村民なら皆歌える! 地域に息づく民謡「ひえつき節」
椎葉村には多くの民謡が残っていますが、中でも特に有名なのが「ひえつき節」です。
「庭の山椒(さんしゅう)の木 鳴る鈴かけて」という歌詞で始まるこの歌は、あの美空ひばりさんも歌っており、日本の代表的民謡として知られています。
そんな「ひえつき節」発祥の地とされる椎葉村。毎年9月には「ひえつき節日本一大会」が開催され全国から多くの参加者が集まることからも、日本中で愛されてきた民謡だということがわかります。
「ひえつき節」は文字通り、ひえをつく時に歌う労働歌です。ひえつきの作業は単調ですが、ひえを精白して食べられる状態にするにはかなりの時間と労力がかかります。秋の終わりから寒い冬の間、家族や集落の人と数名で息を合わせての共同作業です。
▼前回のコラム「ひえつき」はこちら
https://note.com/kateri/n/nc44043385854
この「ひえつき節」の歌詞を見ていくと、またもや浮かび上がってくるのは、あの椎葉村の伝説。「平家落人伝説」と「那須大八郎と鶴富姫とのロマンス」です。
歌い出しで描かれているのは、鶴富姫と那須大八郎が逢い引きをする時の“二人の秘密の合図”。
鶴富姫の家の前にやって来た大八郎は、庭にある山椒の木に鈴をかけて鳴らし、自分が来たことを鶴富姫に知らせます。
その鈴の音を聞いた鶴富姫は、「ちょっと馬に水をやってきます」と言って外へ出て、大八郎と落ち合うのです。
平家の残党を追って椎葉の地へ足を踏み入れた源氏方の大八郎。そこで出会ったのは、かつての華やかさからはかけ離れ、農耕に汗して慎ましく暮らす平家の人々の姿でした。
「追討」が使命であったはずの大八郎はいつしか、平家の人々、そして鶴富姫という愛する人と椎葉の地で時を共にするようになりますが、やがて都へ戻るよう命が下り、別れが訪れます。
愛する人と、そのお腹に宿った新たな命を残し、椎葉を去る大八郎。その目には光るものが……。そんな物語が歌い継がれています。
こんなロマンチックな内容の歌詞ですが、椎葉村の子どもたちは幼い頃から「ひえつき節」を学校で習い、慣れ親しんでいます。運動会では「ひえつき節」に合わせて子どもと一緒に保護者も加わり、皆で輪になって踊るのが恒例。
椎葉村民にとって、ことあるごとに欠かせない「ひえつき節」。まさに地域に根ざした民謡です。
執筆・中川薫(https://note.com/kaoru_nakagawa/)