Fate/Revenge 12. 翡翠の鳥──Blauervogel-③
二次創作で書いた第三次聖杯戦争ものです。イラストは大清水さち。
※執筆したのは2011~12年。FGO配信前です。
※参照しているのは『Fate/Zero』『Fate/Staynight(アニメ版)』のみです。
※原作と共通で登場するのはアルトリア、ギルガメッシュ、言峰璃正、間桐臓硯(ゾォルゲン・マキリ)です。
※FGOに登場するエンキドゥとメフィストフェレスも出ますが、FGOとは法具なども含めて全く違うので御注意下さい。
アンは無言でまじまじとランサーを見つめた。あのホムンクルスの美しい女性も、このランサーも人間ではないなどと言われても、にわかには信じがたい。人間と何も変わらないのだから。
ランサーがにっこりとアルトリアに視線を流す。アルトリアは唇を噛みしめた。彼女の脳裡には右腕であり、親友たると信じていた湖の騎士がありありと浮かんでいた。
「だが僕は彼と友達になってしまった。神々は手に負えなくなった我が友が邪魔でな。僕を殺して片腕をもぐことにした。僕があの雄牛を殺すとき、再び十二日間の熱病もやってくるのだ。日が暮れれば僕は起き上がることもできなくなる」
ランサーがアルトリアに手を伸ばす。アルトリアは惹かれるように近づいた。すると彼はアルトリアの金色の髪に手を触れさせた。
「息のあるうちに、また君に会えてよかったよ」
「その熱病とやら、なんとかならぬのか」
アルトリアは真摯にランサーを見上げる。確かに困ったところのある男だが、何故か憎めない。アルトリアの後ろからウォルデグレイヴも乗りだした。
「そうだ。わたしが癒そう。わたしなら」
「無駄だ」
ランサーがぽんぽんとウォルデグレイヴの胸を叩く。
「分からぬか、ウォルデグレイヴ。宝具とは我らにつきまとう伝承の具現化なのだろう? しからば僕の熱病は手のつけようがなかったという伝承もまた、再現されざるをえないのだ。そなたの生命を全て吸いつくしても僕は死ぬ」
「ランサー」
ウォルデグレイヴがランサーの肩をつかんだまま肩を震わせる。
「それに、熱病を癒せたとしても全ては無駄だ」
ランサーの断言に再び一同の視線が集中する。キャスターが鋭い視線でランサーを見つめる。ランサーはあっけらかんと秘密を口にした。
「僕は宝具の真の力を引き出すことができない。僕自身が神の使う神造武装。道具が道具を扱うことはできぬ。僕の宝具を真に扱いうるは我が友のごとく神の血を持つか、あるいは」
ランサーがアルトリアに柔らかく視線を留めた。
「君のように神に愛された存在でなければならない。僕はイギギの神々にとっては鬼子だからね。あの槍を開くことができぬ。昨夜、僕はあれを倒すことができなかった。つまり僕が全き状態で立ち向かったとしても勝てないということだ。すまぬ」
にっこり微笑むランサーの言葉に、ゾォルゲンが杖を突いて一同の中心に進み出た。ランサーとセイバーを振り返る。
「つまり、あれを討ち果たすことは適わぬと、お前たちはそう言うのだな」
洞のように光る目で見つめられて、ランサーはあっさりと頷き、アルトリアは仕方なくあごを動かした。認めたくはないが、二人ともまともに戦える状態ではないのだ。
「二人で共闘しても結果は変わらぬと?」
「互いに切り札を持たぬ以上、そういうことになる。そうだな、セイバー」
ランサーが肩をすくめる。
「ああ」
とうとうアルトリアは暗に『約束された勝利の剣』を撃つことができないと認めた。昨夜のように魔力を供給されれば別だが、アルトリア自身の貯蔵魔力では通常の戦闘しか行うことはできない。
突如しわがれた哄笑が響き渡った。
「おい、アインツベルンの! 貴様らは下らぬ浅知恵で聖杯戦争そのものを破壊しよったということだ! 聖杯は悪霊の手に渡り、我らはそれを駆逐できぬときた。その責任をどうとるつもりだ」
ゾォルゲンが杖でホムンクルスの美女を指す。
「英霊を使い魔とするシステムはわしが構築したもの。あれがわしのシステムの下にないことは分かっておる。制御不能のサーヴァントを呼び出して、どうするつもりだ。ユーブスタクハイトよ。おぬしの術では、あれの首に縄をかけることはままなるまい?」
「ぐ」
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