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Fate/Revenge 16. 聖杯戦争五日目・夜──聖杯の行方-②

割引あり

 二次創作で書いた第三次聖杯戦争ものです。イラストは大清水さち。
※執筆したのは2011~12年。FGO配信前です。
※参照しているのは『Fate/Zero』『Fate/Staynight(アニメ版)』のみです。
※原作と共通で登場するのはアルトリア、ギルガメッシュ、言峰璃正、間桐臓硯(ゾォルゲン・マキリ)です。
※FGOに登場するエンキドゥとメフィストフェレスも出ますが、FGOとは法具なども含めて全く違うので御注意下さい。

 ブランデンブルグ門の下で、英雄王は騎士王の黄金の宝剣を突きつけられたまま、動こうともしない。胸を曝して守ろうともしない態度は、彼の言葉を証していた。
 分かっていた。
 彼の言葉に嘘がないこと。あの耳飾りと首飾りは友に自らの生命を差し出すためのもの。彼は代わりに死のうとした。
 俺のために死んでくれるんだよね……
 私欲からセイバーの生命をねだるカスパルとは正反対。
 彼は私のために死ぬだろう。
 アルトリアは心の底で悟っている。だが彼女が王である以上、譲れぬものが多すぎた。
 ギルガメッシュの赤い瞳が優しくアルトリアを見つめる。
 アルトリアが剣を彼の胸にあてると、金の鎧が澄んだ音で鳴る。チンと冷えた音が広場に響き渡った。
 瞬間、じゃらららんっと大音声をたてて、どこからともなく太い鎖がアルトリアを背後から絡めとった。それは彼の友が変じた、あの鎖。アルトリアの足に、腕に巻きついて離さない。
 それでもアルトリアはエクスカリバーを構えつづける。
「私は大義のために剣を執るのだ。私の胸に義あればこそ、剣も私を選ぶのだ。剣がこの手にあるかぎり、私は止まるわけにはいかない。それは私にできることが、果たすべき定めのある証」
「ならば剣を棄て、我が妻となれ」
 アルトリアは茫然と目を見開いた。それは第四次聖杯戦争の際に行われた求婚と、全く同じ言葉だった。あの時は彼の意図が分からなかった。自分に向けられる言葉の半分も聞いてはいなかった。頭ごなしの求婚に、馬鹿にされているとしか思えなかった。
 実際、彼はこのようにしおらしくはなく、殺しかねない勢いでいたぶりながら求婚してきた。
 だが、あれは私が聖杯に取り憑かれていたからなのかもしれない。
 『アーサー王』という理想の贄となるグィネヴィアの苦衷を慮れども、癒してやることはできなかった。あれほど激しいランスロットの苦悩に目を瞑りつづけた。モードレットの劣等感を減じてやることも。ガラハッドは、パーシヴァルはあてのない探求を心底で、どう思っていたのか。彼らの苦難をねぎらってやることもできなかった。
 私は全ての間隙を聖杯が埋めてくれると信じたかった。
 それを埋められるとしたら私自身しかいなかったのに、心の底で聖杯に頼った。
 縋りつき、追い求め、どんどん人の心が見えなくなった。
 誰よりも何よりも聖杯を求めた狂気の沙汰を止めるには、第四次聖杯戦争におけるマスター、衛宮えみや切継きりつぐがそうしたように、私を否定し、気づかせようとするしかなかったのかもしれない。第四次聖杯戦争のライダー、征服王イスカンダルが辛辣に諭したように。
「私は……」
 アルトリアが構える剣の切っ先が緩む。長すぎるほど長いエクスカリバーの切っ先がギルガメッシュの胸を外れる。ギルガメッシュがアルトリアの目の前にゆったりと歩み寄る。
「どうした。二度目だぞ。分かっておるか」
 ああ。アルトリアは心の奥でため息をもらす。彼は気づいていたのだ。分かっている。斬ってしまえばいいものを斬れなかった。
 恐ろしい。
 もしかしたら、本当にもしかしたら、恐ろしいことが起きるかもしれない。第四次聖杯戦争の最終盤、聖杯はあふれた。冬木ふゆきの街を焼きつくし、たくさんの人が焼死した。それは自分が果てた後。
 あのとき私は六人目だった。
 もし私が斬り、彼が聖杯に還ったら聖杯に納まる英霊は七柱。同じように聖杯があふれるかもしれない。
 そうなれば誰にも止めることはできぬ。
 だが今、聖杯を破壊してしまえば何もかも止められる。
 アルトリアは唇を噛む。
 ギルガメッシュの声が星のように降ってくる。
「そなたがオレを斬れぬのは、其が心に解あればこそ。そなたは気づいておるのだ。剣を捨てた先の世界に。そなたが剣を持たずともよいと」
「違う」
 アルトリアは目を見開いて振り仰ぐ。そのときにはもう、英雄王が目の前にいた。彼の声がぶつかってくる。よろけるようにアルトリアは後ずさろうとする。だが鎖が彼女を引き留める。ギルガメッシュが構わず間合いを詰める。触れるほど近い。彼の胸が迫ってくる。
「剣を棄てよ」

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