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(最終回)普通のオジさんに戻ります
(前回までのあらすじ)
骨折を機にサイボーグになった私だが、思いのほかポンコツスペックだったため、日常生活に苦戦していた。
サイボーグへの外科手術からおよそ1ヵ月が経過した。
順調と途中言われていたが、果たしてどうなっているのだろうか。
予定されていた外来へ足を運ぶ。
整形外科を受診する前にレントゲンを撮ってもらう。
果たして、きちんと回復しているのだろうか。なんやかんやごつんごつんぶつけたりしていたので、変な形でくっついたりしているという可能性は無いのだろうか。
実際たまにあるらしく、この場合、どのような取り扱いになるかは詳しくは知らないがなりたくないなとは思っていた。きっと詳しく知ってしまうと滅入ってしまうだろうし、アンチエイジングの妨げになってしまうだろうから。
自称イクメン(イケメン的な発音)な関係上、このようなネガティブトピックはノイズとして記憶しないことにしている。いわばポリシーである。
男はいつもかっこよくなくてはならない。
仮に変形していたとしても、ポジティブに捉える必要すらあるのだ、そんなことを考えながらレントゲンの写真を撮る。
あれれ、前回物理的に曲がらないよ、な方向からの撮影ができるようになっている。
これは回復なのか変形なのか、本人的には謎なのだが、前回できなかったことができるようになったという変化があった。
レントゲン技師さんの「上着はそこに置いてくださいねー」的なコミュニケーションにも、「あ、すみません。ファスナー外してもらってもいいですか?」のような煩わしさがない。
きっと進歩であり、回復である。
とここまでは順調に進む、総合病院あるあるである。
ここから予約してる時間大幅に超えて待合室前でスマホいじる以外のつぶし方が見当たらない時間に突入である。
もしかしてもしかして
装具、今日外しましょうか?的な流れになってしまうのではないか。
当然意識はしていたが、具体的なイメージを避けていた想像に直面した。
そうなのであるポリシー問題である。
正常性バイアスなのか何なのかではあるが、僕は、ちょいちょい苦痛を伴うイメージの解像度が低いまま後回しにされたまま、直前に、恐ろしい現実と向き合うことがある。
ポリシーの代償として、なかなかの怖さである。
受付番号が呼ばれた。
診察室に入ると、先生は先ほど撮ったレントゲンを見つめ、こういった。
「順調に回復してますね、今日装具はとっちゃいましょう。」
!!!
あ。はい。。麻酔はありますか?
「ないです。痛みは伴いますがすぐですよ。」
痛みは伴いますがすぐですよ
痛みは伴いますがすぐですよ
や、やはりか
どのくらい痛いのか、どのくらいすぐなのか
祈るしかない。
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まぁ、痛くないはずがないのは想像に難くない
「気持ち悪くなったりしたらすぐに言ってください、たまに気絶されてしまう方もいますので」
このワーディングだけで既に気絶できるんですけど
「では、いきますよ、まずはワイヤーからです、こちらはそんなに痛くないと思います」
うわあああああ!!!!
手首から脊髄が抜かれてしまうのではないかという錯覚にかるく陥ることができるくらい長いワイヤーに感じた
きっと、ものの1秒位の出来事なのだろうけれど、とてつもない時間に感じられた
反対の手のひらから脳天から、そして背中から汗が吹き出す
これが2本続けざまに抜かれた
疲弊である。
2度目も叫んだ
うわああああああ!!
「続いてアンテナ抜きますよ」
アンテナ??
そんなに痛くないと思いますのワイヤーがこの有様である。アンテナを4本抜くだなんて4回死ねる。
作業されている自分の右手から目を離していたのだが、あろうことかワイヤー2本ぬいた状態の右手をうっかり見てしまった。防衛本能だろうか。見たところで、怖くなるだけでこの後起きる現実を避けようもないのだけど。
先生はIKEAで売ってるような工具を持っていた。
これは、確実に、抜く際に、ネジ状のものを、外す準備だ
これは、間違いなく、確実に、痛い
うっかり見てしまった目を再度そらす。
見なかったことにする。
「行きますよ」
行かないでくれーーー!!!
心の中で全力で叫んだが、発している言葉は、
うぉおおおおおおおおおおおおお
だったはずだ
「大丈夫ですか?続けていっても?」
これは、はい、かイエスか、喜んで、以外の選択肢がないやつではなかろうか
仕方なく「はい」を選ぶ
うわあああああああああああああ
2本目のアンテナが取れる
2本目のアンテナが取れたことにより、固定されている装具がそのバランスを失い、外れていく。
そのせいもあるのだろうか、後になって考えると2本目はめちゃめちゃ痛かった
手首と腕の骨がネジを通して触られている。
麻酔もなしに。
皮膚も肉も突き破って。
「一気に終わらせちゃってください!!」
あまり時間をかけて欲しくなかった。
早く最終形になりたかった。
全て外れた右手をさすりたかった。
自分の右手に感謝したかった。
リクエストを伝えた後、何回目かの雄叫びをあげた
うわああああああああ
変な汗でグダグダになりながら4本目のアンテナが抜かれた。
---
深呼吸をした。
これはうまく吸えたし、うまく吐けた。
そして僕は大事な僕の右手を手当てしてくれてる先生と看護師さんの顔を見ることができた。
当たり前なのだが、2人ともとても落ち着いているし、気の毒そうな顔をして、ねぎらいの言葉をかけてくれた。
なんて言ってくれたか全然覚えてないけれど。
そして、右手を見た。
数カ所の穴から血が吹き出している。
私は生きている。そういうことである。
数カ所の出血箇所に手際よく消毒と止血の処理をしてくれている。
体内に残っているのは、プレートだけであるが、これは別に害がないので、わざわざ全身麻酔をしてまで取る必要は無いと言うようなことを改めて説明された。
つまり、この時点を持って、サイボーグ生活終了である。
普通のオジさんに戻るのである。
私の事は嫌いになっても、サイボーグのことが嫌いにならないでください!!
そういうことである。
「部品、お持ち帰りされますか?」
もちろん、はい、だ。
壊れた生身のおれを新たなスタート地点に連れてきてくれた大切な部品だ。
もう使うことはないだろうけど、感謝と愛着に似た感情すらある。
目にすることのない自身の骨をネジ先で差し込んだ上で外界で未来を生きるためにワイヤーと繋ぎながら、次のステージに連れてきてくれた大事なネジだ。
単なるテンポラリパーツではないのだ。
僕にとって過去と未来を繋いでくれた希望の光なのだ。
かくして私は普通のおじさんに戻ったわけだが、現在もなお、可動域と出せる力が元に戻ったわけではないので、ゆっくりとリハビリをしながら暮らしている。
ネジ穴のカサブタも剥がれたりくっついたりなので感染症予防の防水対策をしてシャワーをしている。
次の目標は温泉である。
早く出血のあったネジ穴元にも戻んないかしら。
時間はかかるだろうけれど、これは時が解決するので、のんびりやろうと思っている。
そしてもらった抗生剤と痛み止めがなくなったときには酒も飲んでやろうと思っている。いやすでに飲んでいるのだが、酔っ払って転ばない程度にいろいろな人と乾杯したいと思っている。
新年会も全くできなかったしね。
復活を祝ってくれると嬉しいなと思えるのはもうすぐかと思ってます。3月入ったら声かけてもらえるときっと尻尾をぶんぶん振って参加させていただくのでよろしくお願いします。
勝手に短期連載としてました。単に怪我にまつわる心の動きをまとめておきたかっただけですが、読んでくれた皆さんありがとうございました。
励みになりました。
右手は動かないけれど、心はいっぱい動きました。
人生何回目かの入院ですが、初の全身麻酔と初の手術と言うこともあり、文字にしておきたい気持ちが湧いてしまいました。文字にしておかないときっとこの数週間に感じた大事なことや気づいたことをいつか忘れてしまうし、何らかの新しい人生のフェーズに入ったような気もするのです。
迷惑をかけた仕事関係の皆様、病院関係者の皆様、そして心配してくれた家族、ありがとうございました。
無事に日常が戻りそうです。まだだいぶ先ではありますが。しばしお許し下さいな。
個人的な記憶の記録なのですが、もしいつか転倒する瞬間に、この内容を思い出していただき、手首はつかずに転がっていただければ幸いです。
おしまい
さあ、Jリーグ開幕したし普通の暮らしに戻るぞ!(徐々に
そして、末っ子の幼稚園も始まるのだ。
のんびりリハビリしてる場合じゃないぜ!(場合だけどな
よかったらスキとかしてやってください!
ちゃんとやろうかなぁnote