六 滑稽な僕たち
結局僕はヒロにポールのことを話した。彼が関西弁を話す老いた柴犬だということ。その無愛想な態度。突然彼がいなくなってしまったこと。そして僕が何となく彼を好きだということ。
ヒロは僕が話している間ずっと僕の右斜め後ろの壁を見ていた。
「信じられる?」僕は彼女に尋ねた。
「私はあなたを知ってるから、信じるわ」
そう言いながら彼女はグラスに残っていたビールを飲み干した。
「でも」まだ壁に目をやりながら、ヒロは続けた。
「きっと、彼がいなくなったのはあなたを元の世界へ…犬がしゃべらないこちらの世界へ戻すためよ」
「でも、…でも僕は帰りたくなかったんだ」と僕は言った。
「きっと、ポールは戻ってくる。戻ってきたら、その時は彼に会ってみてよ。多分君も彼のことが気に入ると思うから」僕がこう言うと、ヒロはまっすぐに僕を見て
「嫌よ」と言った。
僕は驚かなかった。でも念のため理由を聞いてみた。
「どうして?」
「彼の目からは、私たちはとても滑稽に見えるだろうから」
「…」
「それが嫌なの」
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