S(mile)ING!!を追いかけて(終)

悠貴の追い風

ついに迎えた千秋楽。因縁の地西武ドーム。        もちろんこれまで通り「死に場所」を求めているのは変わらない。それでも心境に変化が起きていた。

一つは期待。これまでのセトリを調べていて、記念すべき公演でニュージェネの3名がデビュー曲を披露していないことに気がつく。本当の千秋楽が発表された今、これらを披露する可能性は非常に高いと睨んでいた。まあいつものバイアスなのだが、それでも「渇望」が「期待」へと前向きなものになっていた。

もう一つは今日までの事を比較的おだやかに振り返れたこと。終わりを前にした一種の悟りかもしれないが、これは後により解像度を上げて感じることになる。

初日。開演の映像が流れ終わるとステージに一人。胸が大きく跳ねる。いくらなんでも早すぎないか!?と。     実際はお願い!シンデレラの独唱であったのだが、映えある千秋楽の始まりにシンデレラガールズの象徴である曲を任された事実に前回の疑念が晴れた。公式は彼女を忘れてなどいなかったのだ!誰だあんな与太話を信じたのは。

そこから「ミツボシ」に期待が高まり「vast world」と嬉しいセトリが続く中、あのイントロが流れる。「Starry-Go-Round」だ…この曲は非常に楽しくいい曲だとは思うのだが、なぜか寂しさを感じ泣き出した6thを思い出してしまうため日頃は避ける曲になっていた。そしてここはあの日と同じ場所…

ここまであまり出てこなかったが、私を知る人ならよく乙倉悠貴の名を出すことはご存知だろう。美嘉や卯月の数倍言及しているほどだが、それは拗らせておらず純粋な「好き」が強いからである。 ここまで続けてこれたのは、彼女が生み出す前向きな要素が大きな理由であることは間違いない。

そんな彼女が歌う。楽しく、そして可愛らしく。そう、これは楽しい曲なんだ。どこまでも真っ直ぐで希望に満ち溢れていて、キラキラしていて…               気付けば4年前と同じように、視界はぼやけたサイリウムしか見えなくなっていた。しかしそれは寂しさや苦しみのフラッシュバックではなく、むしろその過去が氷解されることからだった。

そしてライブの終盤に「EVERMORE」。かつてSSAで「予約」された未来を見、同時に今日まで至る心の影を生んだ光。その曲のセンターに乙倉悠貴は立っていた。

強く惹かれたのはCDとサプライズでのボイスが発表される少し前、当時モバマスにしか実装されていなかった「秋風乙女+」で一目惚れ。ステージに立ち始めた頃から見てきた彼女は、いつしかあの日の二人と同じ場所に来ていた。時の流れに感慨深いものを感じそして、もちろん泣いた。

次の「流れ星キセキ」今回は最後までしっかり目に焼きつけることができた。追い風が背中を押したことでようやく前を向けたのかもしれない。

先行く背中と繋ぐ背中

続いて2日目は「never say never」から始まる。こんなの絶対やるじゃんと思う一方で、万が一やらなくても脚本を許してやろうかなと思えていた。追い風バフってすごいね。

続くは「New bright stars」。この千秋楽のために書き下ろされた楽曲で、一区切りなんて言わせないとばかりに歩みを進めんとする曲、そして美嘉のアニバ曲その3である。

おそらくプロダクション所属時代も言ってなかった気がするのだが、城ヶ崎美嘉のことは「繋ぐ」存在として見ている。   それは過去の「EVER MORE」「TRUE COLORS」のメンバーを見れば分かる通り昔からいる者、新しく加わった者の橋渡しとして役目を与えられる事が多く見える。おそらく声優である佳村はるか氏の要素も汲んでいるのだろう。

そして個人的なところで自分とアイマスを、無知ゆえの行動とはいえプロダクションを通じて多くの人とを「繋いで」来たのである。この「繋ぐ」要素について感じている人も少なからずいて、だからこそ主役にしたいと思う人がいるのではないだろうか。                          その後も歴史をなぞり新旧入り混じったセトリが展開される。もうすっかり前を向き始めたのか「Take me☆Take you」を聴いてなお涙することなく聴くことができた。そしてその時が訪れる。

そしてまたはじまりの「   」

いよいよ最終ブロック、昨日に引き続きシンデレラバンドがステージをさらに加熱させていく。7thを思い出すガルフロで声を出せないことがこんなにももどかしいとは!

ガルフロが終わりピアノによる伴奏。静まり返る会場。こんなイントロは知らないが新曲か?              …違う、自分はこの曲を知っている。耳が聴いたことのない伴奏の中からリズムを見出す。こんな最後の最後に本当に来るのか?あの日からずっと待ち焦がれていたあの曲が─

憧れていた場所を ただ遠くから見ていた─

…関裕美のPは「楽園」の一音目で昇天できるという。自分はそれを笑える冗談だと思っていた。どうも本当らしい。

伴奏がS(mile)ING!!に変わるほんの一瞬に見えたのは、抑えきれない声と共にピンク色に染まる会場。

今日という日を待ち焦がれていた。自分の死に場所として。 「島村卯月」の存在は自分の中で日に日に増していき、背中はみるみる重くなっていった。取り返しのつかない過去から後ろ髪を引く存在として。

しかしそれはもう些細なことになっていた。いつ終わるとか、5代目シンデレラガールの肩書きとか、涙で見えない会場すらも。

そこに映っていた─ほとんど見えてなかったのだが…何も知らないところからPにするほど心を打ったその曲が、10年の集大成という看板を背負いより大きなものとなって、最高の舞台で歌われていること。

何より特別な一人としてではない「島村卯月」に対して大きく心を打たれていたこと。それがすべてで、充分だろう。

その時、S(mile)ING!!は最高の死に場所となった。今までの事を都合良く昇華して。

そしてまたあの日と同じ─S(mile)ING!!によって動き出す、かもしれない。                  今はまだすぐに終わるかもしれない新しい歴史。それでもこの酷くぼやけた素晴らしい景色を忘れることはないだろう。

5年間追いかけた末に辿り着いたのは、「はじまりのアイドルは島村卯月」という今さらで、ずっと見えなくなっていた当たり前のことだった。





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