愛する力を求め続ける勇気を 現在地について7
日本全国縦横無尽の完走、縦横無尽完結編の大成功に
心からの祝福をこめて。
このひとは《愛》を見つけたのかもしれない。
いや、愛されることは、愛することだとわかったのかもしれない。
そんな感想が押し寄せる。
「自分のために歌っている」という発言を何度か見聞きした。とても共感してしまうのだが、この承認欲求と達成感充実感の話を持ち出すとややこしくなるので、横へ置いておこう。
自分のために歌っているのだとしても、聴いてくれる人がいるから生業として成立するのであり、求められることはやはり嬉しいだろうし励みになるだろうし、コンサートはそれをお互いに体感を以って確かめ、 happiness を交換する機会。日本全国縦横無尽の完走、そして縦横無尽完結編の大成功、あらためておめでとうございます!
今回の偉業は、この双方向の《愛》が日本全国をその渦に巻き込み、スパイラルを描きながら無尽に上昇して行った軌跡、そんな旅だったように思えるのです。
若き日の月の歌、
1番では ‘今日もまた’、2番では ‘明日もまた’、と連日《愛》を探して歩く。この、どこにあるかわからないままあてもなく探しに行く、という刹那感を表に出さないのどかさが、今宵の月に切なく照らされて、希望へと昇華していく。‘いつの日か輝くだろう’、と未来の夢をそのやさしい月の光に託し、オクターブを行き来する旋律が清々しい。
日本全国縦横無尽のセットリスト。
クライマックスへと加速していくアップテンポのポップス調3連続。
“この道の先で”
“十六夜の月”
“rain-愛だけを信じて-”。
ここまでの道のりを振り返るかのような、過去形の歌い出し。
愛を求め、夢を追い、何度も生まれ変わり、そのたびに新しく目覚め、
そしてついに歌えたフレーズ、
その集大成がここに結晶する。
続く、月の歌。
現在の月の歌( “十六夜の月” )は月との美しい思い出をよみがえらせ、若き日の月の歌( “今宵の月のように” )は来し方を思いながら未来への希望を歌い上げる。ベクトルは異なるものの、あらためて歌詞を並べてみると呼応する部分が多いことに驚く。
電車に乗って町を眺め、月を仰いで君の面影を偲ぶのも共通している。月とは、郷愁をそそるものらしい。
そして、この若き日の月の歌は、雨の歌へとつながっていた。
‘くだらねえとつぶやいて’ は ‘「バカヤロウ」って心で叫んでみたけど’ へ。
‘醒めたつらして歩く’ は ‘何も変わらない明日の景色や心の景色’ へ。
月の歌は ‘愛を探しに行こう’ 、と今日もまた、明日もまた、あてのないまま散歩するようにのんびり探し歩く漠然としたロマンに若さがあったのが、雨の歌では
‘愛を求めて’、‘愛だけを信じて’ という力強い言葉に変わる。
もう探しに行ったりはしないのだ。
求めるもの、信じるものとして明らかに目標が定まり、誠実で真っ直ぐな勢いを伴って強い思いが迸る。
‘いつの日か輝くだろう’、‘俺もまた輝くだろう’ という祈りもまた、雨の歌でしっかりと受けとめられた。
と。
この “rain-愛だけを信じて-” に続くのが “P.S.I love you” 。
壮大な愛の絶唱。
愛を歌えるようになって、‘愛してる’ と連呼する流れの中に、
愛を求めて、愛だけを信じて、と言ったって、《輝き》も《喜び》もいつだって求め続けて追いかけてきたんだ。
その過程のなかで誕生したこの大名曲は、愛されることでここまで愛することができるのか、まさしく《愛》を見つけて生まれ変わったのかもしれない、とさえ思わせる、圧倒されるほどの荘厳さを湛えている。
宝物を「見つけた」んじゃない、「手に入れた」んだ。
愛という宝物を手に入れた日が新たな誕生日。
そう、生まれ変わった自分自身に祝福を!
と。
宮本浩次という極上のブリリアントカットの宝石は、どの面がこちらに向いているかで異なる輝きを私たちに見せてくれる。
かわいがってるぶざまな魂をさらす、そのアプローチが、
エレファントカシマシの宮本は《理想と敗北》から《人生》を描き、
ソロシンガー宮本浩次は《輝きと喜び》から《愛と祝福》を歌う。
表裏一体のメビウスの輪。
愛されるために、まずは愛すること。
―だとしても、それには《勇気》がいる。
と歌った若き日。
それは何に対しての、どんな勇気だろうか。
そう、
縦横無尽の大ラス、大団円を迎えて高らかに歌い上げる祝祭の歌 “ハレルヤ”。
ここでも ‘そんな俺にもう一丁’ と求めるのは《輝きと祝福》。
でも、共にありたいと歌うのは
‘強くもなく弱くもなくまんまゆけ’、そのための《勇気》なのだ。
“ヒトコイシクテ、アイヲモトメテ” いた若者は
上り下りの “ワインディングロード” を、縦横無尽に駆け抜けた
‘言うなりゃ愛のかたまり’ だった。
《愛のかたまり》、それはすなわち《勇気》。
今、‘果敢なく尊き story’(“just do it”) の最終章に新たなページが刻まれた。
折りしも、東京は梅雨が明けた。
物語は、次なる新しい季節の始まりへ。
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