人口ダム機能を考える ~神戸三宮の暗い行く末~
地方創生の先行きは基本的に暗い。どう考えても「撤退戦」を行わなければならない地域は多いのだ。
ただ、それを言いだすと、日本には5大都市しか残らない可能性だってある。地域の多くの都市は、既に必要なインフラを維持するだけの人口すら維持できていないのだ。上記の旭川市の記事は、将来的には都市の維持ができない、また今現在でも若者は流出する一方北海道北部などの高齢者が移住してきていて、医療や介護の現場がひっ迫していくであろうという厳しい状況を解説している。高齢者が移住してくるのは、もともと住んでいたところでは医療・介護・買い物などの機能がなくなってしまって暮らせなくなっていることが理由だ。ダムの底に、高齢者という砂泥がたまっていくが、本来の機能の貯水(若者)はどんどん枯れていき、いつかダムごと死に絶えるという絶望的な未来が見えている。
人口ダム機能に必要なのは、「若者が出ていかない仕組み」である。それは、仕事であり、大学であり、娯楽であり、買い物の機能であり、新しいことにチャレンジできる環境だったりする。最低限の公共交通インフラや医療機関というインフラは、市民にはもちろん必要なものであるが、「都市が成長」するためのものではない。そういう意味でダム機能があるか無いかを測る指標として、「百貨店」の有る無しや、駅前商店街の発展具合、大学の有無などが挙げられるであろう。
以前、兵庫県宍粟市の農家と話していた時に、笑えない話があった。大阪のグランフロントのマルシェにとある週末出店していた時、買い物客と何気なく話をしていたら「加古川から来た」ということで、「わざわざ遠くまで来て(比較的家から近い)ところの野菜買うなんてw」という感じになったというが、わざわざ「加古川から大阪まで来る」理由があるのだ。それは裏を返せば加古川から新快速で1駅、20分で行ける「姫路」はもちろん、電車で30分ほどの「三ノ宮」でもなく、梅田(大阪)まで買い物に来ているという人がいるということだ。姫路や三宮の商業者が聞いたらどう思うだろう。
関西の人にしかわからない話で恐縮だが、大阪から神戸までは3本の電車(JR、阪急、阪神)があり、その先も阪神(山陽)とJRが伸びている。加古川の人も1時間あれば大阪まで行くことができる。その圏内の人にとって大阪は最も「買い物」「遊び」に適した街であり、仕事もあり、新しいことにチャレンジできる環境になっているのだ。これは姫路の山陽百貨店の売り上げ減少や神戸地区の商業施設の売り上げの落ち込みや人口の落ち込みをコロナ以前の時点で検証しても明らかである。
上記のブログにもあるように、神戸市は神戸市で様々な課題を抱えているが、残念ながら解消していこうという動きは鈍い。その鈍さの表れが、三宮のまちづくり計画だ。
1.再整備を今、行うことの目的
以前、兵庫県選出の自民党国会議員とともに、甲南大学の学生に向けて兵庫県活性化の議論をした。そこで話題となったのが、兵庫県から東京へ、大阪へ流出してしまう「ダム機能」がなくなっていることである。一方、三宮の整備を行い、魅力ある街にして、多くの人に訪れてきていただこうという再整備計画もある。
周辺ビルの老朽化(JRの駅ビルの工事)、阪急のビル(工事中)が始まったことなどを、どうこれから町の周辺に波及させていくかを考えること、前々からバスの発着場がバラバラで不便だったことの解決を考えるべき時に来ている、ということはある。
2.再整備によって生じる神戸市へのメリット/デメリット
メリットとしては、いまのまちづくりビジョンがすべてうまくいけば、バスの不便さとまちなみの雰囲気は良くなるかもしれない。
デメリットとしては、JR三ノ宮駅の高架の下にある古いお店などがなくなるため、だいぶ「なつかしさ」はなくなると思われる。ま、その辺はノスタルジーだけの問題だが。
ただ、それ以上のメリットはあるのか。商業機能としては、圧倒的にいま大阪に負けている。仕事も、新しい魅力も。大阪駅前に大学はないが、関西大学、大阪工業大学の大学院やサテライトキャンパスがこの数年で進出している。グランフロントにも大学サテライトキャンパスがある。神戸は、大学が多いというがそれは少なくとも三ノ宮にはない。
3.再整備によって生じる神戸市近隣都市へのメリット/デメリット
今回の再整備計画で駅前の商業施設がどこまで活性化するかはわからないが、芦屋駅、明石駅などの商業施設はさらにダメージを受けるだろう。大阪が混んでいるから嫌でも三ノ宮に行けばそろうので。そういう意味では、今神戸駅南側のumieなどもダメージが大きいだろう。少子高齢化の中で、商業の集客合戦をすればするほど、小さな駅およびその周辺がダメージが大きくなります。大きな駅の商業施設+郊外のイオンモールだけが生き残るだろう。上記ブログの、アウトレットモールは売り上げが伸びていたところなどはこの影響があるかもしれない。
こういった影響を考えると、三ノ宮の再開発は「神戸という町の、兵庫県というエリアのこれからをどう担うか」という壮大な課題がある。しかし、三ノ宮の再開発計画は神戸市が進めているが、政令指定都市であるので表むき兵庫県は「見守るが意見はしない」立場である。
そもそも、この再開発計画で三ノ宮は「何を目指すのか」という視点が欠けている。商業の地?ビジネスのまち?観光地?
上記神戸市のリンクで、三ノ宮駅前再開発が神戸市全体にどう波及するかという視点は一応あるようだが、県全体との連動性などはまったく考慮されていないように見える。それでは、大阪には勝てない。上記ブログにもあるように、対抗心が過剰で「神戸」を大阪に負けないものにしようとして対立軸(商業の活性化など)を見誤り、独りよがりの計画になってしまっているように見える。商業施設の集積などは地理的な問題もあってどうやっても大阪には勝てない。しかも今後集めるテナントはプチ東京を構築するようなものばかりだったりするだろう(再開発をする会社が東の資本だったりしてしまうので)。元町の大丸や神戸そごう(いまは阪急だが)が、どういうテナントや方向性で神戸の人たちに愛されてきていたのかも少し参考にした方がいい。
商業の地?ビジネスのまち?観光地?神戸市がやりたいのはおそらくそのすべてだろう。しかし、三宮から徒歩3分のところにも住宅はあり、古い商業ビルは混在しており(特にJR三ノ宮駅と阪急電車の北側のエリア(飲食店や風俗店がたくさんあるあのエリア)、あそこがあのままである限り、海外観光客からの見た目は厳しいだろう)、観光地というには、北野坂と神戸タワーくらいしかなく、公園がいかに広くてきれいでも、それだけでは人は集まって来ない。そもそもコロナで人が集まるイベントがしにくくなっている状態で、町を広々と歩けること、イベントがあって盛り上がっていることは決して町にとってプラスとは言えない状態だ。
一方で、ビジネスのまちとして企業の誘致などしようにも、大阪に負けている。それはなぜかというと、大阪にすでに金融や情報産業なども集まってしまっているからで、これを今から数年で覆すことは不可能に近い。創業支援や新しいビジネスの場も大阪は(近畿の中では)いち早く取り組んでいる。それでも東京に流出してしまっているが。
では何をするべきかというと、町に長く滞在する人を増やす観光をとりいれたまちづくり戦略+そこに住みながらクリエイティブな仕事ができる完結型のまちを目指すべきであろう。町の魅力をソフト面で高めるなら、アートや音楽、パフォーマンスをしやすくする活動支援などが必用かもしれない。そのあたりのソフト面の充実や育成はこの計画からは読み取れない。市長の奥さんは有名な音楽家なのだが、神戸トリエンナーレなどの仕組みは尻すぼみしたままである。また、クリエイティブ創発といいながら、そのノウハウは東京のコンサル会社に丸投げである。code for Japanさんなどの活動家がいるのでそれを表向き支援はしているが、圧倒的に足りていない。こういった活動を広げるなら、近隣市町村や県を巻き込むことは不可欠だ。
日常的な賑わいを、というが、それはまちの道路を広くするだけで生まれるものはなく、今の段階から社会実験を繰り返すなどで、多くの試行錯誤を繰り返して、また様々なパフォーマーなどを定着させることによって生み出される。
また、地域商業者のネットワークや住民のネットワークづくりが必要だ。講演での神戸マルシェなどの取り組みはある程度の効果を上げているが、三ノ宮で古くからある商業者(先ほどノスタルジーとして書いた古い店たち)とのネットワークはまだ弱い。コロナの影響で大きなダメージを追っている東門商店街などの店舗などはこういった再開発の動きから取り残されている。
三ノ宮の隣の駅の元町の駅前はきれいな花壇があるが、お花のチョイスに失敗してすぐ枯れてしまっているという。これをいまでも放置しているような状態で、「日常の賑わい」を生み出せるのか甚だ疑問である。
「人にやさしいまちづくり」はそれはそれで必要なのだが、どんな街を目指すのかという視点が決定的にかけている気がする。それは、現在ですら「神戸というダムが決壊している」という状況を正しく認識していないからだと思われる。
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