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耳に心地よい「シュワーッ」と打ち寄せる波の音。 タイムシェア施設の販売員が客を呼び込む声。 久しぶりのダイビングは少し緊張して、ビーチに響くすべての音がぼんやりと遠く聞こえる。 唯一よく聞こえたのは、これから海へと一緒に潜る彼の声だけだ。 「インストラクターの人、英語上手なのは分かるんだけど、何言ってるかさっぱり分かんねえ。もっと分かりやすい単語で話してくれんかな」彼は顔をしかめて言う。 「しっ、聞こえてたらどうするの」私は彼をパシリと叩く。 「さすがに日本語は分
明け方過ぎに家を出た。片道三時間の道のりを頭の中で整理しながら、エンジンを掛ける。 行方不明になっていた父の声を聞くのは実に十年ぶりのことだった。 昨夜、ご飯を食べ終えてのんびり洋画を見ていたら知らない番号からの着信に気が付いた。昔の忌まわしい思い出が蘇り、僕は電話を無視した。しかし、鳴り止まない電話に苛立ちを感じ、仕方なく電話に出た。 「正泰、元気にしてるのか?」 「…………」 「もしもし? 聞こえてないのか、なんだ」 僕は呆気に取られ、しばらくの間声を出せずに