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八 すべての人に慰めを

「まず最初に言っとくけど」とヒロは切り出した。

「世の中には答えのない質問や解決策のない問題ってやつがあるのよ。残念だけど」

「うん」そんなことぐらいは、僕でも知っている。

「あなたが言ってるその犬のこともそのひとつだと思うけど」

「うん」

 うなだれている僕を見て、ヒロは細く息を吐いた。

「でも助けたいのね?」

 僕は頷いた。

 彼女はまた僕の右斜め後ろの壁を眺めながらしばらく考え込んだ。僕もその間ずっと黙り込んでいた。

 長い長い沈黙のあと、ようやくヒロは口を開いた。

「相対性理論、ってのはどうかしら」

「ソウタイセイリロン?」

「そう、アインシュタインが発明した、すべての人に慰めを与える理論よ」

 彼女はちょっと言葉を切って僕の目を見つめた。

「つまりね、すべてのものは相対的にその位置にすえられているということなの」

「よくわからないな」と僕は言った。

「何でそのソウタイセイリロンがポールを助けることになるのか」

「だからね、あなたはクラスで一番かっこいいわけでも、一番勉強ができるわけでも一番走るのが早いわけでもないでしょ」

「うん」

「でも別に落ち込む必要はない。なぜなら、あなたよりかっこわるい人も勉強ができない人も、走るのが遅い人もいるから」

「…」

「要するに評価なんてものはその比較の対象によってどうにでも変わるの。だから、比較する相手さえ間違えなければ、自分の価値を見いだすことなんて簡単なのよ」


> 九 ソウタイセイリロンの罠

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