様々な事情が絡んで表紙買いなんてすることはめっきり無くなってしまったけれど、久々のそれは大当たりだった。

数々の4コマ作品を世に著している作家さん、きちんと読むのは初めてだった。
実は今、店のレイアウト変更のために商品の選定をしている(返品を進めている)んだけど、その中でタイトルと柔らかな表紙に思わず手が止まった。
在庫はしていたけれど、売り上げが立っていなかったので返品リストに入

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『君の隣に』本多孝好(講談社文庫)

文庫版の裏表紙に書かれたあらすじには、孤独な少女・翼という名前があるが、物語にはなかなか登場しない。あらすじに名前のあるもう1人、風俗店を経営する大学生・早瀬が自分のスカウトした同じ大学の女性、加納アヤメの初めての出勤に立ち合う場面から始まる。話は加納の1人称で進み、早瀬はあくまでも加納がほのかに想いを寄せる、優秀な人物として出て来るのみ。
『君の隣に』という優しいタイトルとは裏腹に、やや陰りの見

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『七つの海を照らす星』七河迦南 創元推理文庫

 海が見える丘の上に建つ児童養護施設・七海学園。様々な事情を抱え、そこで暮らす子どもたちの保育士として働く北沢春菜は、子どもたちを悩ませる学園の七不思議を解明するため奔走する。いないはずの少女、あるはずのないもの、消えてしまった友人……6つの謎の真実が知らされたとき、7つめの不思議が姿を現す。

 日常の謎を解き明かしていく連作短編集。とはいえ、舞台が児童養護施設ということもあり、人は死なないまで

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『悪いものが、来ませんように』芦沢央 角川文庫

 不妊と夫の浮気に悩む紗英。彼女のよりどころは幼い頃から一番近くにいた奈津子だったが、彼女も自分の居場所を見つけられず、紗英を支えに生きていた。
 周囲にも理解を得られないほど密接な関係が、徐々に彼女たちを追い込んでいく。人が理解し合うことの困難さを突きつける心理サスペンス。

 なんというか、グロテスクな作品。後味や読み味を意図的に悪くするイヤミスと呼ばれるものとは違うと思うが、とにかく終始ザラ

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『木洩れ日に泳ぐ魚』恩田陸 文春文庫

 引越しの準備の終わったアパートの一室。別れを目前にした男女。夜が明けたら別々の道を進む2人が過ごす最後の夜。彼らはお互いに相手に対して確かめなければならないことがあった。朝の光と共にもたらされる真実い向け、相手の一挙手一投足、一言一言に神経を張り巡らす濃密な心理戦を繰り広げる。

 とてつもない緊迫感のある即興劇のようだった。
 冒頭、お互いが引き出そうとしているのが、ある人物についての死の真相

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