社員を切れない駐在員達
とある在中日本人駐在員Zのお話。
彼はアラフォーながら、中国現地法人の中でもトップの成績をたたき出している、稼ぎ頭の部署の部長を務めている。中国市場の成長と共に部署もどんどん拡大していった。
それに応じて、社員もどんどん増やしてきた。部下からもちゃんと話を聞いてくれる、人が好い上司と評判上々だ。確かにZは人として優しい。ただ、裏を返せば、与しやすく、こいつをうまく取り込めばなんでもやりたい放題だと思われている節が多々あった。
業務拡大により、彼は3人の女性アシスタントを雇った。試用期間2カ月という時間では、彼女らの能力や性格を把握するにはあまりに短い時間であった。まあ、いないよりはいいか、と考えた彼はそのままその3人を継続して雇用していくことにした。
ところが、雇用継続が決まって1か月も経たない中、3人がほぼ同時期に「妊娠報告」を上げてきたではないか。彼は思わず頭を抱えた。
おめでた自体とても喜ばしいことではあるが、今後彼女ら3人が一定期間会社から離れ産休をとることになり、その際代わりの人を雇用しなければならない。その採用活動自体も時間と労力、お金がかかり非常に煩雑な仕事が増えることとなった。
困ったことに、彼女ら3人は全員仕事が出来ない人だった。日本語の能力もどちらかと言えば低く、正直いらない存在となってしまった。
駐在員であるZは産休に入る直前の1か月から代わりの人間を3人雇い、引継ぎ作業を行ってもらうこととした。ところが、引き継ぐ側の人間がZに「彼女らは何も教えてくれない、そもそも何も理解していない、私達どうやってこの仕事を引き継けばよいのですか!」とクレームが来た。クレームが来ただけなら良かったが、何とその代わりの人間3人共が辞めてしまった。
Zはまたもや頭を抱えることとなった。大急ぎで人材派遣会社に連絡し、候補者のリストを送ってもらい、面接の手配を行った。正直面接に来た人間たちもとても使えるレベルの人達ではなかった。しかし、そうは言っていられない、その場しのぎ的にまた3人の新人を雇った。
何とか引継ぎ作業を終え、産休に入った3人だったが、新人たちは意外にも環境に早く適応し、皆で少ない人数でより多くの仕事をまわせるように議論し、工夫し、改善していった。その結果、今の体制で十分やっていけるようになった。しかも、新人のうちの一人は他部署に欠員が出た為、是非譲って欲しいと依頼があり、異動してもらうことになった。Zは肩の荷が下りたようにふーっと一息をついた。
そして、産休の3人が戻ってくる時期になった。Zはまたもや頭痛の種が増えてきたことにイライラしていた。現状の体制で十分組織をまわせていけるようになったのに、全く使えない3人が戻ってきても、やってもらう仕事は何もない。とは言え、産休明けの人間は1年間首にしてはいけない(正確には出来るが金銭的補償をする必要がある)という縛りの為、軽々しく首にも出来ない。
これから1年この使えない産休明けの3人を雇用し続けなければならないことに、法律を憎んだZだが、決まりは決まりなので仕方ないとあきらめるしかなかった。
業務に戻った女性陣3人は、毎日PCでショッピングサイトサーフィンしたり、ドラマ三昧な日々を送っている。仕事をさせても期限を守らない、ミスが多く、人の指示もよく理解していない。Zはますます怖くなって彼女たちに仕事を任すことが出来なくなっていった。
とは言え、彼女達3人の人件費(保険・福利厚生等含む)合わせて年間で30〜40万元(500〜680万円)という費用が発生するのだが、部門自体が好調でそれを余裕でカバーできるほどの利益を叩き出していたので、Zも会社の総経理も意に介さなかった。
ところがその後、急激な市場変化により、客先が淘汰され、売上が激減。稼ぎ頭であったZの部門は一気に赤字に転落した。赤字に転落したが、お荷物となる3人はまだ契約上解雇することが出来ない。そうこうしているうちに、業績は更に悪化する。もう火の海だ。
組織を改編することはもちろんだが、部署内の部下達を同じ社内の他部署で使ってもらえないか打診することになったが、必要最低限の部下は残さないといけない。となると要らない「あの3人」を引き取ってもらう部署を探さなければならない。だが、どこの部署も手をあげなかった。皆がこの3人の存在をしっており、絶対いらないとつれない返事しか返ってこなかったのだ。
仕方なく、現状をその3人に話したところ、一人は憤慨し机をたたき抗議し、一人は裁判を起こすと叫びだし、一人は補償金1年分出せともう無茶苦茶である。
こうしてZは組織の立て直しもする暇もなく、無駄な仕事ばかり増え、疲弊してしまい、最後には鬱になって本社から帰任命令が出た。Zのその後を知るものはいない…
(この話はフィクションです)