花畑のフリーレン──フリーレンを楽しむ魔法③
「花畑を出す魔法」
それは主人公フリーレンが師フランメから継承した特別な魔法です。
最強の帝国さえ建国した伝説的大魔法使いフランメ。しかし彼女が一番好きな魔法は可憐な花畑を出す魔法です。両親から教わった大切な魔法。晩年、フランメはそれをフリーレンに伝えます。自らの墓を花で飾ってもらうためでした。
フリーレンも一番好きな魔法は、この魔法だと言います。
初めて使ったのは師を弔うため。
以降、フリーレンの周囲には花があります。
原作では登場しませんが、アニメではハイターが亡くなった後、花畑を歩むフリーレンが描かれます。これも彼女の心の風景でしょう。
さらにフリーレンを愛した勇者ヒンメルに至っては、彼の故郷に咲く蒼月草さえ絶滅を疑われる状況に。フリーレンは彼の銅像を飾るため、蒼月草を探し出し、復活させます。これを弔いの行為ととらえると、世界中に残るヒンメルの銅像は彼の墓標とも言えることに気づきます。ヒンメルとの旅路を辿り、彼の銅像と思い出を旅するフリーレンは、まさにヒンメルを弔いつづけているとも言えるのです。
フランメの師であるゼーリエは、フリーレンがこの魔法を一番好きなことを「実にくだらない」と切り捨てます。魔法使い同士の壮絶な戦いを想定するゼーリエにとって、戦いは勝つべきものであり、弔いを伴うものは尊ぶべきではないのかもしれません。それでも、彼女もフランメが愛した、この魔法を大切に継承していました。
しかし「花畑を出す魔法」は弔いだけではありません。
フリーレンがヒンメルと初めて出会ったとき、見せた魔法であり、未来で組まれるパーティを呼び寄せることになります。
ヒンメルは言います。
綺麗だと思ったんだ。生まれて初めて魔法が綺麗だと思った──
それは彼がフリーレンに抱く思慕の情と等しいものに感じられます。美しい魔法を見せた美しい魔法使い。
作中で「久遠の愛情」を象徴するのも花──鏡蓮華と呼ばれるデザインが登場します。
フリーレンが大切にする指輪はヒンメルに贈られたもので、蕾のデザインとなっています。
そしてフリーレンの一番弟子フェルンも、ともに旅する戦士シュタルクに鏡蓮華のブレスレットを贈られます。こちらの鏡蓮華は開いており、二人は両片思いに陥っていますが、いつか咲き誇るのでしょう。今後の進展が楽しみです。
フリーレンにとって、花畑を出す魔法は弔いと出会い、双方の意味があります。
そして、それはいつも、彼女が知りたいと願う人間と繋がっています。
彼女にとって花は生命の象徴。
素っ気ない言動のフリーレンですが、作品の真ヒロインとして、ふさわしいモチーフを持たされているということだと思います。
他の『葬送のフリーレン』に関する記事はこちら。どれもさらっと読める軽い内容です。