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金剣ミクソロジー⑦旦那さまは400歳

Fate/Zero二次創作です
注意点
※アルトリアとギルガメッシュが第二次聖杯戦争の後も現界してるif設定
※ギルガメッシュの求婚にアルトリアさんが応えて、二人が夫婦という金剣ドリームです
※ギルガメッシュはアラブの石油王、アルトリアさんはイギリス随一の実業家&馬主(not JRA)に成り上がっています

     旦那さまは400歳

 1956年。
 二人が第二次聖杯戦争で現界してから80年以上が過ぎていた。太平洋戦争が終わって、やっと冬木ふゆきの生活を楽しめるようになり、落ち着きを取り戻せた。ギルガメッシュの事業もますます大きくなり、二人はさらに富裕になったが、昨今の風潮に合わせて使用人を呼ぶ日は週4日にした。そうしてみると、二人は自分たちだけの時間が持てることに気づき、これはなかなか悪くないと考えはじめた。
 今まで昼間は使用人がいるため、話題の制限があったのだが、聞く人もいなくなれば話題も自由になる。
 その日も午後のテラスで二人はお茶を楽しんでいた。
 ギルガメッシュが焼いたビアブレッドとアルトリアの淹れたミルクティー。今日のお茶は祁門キームンだ。ギルガメッシュがお茶に砂糖を入れてかき回す。アルトリアは三枚目のビアブレッド片手にため息をついた。
「しかし、随分この世で生きたと思うのに少しも飽きないものだな。生前もあんなことがなれけば『全て遠き理想郷アヴァロン』の加護の下、何百年と生きてしまったのかもしれないが……」
 アルトリアは、もしかすると自分は生き飽いて、ギルガメッシュとの生活さえ楽しめなくなるのではないかと考えたこともあった。しかし現実はそうならなかった。いつになってもするべきことは消えることがなく、ギルガメッシュの成功に伴い、アルトリア自身の事業も大きくなり、退屈なぞする暇がないのだった。
 アルトリアはビアブレッドを噛みしめて、もくもくと口を動かしながら首を傾ける。
「もう前に生きたときより長くこの世にいる気がする」
「左様か。それは羨ましい」
 アルトリアはきょとんと顔を上げる。ギルガメッシュは一向、退屈する気配すらなく、着々と財産と地位、権力を積み上げている。彼は当たり前のように80年働きつづけていた。普通なら、そろそろ休みたくなる頃合いだ。
「そういえば貴方は生前、いくつで亡くなったのだ?」
 聞いたことがなかった。アルトリアはすでに自分の正確な歳を覚えていなかったし、いくつで死んだかよりも、どうして死んだかの方がずっと劇的だった。彼の身の上話は自分以上に劇的だったし、その死に際について話したこともなかったのだ。何故なら彼の人生は友の生命とともに終わってしまったのだから。
 ギルガメッシュが紅茶をかき回して気難しげに首を傾げた。彼は肘をついて悩ましげに眉を寄せた。
「そうだな。ざっと400歳程度であったと思うが」
「はい!?」
 アルトリアが瞬きしたのは無理からぬことであった。だがギルガメッシュは株式の取引額でも思い出すような顔で指を折った。
「そもそも父上がお若いときにオレは生まれたのでな。即位するまでも300年ばかりあってだな……オレが王に就いてからは120年ばかり治めた(※王名表より。父ルガルバンダは在位1200年。ギルガメシュは126年)のではあるが。はて」
 指一本が百年て、どういう計算方法なのだ……
 茫然としてからアルトリアは首を振った。
「……貴方はそもそも400歳を越えていたというのか」
「であろうな。エンキドゥと無茶をしなければ父上よりも長く生きたであろうが、まあ無理が祟ったのだな、それなりに」
 けろりとしたギルガメッシュの言っていることが分からない。
 ギルガメッシュが秀麗な美貌を曇らせ、困ったように頷いた。
「だがまあ500年は生きておらぬと思うぞ!」
「適当すぎる!」
 叫んでしまったとしても仕方がない。
「ちょっと待て。400年も生きられるなんて貴方はいったい」
「忘れたか。オレは三分の二は神の身ぞ。ただ人のように短命ではないわ」
「では、貴方も不老の身?」
 アルトリアの中で長年の疑問だったことが昇ってくる。この人はもしかして歳をとらなかったのではないか。だから私のさまざまなことを受け入れてくれるのでは。アルトリアのどきどきは裏切られなかった。
 ギルガメッシュがおっとりと頷いた。
「歳はとらなんだな、確かに。だがまあ死んではいるわけだが」
「私も同じだ。私と同じ」
 嬉しかった。
 すでに人としての人生など捨てた身だったが、それでも共に歩む仲間がいると分かると嬉しい。アルトリアがぎゅっと両手を握ると、ギルガメッシュが少し驚いたように目を見張り、それから急ににやにや笑った。
「そうだな。そなたとオレだけがこの世で歳をとらなかったのだなあ。まさに定めの恋人ダム・ナムラよ。なあ」
 顔を寄せるギルガメッシュにアルトリアは目を見開いて硬直する。
「えっと。その」
「その上、そなたは死なぬ身体。オレにとっては不思議でならぬ」
 異様に整ったギルガメッシュの顔が近づいてくる。陽光の下で彼の肌は艶めき、赤い瞳は紅玉のごとく澄みきっている。目が合うだけで胸がときめく。こんな美しい人と目が合って、ときめかない人なんているはずがない。
 唇を重ねられると、目をぎゅっと閉じて緊張してしまう。だがすぐ彼の甘い舌先が固く閉じた唇を割る。雪の下から現れる花のように、アルトリアの唇が開いてしまうのだ。
 だめだ。
 頭がくらくらする。胸が苦しくなるほど鳴る。
 貴方はあまりにも長く生きて、私よりずっとたくさんのことを経験してしまったのだな。だから達観しているし、絶望している。そのくせ貴方の胸は怖いくらいの愛ではちきれそうなのだ。
 彼の胸に抱かれてアルトリアは目を閉じる。
 どうしよう。庭でキスしてしまった。こんなことがあるなんて。まだまだ世界は神秘を隠しているようだ。
END

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