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これがタルトである。

一昨日あたりからファンの間で話題になっている、ドロンコへいやさんの「カラオケで意外な選曲をする宮本浩次さんのものまね」がおもしろくて、笑っているうちにロッキン中止にまつわる気持ちのざわつきが収まっていた。
やっぱ笑いって救いだね。
 ああ涙ぢゃあなく 笑いとともにあれ。
ここが《笑顔》じゃなくて《笑い》っていうのがとてもいい。笑顔をつくるのは笑いなのだから、まず笑いがなくっちゃ。

この動画を見ながら、ご本家はきっと
「…プ、プリキュア? …ってなんですか?」
とかのたまうんじゃないだろうか、とか思って、そこからタルトの一件を思い出した。

タルトの一件とは、昨今のファンの間では知らぬ者はいないと言っても過言ではない伝説級のエピソード。『ヒルナンデス』(2020年11月23日放送)の企画で喫茶店めぐりをした時のこと。古民家リノベーションの縁側カフェで、このお店では季節のタルトが人気メニューと聞いてひと言、

「タルトってなんですか?」

そう、全世界のエビバデが、目が点になりひっくり返って萌え悶え、長く語り継がれることになるキラーワード誕生の瞬間であった。

説明を受けて、

 「へ~! それを私いただけるんですか今日は」

と嬉しそうに瞳がきらきら光る。やっぱね、知らないことを知らないと言える、恥ずかしがらずに聞けるって素敵。あれだけ本を読んでいて知識も豊富なのに、わりと一般的なことを(中略)なアンバランスさ。羞恥や謙遜はいらない。素直さと好奇心があればいい。人間界の物事をお勉強中の妖精さん。もう魅力が全開で、画面から溢れ出てました。

やがて、タルトが運ばれてくる。ひとくち食べて、思い出したような表情。どうやら既知のものだったか。

 「こういうのケーキとして、知らないで食べてる可能性はありますね。」

これがタルトというカテゴリーのケーキであることは知らなかったが、食べたことはあったかもしれない、ということらしい。

そりゃあ、そうだと思いますよ。
21世紀のこの東京でこの年齢まで生きてたらね、どこかで出会ってます。好奇心旺盛で、目に入るものに興味を持って、身辺のいろいろなことに気づいているはずだし、季節を移ろう風や空を巧みに歌詞にしてきた人だもの。記憶力もいいんだもの。

この言葉に、私はこのひとの頭脳の使い方を垣間見た気がしたんだ。
「ああ、タルトってこれのことですか。知ってました。食べたことありました。」とは言わないのだ。おいそれと結論は出さない、この感じ。ものすごく好きなのです。

そして結論を出さない代わりに、深追いもしない。
何かに出くわしたとき、いちいち考えない。
これは自分の知っているものか、名前は何か――。
記憶の森に分け入って探しに行ったりはしない。
そういうことに労力を使わないのだ。その作業をすることで、ほんの少しかもしれないが、脳のリソースを使用する。脳内CPUを動かしメモリーを使う。その労力を節約しているわけではなくて、おそらくは使わないことが自然なんだろう。その分を何か他のことに使っているんだろう。あるいは、自分にとって必要な情報かどうかを瞬時に本能的に判断して、必要ないとした物事に関しては感度センサーを切ってしまうのかもしれない。鋭敏なアンテナをあらゆる方向に張り巡らせていては、すぐに消耗してしまうから。

だから結局、タルトを知っていたのか知らなかったのかは謎のままだし、はたまたこれを機に正確に覚えてもらえたかも謎のままだが、私なぞは、彼が発した言葉だと思うと愛おしくてたまらなくなり、タルトに妙な愛着を持つようになってしまった。あなたはどうですか?

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