「募集」の法令とその実態②――国を挙げて違法行為を行っていた
●解説
「募集」と「朝鮮職業紹介令施行規則」についての説明は、以下のリンク先で。
労働者保護の規定が定められていても、それが守られていなければ意味はない。労務動員計画における「募集」の手続きを定めた「朝鮮職業紹介令施行規則」の第五十条では、募集従事者が行ってはならないことが列挙されている。
たとえば「事実を隠蔽し、誇大又は虚偽の言辞を弄(ろう)し」てはならない、つまり嘘や誇大な話はダメですよ、ということだ。極めて当たり前のことだ。だが実際には、「募集」に応じて労働現場に来てみたら事前の説明とは全く違っていたという証言は多い。
また、「応募を強要すること」も禁じられているが、実際には「募集」段階でも、「脅されて有無を言わさず連行された」という人もいる。さらに、その際、役場の職員や警官が募集人と一緒にやってきたというケースもよくある。さらに、「応募者の外出、通信、面接其の他の自由を制限」することも禁止されているが、実際は、日本に連れて行かれる際に逃げないように宿舎が見張られていたという体験を語る人もいる。
第五十五条では、就業案内記載の事実と違っていたり、労働現場で虐待されたり凌辱されたりした際、請求があった場合は、帰郷させなければならないと書かれている。実際に「募集」でやってきた朝鮮人の証言では、聞いていた話と条件が異なるとか、縛られて殴られる、ムチで叩かれた、といった話が多いことも周知のとおりである。
条文には「請求在りたるときは…応募者の帰郷の為必要なる措置を為すべし」とあるが、そんなことを言い出せばまた殴られ、下手をすれば殺されるかもしれないと思わせられる環境下で「請求」などできるはずもない。あるいは、条文自体がそれを見越してわざわざ「請求在りたるとき」の語を入れたのだろうか。だとすれば巧妙な条文である。
実際、虐待に耐えかねた労働者が帰郷を要求して争議を起こした例もある。だが、それは警察の介入で鎮圧され、「請求」は通らなかった。現実には、人手不足で困っている事業主が動員した労働者を朝鮮に帰すのは、病気やケガなどで「使い物にならない」と判断した時か、危険人物と見なした場合に限られていた。
残されている多くの動員被害者の証言を読めば、「募集」が法律どおりに行われていたなどとは、とても言えないのだ。
確かに、「募集」の手続きのための法令自体は整備されていたかもしれない。だが、そこに書かれている応募者の権利擁護事項が実際にしっかり守られていた形跡はない。日本帝国は、自分たちで作った法令違反の行為を、行政機関ぐるみ、事業所ぐるみでやっていたのだ。