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ガンダムの世界の農業と食について③
※私は小説版を全部読んでいないので、その点で不確かな記述もあるかもしれません
※異論反論大いに認めます。議論しながら楽しめればと思います。
※ある程度宇宙世紀について知らない人でも読めるように努めていますが、分からない人がいたらごめんなさい。
最終回の今日は、
①100億の人口を養うためにはどのくらい農地が必要だったのだろうか。現実的に可能なのか
②どうやって作物を育てているのか。また主に何を食べていたのだろうか。
③食文化はどのように継承されているのだろうか
④食に関する「格差」がどのようにあっただろうか
⑤では、宇宙に人類が行かない(行けない)とした場合、地球の人口は何人までが許容されるのか
このうち、⑤と①について触れていきたい。
宇宙で人類が過ごすためには、食べ物とともに必要なものは水である。
前回の記事でも『おそらく完ぺきに近い循環システムがあったのだろう。雨が降らないので潅水による提供で、それも無駄がないように管理され』ているだろうという話をした。しかし、そもそもその水はどこから運んできたのかが不明確である。木星などであろうか。さすがにヘリウム3だけでなく水素や酸素、氷といったものまでジュピトリスが運んでいたとは考えにくい。ということは地球から運ぶほかない。
地球上の水の量は約 13.86億k㎥といわれている。 このうち97.5%が 海水で、残りの 2.5%が淡水。 淡水のうち、約70%は南極大陸などの氷 で、残りのほとんどは地下水である。 人間が使える再生可能な水資源(河川、湖、 沼の水)は、地球上の水のわずか0.01%し かないという(以上、埼玉県川口市水道局の資料より)。
ただ、では地下水などから宇宙に水を運ぶとなるとかなりのエネルギーを消費する。水の比重は1リットルで1キロ。これを何リットル宇宙に運ぶ必要があるのだろうか。
飲料水を扱う会社のサイトによると、健康な成人は毎日、体重1キロにつき約35 mlの水が必要です。これは科学団体の一般的なガイドラインに基づく最低限の量です。体重50キロの人は1.7リットル、60キロであれば2.1リットル、70キロでは2.4リットル、80キロなら2.8リットル必要ということになります。とある。
つまり、例えば1億人の人間が宇宙で暮らすために水を宇宙へ送るとなると、人間体重が平均70キロとしても2.4リットル×1億=2.4億リットル=24万キロリットルなので、地球上の水の量のわずかである。ただ24万キロ=24万トンとなるとかなり多いように見えるが、百式(54.5トン)約4400機分というところか。できなくもなさそうだが、水だけを運ぶためにそこまでするのも大変そうだ。
加えて、人間が飲む量の水だけではなく、作物が育つための水も必要だ。
バーチャルウォーターという概念は最近地球環境保持の話とともに注目されている。いかに水資源というものが地球に大切なものかを啓蒙することにもなっているのだが、食糧生産にはどれだけの水が必要かということを知らしめることにもなっている。上記リンク文中から引用させてもらうと『例えば、1kg のトウモロコシを生産するには、灌漑用水として1,800 リットルの水が必要です。また、牛はこうした穀物を大量に消費しながら育つため、牛肉1kg を生産するには、その約20,000 倍もの水が必要です。つまり、日本は海外から食料を輸入することによって、その生産に必要な分だけ自国の水を使わないで済んでいるのです。言い換えれば、食料の輸入は、形を変えて水を輸入していることと考えることができます。』
ということは、地球では水資源をいかに効率的に使えるかということが人口がどれだけ増えることができるのかというカギになる。
いくつかのメディアでは2050年以降には地球の人口は100億人に、しかもアフリカ大陸で顕著な人口増加が起こると述べている。確かにこのままではそうなるかもしれない。
しかし、バーチャルウォーターの意識が高まると、「水の地産地消」を促進するようになるかと思われる。しかしアフリカはご存じのように水資源に乏しい(≒アクセスが悪い)国が多い。ちなみにカンボジアなどアジアの一部の国でも、水資源は決して多くない。メコン川流域での井戸水の多くはヒ素などが検出されたりして使い物にならなかったりする。日本人の若者や芸能人がこぞって寄付を募って作った井戸が使えないという問題がある(あまり注目されなかったが)。ちなみにメコン川流域の土壌は、栄養分が貧相で作物の大量生産がまだ期待できない。
人間が生きていくには水と作物が必要だが、各国が「バーチャルウォーター」を楯に、水の節約を言い出すと、困るのはアフリカなど貧しい国である。一つは、アフリカの国で輸出の主力が農産物などの国がある。しかし、先進国がバーチャルウォーターを言い出すてこの農作物(カカオなど)の消費が抑えられるとお金が稼げない。その分の水で作物を育てていけばという話もあるが、痩せている土地では水だけではエネルギーの高い作物が育てられるわけではない。その土地を肥沃にするには窒素などの栄養が必要で、そのためには畜産も必要なのである。わずかな水でも育つ、人間には食用にならない植物も牛にとっては栄養で、それが人間を養うこともできる。しかし、アフリカはいつまでも農業鉱業主力の国であり続けるわけではない。
スペースコロニーに運ばれた水は、地球上でも争奪戦となっていたはずの水を運んだに違いない。しかし、それを実行するためには多くの政治的調整を必要とするだろう。海水をイオン分解だけで製造できるだろうか。それができるならその水を足りてないところに優先させろという声は起こるに違いない。
ただ、⑤の話題の結論となるが、もし地球上の人口が100億人になるとすると、広大なアフリカ大陸北部などの砂漠や中国内陸部の砂漠地帯を緑化したりしない限り、水資源の偏在ということから、人口を抱えられるエリアに人の移動が起こるだろう。簡単にいえば人口が減少する日本は、人口がこれ以上増えることができないエリアから多くの移民を受け入れていくようにならないと、地球の人口が増えるということを許容しつつ、バーチャルウォーターなどの問題を解決できない。
しかしそれを不服とするエリア・国があることが「スペースコロニー」という解決策を考えていく動機なのだろう。
ガンダムの世界では宇宙への「棄民」がすべての始まりだった。これからのこの現実の地球では「宇宙へ棄民をする」という選択をする技術はいまだにないが、「一部の人間には生活の向上(≒エネルギーや水資源を今より大量に使うこと)を避けさせる」ことで、現状維持を図ろうということにならない保証はない。いまの先進国が肉食をやめて地産地消に走ったところで、インドやアフリカの経済成長が飛躍的に進んだ場合、第1回目の記事にも書いたが、小麦やトウモロコシの増産が追い付くとは限らない。
世界の経済発展と人口増加は矛盾をはらんでいる。その矛盾を解消しようとするためのSDGsだというが、有機農業を推進しつつ、その技術革新や世の中の生活変化や意識の変化は間に合うのか。間に合わないと本当に「棄民」となるような見込みしか、食生産の世界の現状からは、悲観的なデータしか出てこないのである。