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本の感想

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2019年6月の記事一覧

『ペンギンは空を見上げる』八重野統摩(東京創元社)

これは、よかった。すごかった。
泣ける話がすなわちいい作品だとは思わないけど、いい作品はやっぱり泣ける。
こみ上げてこみ上げてあふれてあふれてとまらなくなった感情は、やっぱり涙になってこぼれてしまうものだから。

主人公、佐倉ハルは小学六年生。NASAのエンジニアを目指して勉強中。風船ロケットを飛ばしたり、英会話を勉強したりと、かなり目的意識が高い。
風船ロケットを飛ばすハルくんは、ガガーリンの名

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『今さら翼といわれても』米澤穂信(角川文庫)

デビュー作『氷菓』につらなる古典部シリーズの6作目となる短編集。
2年生になった古典部の面々の屈託が、さらに掘り起こされている。

米澤穂信といえば、押しも押されぬミステリ作家で、年末のランキングで2年連続の3冠を達成するほどの書き手だ。
でも僕の好きなところは、ミステリとしての完成度以上に、デビュー作『氷菓』からずっと生きることの苦さが描き続けられているところだ。
米澤ミステリの興味深さは日常系

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『ワーカーズダイジェスト』津村記久子(集英社文庫)

偶然にも生年月日と身長が同じ、佐藤奈加子と佐藤重信。苗字まで同じ男女は出会いも偶然。
32歳。仕事や人間関係についての悩みとは折り合いをつけられるはずと思いつつ、それでも思うようにいかない日々の中、ふとした時にお互いのことを思い出す。
どこにでもある日常、どこにでもいる男女、共通点は多くとも、深く交わることのない2人のそれぞれの毎日をゆっくりとつづる。ただ、それだけの物語。

単行本の出版が201

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『この世にたやすい仕事はない』津村記久子(新潮文庫)

新卒から14年勤めた仕事を燃え尽き症候群のような状態になって辞した後、失業保険も切れてしまった主人公の「私」は、職業相談員に「一日コラーゲンの抽出を見守るような仕事」というふざけた希望を出す。
その結果、彼女に与えられたのは。
隠しカメラを使った小説家の監視する仕事。
巡回バスの広告アナウンスの原稿を作る仕事。
おかきの袋の裏のコラムを考える仕事。
家々を訪ねて啓発ポスターを張り替える仕事。
森林

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