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小説 【 あるハワイの芸術家 】 -3-
ジェシーが帰宅したのは夜8時すぎ。母のケイトはいつもの赤ワインを傾けすでに酔っていたがジェシーはスーザンに聞いた話を伝えた。
「交通事故だって。飲酒運転に交差点でぶつけられて。命に別状はない」
怪我は左腕の上腕の骨折で事故に遭った昨日の夜入院し明日手術、週明けには退院できるという。
「そう」とケイトは目をそらした。
「お見舞い行かない? 今週は無理でも、来週末とか」
まだスーザンにもクリスにも話してなかったがジェシーはその気になっていた。
「来いって?」とケイトが聞く。
「そうは言ってなかったけど。知らせるだけはって叔母さんは」
スーザンは最初この家の固定電話にかけ、次にケイトの携帯電話にかけたが両方とも繋がらず留守番電話にもならず、それでジェシーの携帯電話にかけたと言った。
ケイトは着信履歴を見ても折り返さなかったという話で、
「いいでしょ、命に別状ないなら」とタンブラーのワインを飲み干す。「お金かかるし」
クリスは今ハワイ島にいた。見舞いに行くとなると往復飛行機になる。
「私が出すよ」とジェシーが言っても、
「仕事も急にはね」とケイトは首を振り、テーブルのワインボトルに手を伸ばした。
***
電話を折り返さず見舞いも嫌がるというのはもう会いたくないのかもしれない――そう思ったがジェシーは聞けないまま「わかった」と受け入れた。
聞きたいのに聞けずにいることは他にもある。言いたいのに言えずにいることも。
***
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