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小説 【 あるハワイの芸術家 】 -9-

3人の空気が変わったのは新しいアパートに越した頃。引越しの当日からかもしれない。

トーマスとの思い出があった家をケイトはなかなか離れられず、しかしジェシーとのふたり暮らしには広すぎて家賃も安くなかったからトーマスの死後1年半経ってようやく決心した。新しいアパートはケイトが勤めるドライブインの近くでジェシーの通う学校も近くなり、だからジェシーは賛成したがクリスの家は遠くなった。

引越しの日は朝からクリスが手伝いに来て電球の付け替えなどをケイトと協力し、その距離の近さは夫婦同然に見えた。

捨てられずに持ってきたトーマスの衣類を「よかったらもらって」とケイトは渡し、

「ああ、懐かしい。着てたね」とクリスは箱から数枚のシャツを取っては広げ、それから急に自分のシャツを脱いだ。

裸になった上半身は消防士だったトーマスに比べると痩せていたが、ケイトは動揺し目をそらした。ジェシーはそれを見逃さなかった。

遺品のシャツを着たクリスは「ぴったりだ」と笑い、

「さすが双子」とケイトも笑って自分の反応を隠した。


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