第五章:魔法の石のつくりかた
宝石で家を建てて娘は隠れ住んだ。宝石が半分になってくると、娘は不安になった。この先何があるかわからないのにこれで足りるのだろうか。
不安そうな娘を男は抱きしめた。
「心配しないで。君は魔法使いだったんだね。見てて。」
男は手をぎゅっと握るとしばらくして手品をするように手を開いた。そこには魔法の石があった。
「僕は魔法の石をつくることができる。少し疲れてしまうけど、君を助けるだけなら十分だ。」
「すごい!私ずっと宝石がどこで手に入るか知りたかったの。」
魔法使いが閉ざした宝箱の先のものが目の前にあった。娘は目を輝かせて興奮した。娘にとっては手をだしてはいけない神秘の石だ。そのうえ作り方も知ることができたのだ。
娘は目を輝かせ興奮してほほを赤らめるので、まるで恋をしているように見えた。男には娘が自分を特別に尊敬し、自分に恋をしているように見えたので嬉しくなった。
気分を良くした男は魔法の石の作り方を教えてくれた。
それは持っていないのにできると信じることだった。そのように念じると手に石が入っていると男は言った。
娘は思った。持っていないのにできるわけがないではないか、と。
娘は何度か念じてみた。しかしうまくいかない。手の中には何も入っていない。どうしても石をつくることができなかった。
手を握って目を瞑ったり眉間にしわを寄せている娘の姿は無防備だ。男はその姿が可愛いと思った。宝石職人の自分より身分が高いはずの魔法使いなのに、自分を尊敬してくれる。とてもいじらしいと思ったし、自分のことを得意に思った。
「あはは。君は魔法使いだから難しいよ。」
「そうなの?」
眉を下げて本当に残念そうにする娘をみて男は笑った。”なんて世間知らずなんだろう。魔法使いが頭がいいというのは学問の中だけの話だな。この娘は肝心のこの世界を生きるためのことは何も知らない、お嬢様なんだろう”と思った。
「そうだよ。でも宝石職人より魔法使いのほうがすごいんだよ?」
娘は宝石をつくるために念じるのに忙しくあまり話を聞いていない様子だ。「そうかしら。だって宝石がないと魔法使いは何もできないのよ?」と首をかしげて、また宝石をつくろうと何度か目を瞑った。
「できないわ!どうして持っていないのに持っているなんて信じられるの?」
「それはどうしてもここに欲しいと思うからだよ」
「欲しいのとあったりなかったりするのは全然別の話じゃない。わけがわからない。」
娘は子供の用にぷうっと膨れて諦めてしまった。男は匙を投げる娘がむくれるのさえ可愛いと思って、娘をぎゅっと抱きしめて頭を撫でた。
男は自分を尊敬してくれる魔法使いの娘は世界で彼女一人だと思ったので男はこの娘を絶対に守ると心に決めた。
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