どこかの本棚 ISSUE03 やさしいしりとり研究部の本棚
どこかの本棚という企画をやっております。どういうものかというと、どこかにありそうな、そしてあったらいいなと思う場所や人について空想してみて(つまり架空の場所や人)、そこに本棚があったとしたらこんな本が並んでいるだろうなあというの実在の本でやってみるというもの。
わかりますか?よくわかりませんよね。でも、友達の家とかに遊びにいった時にとりあえず本棚をみてしまうということありませんか?本棚ってその人の人間性をめっちゃ表しているような気がしています。で、その覗き見的嗜好と昔からあった妄想癖を無理矢理くっつけたら、こんな企画が生まれました。
毒にも薬にもならないようなものですが、ちょっとお付き合いいただければ幸いです。ということで、いきなり第3回目。今回は某大学にあるしりとりサークル「やさしいしりとり研究部」の部室の本棚を空想してみました。
以下、インタビュー形式でお送りします。
貸本屋のカタヤマ(仮) 本日は、某大学のしりとりサークル「やさしいしりとり研究部」(通称やさしり研)の部室にお邪魔し、本棚を拝見させていただきます。こんにちは。
部長Sさん よろしくお願いします。
カ 「やさしいしりとり研究部」という変わった名前のサークルですが、そもそも「やさしいしりとり」ってなんなんでしょう?
S よく聞かれますが、説明するのが恥ずかしいほど簡単で。ただただ、それぞれが「やさしい」と思う言葉でしりとりをするというものです。
カ でも、やさしいって言われて想像するものって、人によって違うんじゃないですか?
S そうなんです。だけど、そこで「いや、それは違うんじゃない?」とはなりません。むしろ、その違いに面白さがあるというか、自分では思ってもみなかったやさしさに出会えるのが醍醐味だと思ってます。それに、「やさしい」しりとりですし、ゆるーくやるものですよね。
カ なるほど(笑)では、そろそろ本棚を拝見させてもらいます。いろいろなジャンルの本がありますね。やっぱり言葉に関係するものが多いのかな。いくつか紹介してもらえすか?
S はい。ここに並んでいる本は歴代の部員が置いていったものがほとんどですね。まずお話したいのは、安直ですが、ずばりしりとりの本で、シゲタサヤカさんの『たべものやさんしりとりたいかいはじまります』です。絵本ってけっこうしりとりにまつわるものが多く出てますが、そのなかでもイチオシがこの本です。
カ 表紙からして、もうにぎやかな感じで面白そうですね!
S いちばん長くしりとりを続けられたたべものの勝ちっていうシンプルなお話です。途中、しりとりって意外とシビアな遊びだな!って思わされるところもありますが、とてもやさしいクライマックスが待ち受けています。
カ 次は短歌の本ですね。
S これは歌人の穂村弘さんが行ったワークショップの内容を書籍化したものです。しりとりの短歌(P.50)が取り上げられていて、始めて読んだ時には「おぉ!」ってなりました。しかもそれが、しりとりとしてもよくできていて、ちょっと嫉妬しちゃいました。
カ 「生きる」と「生きのびる」という対比から短歌を捉えるという考え方もとても示唆に富んでいますよね。
S しりとりも誰でもできる遊びですが「生きる」言葉が降りてくるような瞬間があって、そのときはとても興奮しますね。
次はちょっと趣向を変えて、漫画を紹介したいと思います。これは、若手純文学作家の生活を描いた漫画です。キャッチコピーにあるように「天才」でも「先生」でもないひとりの作家の姿が描かれているのが、漫画っぽくなくてとても新鮮です。で、この作品にはたくさん言葉遊びが出てくるのですが、そのなかの「たほいや」という遊びが部内で一時、大流行しました。しりとりサークルに所属するだけあって、部員は言葉遊びには並々ならぬ興味があるようで…
カ 「たほいや」楽しそうですよね。わたしもぜひやってみたいと思っています。というか、皆さんはしりとりばかりやっていると思ってました。
S しりとりばっかりやっていても飽きてしまうので(笑)あと、作中にはしりとりも出てきますよ!
言葉遊びに関連してもう一冊。『ねたあとに』は夏の別荘で大人たちがひたすら暇をつぶすためにいろんな遊びに興じる小説です。まず思うのは大人になっても自分たちと同じようなことをしているなあと。
そのなかに出てくる「それはなんでしょう」という遊びもとても面白いです。
問いの前半の部分を隠して、無理やりその問いに答えてみることで、問いと答えのズレを面白がる…って遊びなんですが、言葉で説明するのがめちゃくちゃ難しい…
カ (笑)気になった人は本を読んでもらってぜひ楽しんでもらいたいですね。
ちょっと気になったんですが、辞書がたくさん並んでますね。
S 版元によって辞書もまったく違いますからね。部員によって好きなものもちがっています。わたしのお気に入りは『岩波国語辞典』です。
なぜかというとデザインがとても素敵だから。ここまで言葉について話してきて、結局外見の話かっていうツッコミが部員から聞こえてきそうですが。好きなものはしょうがないですよね。
これは『岩国』の第七版。大好きな装幀家の名久井直子さんのお仕事です。ビニルカバーに空押されている植物がフジモトマサルさんの手になるものだというのも感慨深いですね。
カ 辞書の好みの話はまだまだ掘り下げ甲斐がありそうですが… 最後の一冊の紹介をお願いします。
S 最後は一倉宏さんの作品集「ことばになりたい」です。数々の名コピーを生み出してきた一倉さんのことばは、一言では決して括れないけど、やっぱりどこかに「やさしさ」を内包しているように思えてなりません。「言葉を操る」なんて言いますが、本当にできることは「ことばになりたい」というものの手助けをしてあげることだけなんだと感じながらページを繰っています。
「やさしい」を言葉にすることで、目には見えない気持ちや思いに形を与えることっていう意味では、私たちのやってることにもつながるのかあ、なんてちょっと思ってます。
カ 今日はしりとりから広がる言葉の世界を垣間見させてもらいました。今度やさしいしりとりやってみます。
以上です。いかがだったでしょうか?言ってしまえば店主の壮大な独り言ですね。
こんな感じでぼちぼちと続けて行きたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。