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パソナの淡路島での事業について感じること

先日の記事が大いに盛り上がったので、私としてはもう1件くらいは、そのパソナの事業に対して触れる必要があると思ったので、ここに書き記す。
(9月21日追記:もう一本、週刊プレイボーイの取材を受けて語ったことも9月20日にアップしていますのでご覧ください)
とはいえパソナ、事業者に知り合いも多いので、公平に書ける部分だけにする。

結論から言うと
①チャレンジ精神はいいが、ビジネスモデルがぜい弱
②ソフト面やプロモーションにお金をかけすぎる
③海外観光客頼みのビジネスモデルのこの先

の3点を指摘したい。

参考までに、パソナグループの取り組みをここに転記しておく。

【(参考) パソナグループ 淡路島での地域活性事業
パソナグループは、多様な才能を持った人材が集まって地域産業を活性化させる“人材誘致”による新たな雇用創造に挑戦しています。
2008年には兵庫県淡路島で農業人材を育成する「チャレンジファーム」を開始しました。2011年には芸術家や音楽家が農業と芸術活動を兼業する“半農半芸”という新しい働き方を提案するなど、若者の多様な価値観に合わせた人材育成プログラムで約300名の若者の就労支援を行いました。2012年には、廃校となった小学校を再生した地域活性拠点「のじまスコーラ」を開設。また島内の新鮮な食材とはちみつを使った料理を提供するカフェ「ミエレ」をオープンしました。2016年には島内外から集まった芸術家による工芸品やクラフト雑貨の販売と、地元の食材を活かした料理を提供する『CRAFT CIRCUS』をオープンしました。
そして2015年からは世界18ヶ国のアーティストを淡路島に招いて、パフォーマンスを島内で披露する『Awaji Art Circus』や、日本の運動会競技を通じて“地方創生”“健康”“伝統文化の発信”を行う『UNDOKAI World Cup』の開催など、様々なイベントを通じて淡路島の魅力を国内外の方々に知っていただくとともに島内の活性化にも取り組んでいます。
そして昨年は、世界で人気の高い日本のアニメ・マンガと淡路島の自然、最新のメディアアートを融合させた「ニジゲンノモリ」を兵庫県立淡路島公園に開設するなど、地方自治体や地元企業と連携して、地域活性化に取り組んでいます。】

さて、地元の食材は確かに大切で淡路島は言わずと知れた食の宝庫であるが、後半ははっきり言ってよく分からない。運動会競技を通じて健康を発信することはなんとなくわかるが、「伝統文化の発信」は必ずしもそれでなくてもよい。また、最後のアニメやメディアアートとの融合は確かにこれからの観光資源となるだろうが、淡路島はそのロケーションとして正しかったのだろうか。

先日の記事では、淡路市で展開する企業の悉くが赤字であることを指摘した。しかし、なぜこれほど赤字なのか、その部分を見ておく必要がある。

① チャレンジ精神はいいが、ビジネスモデル自体がぜい弱

さて、淡路島を本社にした「匠創生」という会社がある。

元々は、日本の工芸品を展示したり、プロモーションを手伝ってもっと世界に広めていく、というようなビジネスモデルでスタートした。

2019年1月には、このようなプレスリリースもしている。

ところが、もともとのHPは様がわりしてしまった。日本酒の古酒を販売するビジネスモデルに切り替わっている。

2つ前のページにある匠創生のHPリンクをたたくと、他のページに飛ぶようになって、下記のリンクになる。

伝統工芸を追及するうちに、古酒に行きついて、その販売に全面リニューアルしているようだ。

しかし、ここで気になるのが決算である。

2019年3月末、

純利益は1742万の赤字、資産合計で800万円ほどだった。しかし、

第2020年3月、3期決算では、純利益赤字は2868万円に拡大している。事業拡大期としてみればそういう側面もあろう。しかし、資産がなんと3億8千万に膨れ上がっている。これはいったい何なのか。株主資本が9千万増資されているが、流動負債も2億2千万ほど増えている。おそらく、資本を増強して借入金を増やしたのだろうが、いったいなんのために。

ここで、ビジネスモデルの転換の話が出てくるが、おそらく全国の古酒を買い付けたのだと思われる。すぐに販売できるものではないが、ワインやウイスキーと一緒で時が経てば経つほど価値が高まってくると判断したのだろう。しかし、それにしてもどれだけ、というやり方である。

私はかつて大手百貨店で酒売り場に3年ほどいて、その後も日本酒の商品開発などにアドバイザーなどで関わっている。淡路島の酒蔵も今でも仲は良い。

古酒というものは確かに魅力ある商品だ。それを愛する人も多い。しかし、これを一手に集めてビンテージショップをするというのはあまりに無謀である。なぜなら、古酒を愛する人はそれなりに酒に精通した人で、「馴染みのあるBARで飲んだり、信頼する酒店や酒蔵から直接購入する」ことが多い。

知られていない人に対して新しい切り口からせめて、古酒ファンになって頂く。聞こえは良いが、並大抵のものではない。果たして、日本酒の専門家がいたわけでもない会社がなぜここまで行うのか。日本酒なら、SAKE TIMESという日本酒のファンを引き付けているサイトがあるが、開発やブランディングも行っている。自社で買い集めるより、そういった専門メディアとともに企画から考えたほうが、より多くの既存ファンを引き付けたのではないかと考える。詳しくは日本酒の深いファン層の話になるので省くが、自社の強みを活かしているわけでもないこのビジネス展開は非常に疑問が残る。


② ソフト面に金をかけすぎる?

キティちゃんレストランはそこそこにぎわっている?ようだ。

しかし、写真から見ても分かるようにこれはかなりの費用を費やしていると思われる。他にも、パソナ事業は相当の費用をコンテンツに費やしている。アニメとのコラボレーションが売り物の「ニジゲンノモリ」もその一つだ。

しかし、こういうコンテンツを活かしたビジネスは広告効果は高いが、その分どうしても提供元に費用が発生する。キティちゃんにせよ、NARUTOにせよ、非常に高い値段がかかる。それを回収するには、それなりに強いビジネスモデルでないと難しい。

しかし、キティちゃんのレストランは健康的な鍋料理のコースが中心である。つまり女性がターゲットでこれ自体は間違いないが、このターゲット層は酒をあまり飲まない。つまり、客単価が知れている。はたしてそれで女性客ばかりで合うのかどうか。そして、週末集客の典型的な形である淡路島で、52週間×土日の2日間で、採算が合うのか。レストラン事業は、相当に人手がかかる。平日は地元客、週末は観光客もプラスされて稼ぐ形が地方では鉄則である。アニメキャラとこのメニュー構成ではその平日集客はなかなか厳しい。(淡路島に行ってわざわざトムヤムクン頼むのだろうか。どうみても地元産でない海老が入っている。私は百貨店で魚屋5年やっていたが、毎朝淡路島の由良漁港から魚を仕入れていた。淡路島で獲れるクマエビは非常においしいが、この値段では出せない)

ニジゲンノモリは、アニメキャラの世界が味わえるという。しかし、言うまでもなくその取り組みをいち早く行っているのはUSJである。その規模と魅力に比べたら、申し訳ないがニジゲンノモリは見劣りする。しかし、それでもこの事業に力を入れている。いれすぎ、と心配するくらいの赤字が生じているのであるが。


③ 海外観光客頼みがどうなるか

前回の記事で「詳しくは省く」といった事情の一つを明かすと、パソナは相当海外観光客に期待していた。とある大手旅行代理店の子会社で、海外からの集客力に長けた会社とパソナで相当の取り組みをやっていた人が私の知人である。そこでは、ニジゲンノモリへの送客についての取り組みが行われていた。ちなみに淡路島の海外観光客はそこまで多くなく、6割が台湾の観光客である(<観光入込客数>兵庫県観光政策課 「兵庫県観光客動態調査報告書」 (平成27年度)参照のこと)。

パソナの地方創生グループが淡路島で狙っていたのは、まさにインバウンド客であろう。キティちゃんはじめアニメキャラ、日本の伝統(酒)、これらは2019年まで、海外観光客(特にアジア系)が求めていたものと一致する。ウイスキーブームなどを見ればお分かりだろう。昨年一昨年、サントリーのウイスキー工場見学はアジアからの観光客で予約が取れない状況がずっと続いていた。おそらく、やり方次第では古酒もそれなりに売れたかもしれない。

そして、コロナのせいで目算が狂った。

しかし、私から見れば、海外観光客が増えているからと言って、USJに比べれば見劣りするニジゲンノモリにそこまで集客ができたのか。観光客がそれなりに満足していればいいのだが、コロナ前からの集客数の伸びを見る限り、そういう事態だったとはとても思えない。下記リンクはPDFファイルだが、平成29年度兵庫県観光客動態調査報告書である。ニジゲンノモリ(アトラクションごとに入園料が発生し、NARUTO3300円 アトラクションついて4800円、クレヨンしんちゃん4600円)がある淡路島公園は前年比13万人の増加(合計46万人)であるが、それがすべてニジゲンノモリだけとは言わないが、同島内のオノコロ(入園料1400円、乗り物フリーパス4800円)26万人、イングランドの丘39万人(入園料1000円 体験などは別料金)と比べればまだ低い。ちなみに平成30年は、台風で関空の連絡橋が不通になった期間などの影響で前年比ダウンのところが多い。(私は宇治市の大学でフードツーリズムを担当しているが、この年の不通期間、宇治市の観光客は8割以上減少していたという。)

私が思うのは、インバウンド目当てにビジネスを展開することは悪いことでは決してないが、そのためにリスクを考えることと、自社の強みを活かしてリスクに強いしなやかなビジネスモデルにすることも大切である。

淡路島は、先に述べたように、ことさらインバウンドを意識しなくても、多くの観光客から好まれている場所である。もちろん、日帰り観光客の割合に比べて著しく低い泊り客をどう増やしていくかの課題はある。しかし、その方法はアニメーションやキャラクターだけではないはずだ。

既にほかで展開しているパソナの施設も、もっと島の人や国内観光客から見て魅力があるものであれば、そこに行くはずである。なぜなら淡路島に来る人はほとんど自家用車で、移動はさほど苦にならない。集客に苦労しているというなら、アクセスが難点というより、そこに魅力があるかないからである。野島スコーラでも、そこにしかないものが多く存在していればいいのだろうが、淡路ハイウェイオアシスのほうが圧倒的に広さも品ぞろえもある(四国のものまであるので)。


ビジネスを成功させるまで続けることは大切だ。ただ、自社の強みがない部分をキャラクターやプロモーションでカバーすることには限界がある。

※ニジゲンノモリなどの入園料は2020年9月3日現在


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