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芝浜(短縮版)~現代風アレンジを添えて~

落語の台本をアレンジする恐怖

自分で読むために芝浜を短縮版にアレンジしました。恐れ多い事です。
それと同時に落語の懐の深さも感じることが出来ましたので、
是非とも皆様もこういったアレンジに挑戦してみてはいかがでしょうか 


概要

所要時間:15分前後
語り、魚売りの男、女房を一人3役で演じることを想定しています。

台詞の変更や追加、使用方法(配信や動画などでの使用)についてはご自由にどうぞ。
使用報告などは不要ですが、使ってくれているのが分かったら嬉しいです。

自作発言だけは絶対にお止めください。

余談ですが作者が実際に演じている様子はこちらの配信からどうぞ。


本編


えー、昔から3つの煩悩ってのが言われておりまして、
これに気を付けておけば世の中上手くいくって言っております。
何かって言うと酒、博打、まぁギャンブルですわな、そして女と。
なかなか令和の時代にゃそぐわない価値観ではありますが、
それでも夢中になっちゃう男性も、もちろん女性にもいるんじゃないでしょうか。

今じゃスパチャだなんだと言っておりますが、
昔っから芸をやる人や美人さんにに御捻りを渡したりとやることは変わっちゃいない。
自分の懐を痛めても銭を投げるってのは美徳と言っていいのか悪癖と言っていいのか…。
いつの時代も酒と金には気を付けなきゃなりませんが、連れ添ってくれる相手は一層大事にしなきゃならんもんです。
そんな事にも気づかない、腕は良いのにろくでなしの魚売りが江戸の頃の年の瀬に居たそうで…

~~~~~~~

ねぇ、あんた。あんた。起きておくれよ。
ねぇ、ねぇったら。

あ…?あぁ…んん…なんだお前さんかい…

お前さんかい、じゃないよ。あたし以外誰があんたを起こすってんだい。
良いから起きておくれってんだよ。ねぇ、あんた。

あんたあんたうるせぇなぁ…もう少し寝かしといてくれよ…
良い夢見てたってのに忘れっちまうだろうよ…

夢なんか幾らでも見れるでしょうよ。
ねぇあんた、もう暫く商いに出て無いじゃないの。
こんなんじゃあんた、碌な新年が迎えられないよ。

新年なんて毎年来るもんじゃねぇか…
一回くらい怠けたってお天道様は許してくれるよ。

お天道様が許してくれたってお上さんは許してくれないんだよ。
あたしらがおせちを食えなくったって構いませんけどね、
方々への支払いは待っちゃくれないんだよ。
ねぇあんた、お願いだから河岸に行ってくれないかい。

はあうるせぇな…お前さんがうるせぇもんだから眠気が覚めちまった。
仕方ねぇから商いに行ってくらぁ

本当かい。あぁ良かった。
あんたが半月も寝転がってるもんだから
今日の朝餉もどうしようかと思ってたんだよ。

あっ、やっぱりやめだ。

え、どうしてだい。何か気に障ったのかい。

いんや、半月も寝転がってたもんだから
商売道具がダメになってるだろうよ。

なんだ、そんなことかい。
伊達に魚屋の女房やってないよ。
あんたがいつ商いに行っても良いようにしっかりとメンテナンスしてるよ。

めんてなんすってなんだい。急に時代背景を間違えるんじゃねぇよ。

あぁすまないね。急に変な電波が飛んできちまった。

この時代にゃ電波も飛んでねぇよ。
しっかし気が利くもんだね。そこまで用意されちゃしょうがねぇ、
ちょいと行ってくらぁ。

はい、行ってらっしゃい。まだ暗いから気を付けるんだよ。

~~~~~~~

おい!お前さん!大変な事が起こった!

なんだいビックリするねぇ!
商売道具の桶の底でも抜けたのかい?

いんや、そんなことはねぇ。
お前のメンテナンスはバッチリだった。

メンテナンスって何だい?

お前が言ったんだろうよ。
いやそんなことは良い。
お前さん、時間を知らせる鐘を一つ間違えただろう。
河岸の店がひとっつも空いてなかったよ。

えっ、本当かい?
あら本当だ、アラームを掛け間違えてたよ。
これは済まない事をしたねぇ。

アラームって何だい。
いやそんなことはどうでも良いんだ。
むしろでかしたってなもんだよ。

あたしもそうだけどあんたも何を言ってんだい。

いいからこいつを見ろ、隣の家の奴が起きるから
驚いてもでかい声出すんじゃねぇぞ。

なんだいなんだいそんな小声で…
えっ!!!なんだいこれは!!!!

馬鹿、でかい声出すなっつったろ!
しかもまだ財布を見せただけじゃねぇか!

あぁ、すまないね。
で、なんだいこの財布は。あんたのじゃないだろ。
あんたまさか…

馬鹿、勘違いすんな。
こいつは帰りしなに芝の浜で拾ったんだ。

本当かい?

当たり前よ。そもそもこんな時間にスる様な人も歩いちゃいねぇよ。
それよりよ、この中身を見てくれよ。

えぇ?人様の財布を見るってのはどうにも…
えっ!!!なんだいこれは!!!!

だからでけぇ声を出すなっつってんだろ!

あぁ、すまないね。
でもこれ、とんでもない額じゃないかい?

そうなんだよ。
もう俺には幾らかもわからねぇ、お前さん数えてくれよ。

あたしがかい?しょうがないねぇ…
ひぃふぅみぃ…あんたこれ、四十二両もあるじゃないか!

おぅ、数えるのはぇえな。
四十二両!?四十二両っつったのかい!?

そうだよあんた。これ、大変な事だよ。

おいお前、四十二両っつったら…
幾らだ?

四十二両は四十二両だよ!
ちなみに8代目のお殿様の年収は約79万8800両だって話だよ。

おう、やけに詳しいしそれを言われてもピンとこねぇじゃねぇか。
ソースはどこなんだよ。

ソースって何だい?

もう分かんねぇよ。
とにかく四十二両っつったら
俺らみたいなもんは暫く暮らせるだろう?
こいつは大儲けだよお前!
お前さんがこの時間に起こしてくれなかったら
他の奴に拾われっちまったかもしれねぇ!
だからでかしたってんだよ!

でかしたってあんた…
こんな大金、お上に届けなきゃいけないだろ?

あぁ?何言ってんだ。
こいつを拾ったのは俺だ、落とした奴は災難だったって話だろうよ。

そうは言ってもこんな大金、大変な事だよ?
困ってるんじゃないのかねぇ…。

知ったこっちゃないよ。
おうお前、商いなんかしてる場合じゃねぇや。
酒だよ酒、つまみもありったけ持ってくるんだよ。

あんた、そんなこと言って…

良いんだよ、なんたってこっちには
四十二両あるんだからよ!

しょうがないねぇ…

~~~~~~~

ねぇ、あんた。あんた。起きておくれよ。
ねぇ、ねぇったら。

あ…?あぁ…んん…なんだお前さんかい…

お前さんかい、じゃないよ。あたし以外誰があんたを起こすってんだい。
良いから起きておくれってんだよ。ねぇ、あんた。

あんたあんたうるせぇなぁ…もう少し寝かしといてくれよ…
良い夢見てたってのに忘れっちまうだろうよ…

夢なんか幾らでも見れるでしょうよ。
ねぇあんた、もう暫く商いに出て無いじゃないの。
こんなんじゃあんた、碌な新年が迎えられないよ。

碌な新年だぁ?
何言ってんだお前、うちにゃあ四十二両あるじゃねぇか。
大層豪勢なおせちが食えるってもんだよ。

四十二両?何を馬鹿なこと言って…

おう、なんだいお天道様が昇ってるじゃねぇか。
こいつは良いや、外で良いもん買ってきてやるよ。
今日は機嫌が良いんだ。

ちょっと、あんた!
全く…

~~~~~~~

おう、帰ったぞー!

帰ったじゃないよ。
何だい顔真っ赤にして千鳥足で…
ってあんた、なんだいその牛一頭は!?

そんなにでかくはねぇよ!
おう、立派な魚と酒を仕入れてきたんだ!
今日はこいつでパーっとやるのよ!嬉しいだろ!

嬉しいってあんたね…
そんな金どこにあるんだい?

金なんかお前、あぁ、財布を忘れちまったからな。
勿論ツケといてもらったよ。
何、色付けて明日にでも払ったら文句言われねえよ。

明日にったって、そんな金どこにあるって言ってんだよ。

だからあるじゃねぇか、うちには四十二両がよ。

あんた家出るときにも言ってたね、四十二両がどうとか。
今日一日でそんなに稼いできたってのかい?

聞かねぇやつだな、今朝お前さんに叩き起こされて拾ってきた
財布があるじゃねぇか。そいつを出してみろってんだよ。

今朝…?財布…?
あんたまさか、酒に酔っておかしくなったのかい?

なに、旦那に向かっておかしくなったとはどういう…

旦那もへったくれも無いよ!
夢で拾った金をあてにそんなもん買ってきて…
ここ暫く碌に商いもしてないのに明日からどうするんだい!

どうって、だから四十二両…
え?夢?

そうだよ!どうせあんたは昼まで寝てるだろうって、
今朝起こしたりなんかしてませんよ!

何を馬鹿な…え…?
俺は今朝、お前さんに起こされて…アラームで…

あらーむってなんだい、訳の分からないこと言って。

そいつはお前が…いや…
じゃあお前さん、俺が拾ってきた財布を見てないってのかい?

財布も何も、あんたは今日お天道様が昇るまで寝てて、
漸く起きたと思ったら上機嫌に出掛けただけじゃないかい。
そしたらどうだい、無い金でそんな大層なものぶら下げて帰ってきて…
あたしは悲しくなるよ…

おいお前、そんな泣かなくても…

泣きたくもなるよ!
ねぇあんた…暫く商いをしてなかったからって
本当におかしくなっちまったのかい…?

いや、そんな、俺は…
俺は…おかしくなっちまったのか…?
大金が入った財布を拾ってくる夢を見ちまうほどに…?

そんな話の導入、今どきなろう小説でも見ないよ…

なろう小説ってなんだい?

なんでもいいよ!
とにかく、そのぶら下げてるもんはどうにかして
返してきてくれないかい?あたしも一緒に頭下げるからさ。

いや、そんなことはさせられねぇよ!
女房に頭下げさせたらおしまいだ!
そうか…ありゃ夢だったんだな…
いやすまねぇ、俺がどうにかしてたみてぇだ。
こいつは何とか返してくるよ。
駄目だったらなんとかツケを待ってもらうように言ってくる。

待ってもらうったってあんた、あてはあるのかい?

おかしくなったからって馬鹿にしちゃいけねぇ、
俺はちょっと前までここらじゃ知らねぇもんはいねぇ魚売りだったんだ。
どうにでも金は作って見せるよ。

あんた、それじゃ、また商いをするってんだね?

任しといてくれよ。お前にゃ心配かけっちまったが、
俺はもう目が覚めたよ。休み過ぎてどうにかなってたみてぇだ。

あんた…!

おう、お前と良い年が越せるように今から出てくるよ!
って、あぁ、やっぱり駄目だ。

なんだい、威勢良かったのに格好付かないねぇ。

いやな、あれが夢だってんならよ、
俺の商売道具も駄目になっちまってると思ってよ。

なんだ、そんなことかい。
伊達に魚屋の女房やってないよ。
あんたがいつ商いに行っても良いようにしっかりとメンテナンスしてるよ。

夢と同じこと言ってる!メンテナンスってなんだよ!

よく分からないけどね、あんたが働くならあたしが支えるって言ってんだよ。

お前さん…!
よし来た、今頃夕の漁も終わってる頃だ、
河岸に行ってくるよ!

はいよ!あ、あんた!

なんだい!

その調子でお酒も控えてくれるとあたしは嬉しいんだけどね!

分かった分かった、これからは魚だけにしとくよ!

~~~~~~~

これっきり、見違えたように商売に精を出すようになった魚売りの男。
酒もピタリと辞め、すると元々腕の良かった男は方々から声が掛かり、
がむしゃらに働くようになり、それから三年経った大晦日になりました。

~~~~~~~

おう!今帰ったよ!

あら、おかえりなさい。今日は混んでたんじゃないかい?

そりゃあもう祭りかと思っちまったよ。
大晦日くらい休めばいいのにな。

そりゃあんただよ。もうすっかり働きづめじゃないか。
あんたこそしばらく休んでも良いんじゃないかい?

そうはいかねぇよ。魚屋が休んだらおせちが台無しになっちまうだろ。
お前にも良いもん食わせてやりてぇしな。

あんた…もうお酒もすっかり飲まなくなって一生懸命働いて、
うちは毎日夕餉の心配も無くなって、本当にありがとうねぇ。

礼なんてよせやい、亭主が稼ぐのは当たり前だろうよ。
いや、な。働いてたらよ、みんなが有難がってくれるだろ。
そんで銭も入ってくるってんだから、そりゃあよ。
商売ってのは良いもんだなって、芯からそう思うんだよな。

本当かい?それは…本当に?

なんだい、疑り深いな。本当だよ、本当。

そうかい…ねぇ、あんた、あたし、見せたいものがあるんだよ。

なんだい、急に。良い着物でも買ったのかい?
最近稼ぎが良いからってお前、別に構いやしねぇけどよ…。
っておいおい、そんな押入れの奥まで頭突っ込んでどうしたんだよ!
ドラえもんじゃあるまいし!

ドラえもんってなんだい?

いや、口を突いて出ちまっただけだけどよ、
おいどうしたんだよ、ほこりが舞うじゃねぇか。

よっこら…あんた、これ、覚えはないかい?

なんだい、そりゃ。財布か?
随分年季が入ってるが…見たような見てないような…

ちょっと、持ってみてごらんよ

どれどれ…おっとこいつは随分と重いねぇ…
いくらだ?

四十二両…って言ったらどうだい?

四十二!?四十二両って言ったら…いくらだ?

四十二両は四十二両だよ!

あぁ、お殿様の年収が79億8800万両だっけか…
あれ?なんだってこんなこと俺ぁ知ってるんだ…?

あんた、思い出さないかい?
ほら、三年前に…

三年ってお前…あっ、お前、
だってあれは夢だって

そう、夢だって言って、あんたを騙したのよ

騙しただぁ!?そうだよ、なぁ、あんなにはっきり、俺は覚えてたんだよ!
夢な訳がねぇと思ったが、お前に泣かれて…お前、なんで俺を騙しやがった!?

あんたにはね、悪いと思ったんだよ?
あたしだってこれだけあれば支払いも困らないって、少しは思ったけど、
でもあんた起きるなり出掛けていっただろう?
どうせあんたは散々お金を使って回るだろうって思って…そうしたらあんた、
噂になって金を拾ったのがバレてお役人に連れていかれたらどうするんだいって思ったのよ。
だからあたし、あんな金は無かったんだと思って、
あんたの居ない内にお金をお役人に届けたのよ。
すると思った通りに、顔を赤くしたあんたが帰ってきて、あぁやっぱりと思って、
夢を見たんだって押し通したんだよ…。
そしたらあんた、それを信じてくれて、それからあんた、
人が変わったように一生懸命働き出して、お酒も飲まなくなって…
それから暫くして、お役人の人がね、財布の落とし主が現れないからって、
うちに財布を届けてくれたんだよ。
すぐに見せようかと思ったけど、あんたが、活き活きと働いてるもんだから、
これを見せたらまた元に戻ってしまうんじゃないかと思って…
でもね、あんたがさっき、亭主は稼ぐもんだって、商売は良いもんだって、
そう言ってくれたから、もう大丈夫だって、見せることにしたんだよ。
そりゃ、女房に騙されて、腹が立つでしょう。この通り、怒ってくれて構いません。
でも、あたしがどんな思いだったか、今のあんたなら、分かってくれると思ってるんです…。

…こりゃ、一本取られたみてぇだ。いや、こっちこそすまねぇ。
お前さんがそこまで考えてるとは、あの頃の俺だったら分からなかっただろうよ。
女房に頭を下げさせたらよ、おしまいだって言ったじゃねぇか。
てめぇに下げさせてたら世話ないぜ。
いや、よく騙してくれた。ありがとう。お前さんは俺には勿体ねぇ女房だ。

やだよ、そんな。許してくれるのかい?

許すも何もねぇや、ありがたくって拝んじまいそうだ。

やめておくれよ。あぁ、良かった。ずっとあんたに隠し事してるのが
心苦しくて、でもあんたが楽しそうに家を出て行くもんだから、
何も言えなくってねぇ。
このお金はさ、あんたが拾ったんだから、あんたの好きにしなよ。

冗談じゃねぇ!こいつはお前が大事に取っといてくれた、俺とお前のもんだよ。
そうしたらよ、年が明けたら、どこか湯治にでも行こうや。
俺もそろそろ休みてぇと思ったんだ。

あら、本当かい?そしたらあたしハワイに行きたかったんだよ!

どこなんだよそこは。まだ今頃はカメハメハ大王がいる頃じゃねぇのか。

あんたもよく分かんない事言ってるじゃないか。

三年前から俺たちはどうしちまったんだろうな…
まぁいいや、だからそいつはもうちょっと大事にしといてくれよ。
それが済んだら、また働くからよ。

そうだね、今度はもう寝転がってたらあたしが許さないよ。

おぉ、怖い怖い。

ねぇ、お前さん、一杯やらないかい?

え?一杯って?

お酒だよ!今日くらいいいじゃない!

酒ったって、お前に約束したんじゃねぇか。
酒はやめるってよ。

いいよ、あたしが良いって言うんだから。
今日は大晦日だよ、三年も頑張ったんだからさ、お疲れ様です。

おぉ…そうかい…そう言うなら…
あぁでも、酒はあるのかい?もう暫く…

伊達に酒飲みの女房やってなかったさ、
バッチリ用意してあるよ。
この話した後に、あんたに機嫌直してもらおうと思ってさ。

流石俺の女房だ…敵わねぇな…。
そこまでされたら酒に申し訳が着かねぇや…

あぁ、でも、やっぱり止しとくよ…

え!?どうしてだい?
    
また 夢になると いけねえ。

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