小説 【 あるハワイの芸術家 】 -12-
「誤魔化してない。ずっと考えてたんだ。絵だけでなんとか食えるようになって、依頼もたくさん来て、チャンスなんだ」
「――」
「楽しいからずっとこのままでいたいけど、ジェシーはともだちが大勢いる。これからもたまには遊んでほしいけど、いいタイミングだと思った。ジェシーのことは変わらず大好きだよ」
「ママのことは?」
「ジェシーと同じくらい好きだ。家族じゃないか」
「――」
「会いたくなったらいつでも連絡して。すぐに来る」
ジェシーがしつこく抵抗したのはクリスと離れるのが嫌だったのは勿論、「うまくいってると思っていたのになぜ」という疑問。
そしてまずケイトに話して、それは当然としてもはケイトは簡単に受け入れ、
「私が思うほど叔父さんを好きじゃなかった? 何かをもっと話したんじゃ? 別の理由があって――」
それを確かめたかったのもあった。
「私はママを傷つけてたのかもしれない。パパとそっくりの叔父さんを慕って、慕い続けて、それはママにとって苦痛だった?」
しかしあの時はうまく言葉にできず、クリスに聞いてもわからないかも、と思い、それでいてケイトにも確かめられず、ただゴネただけになった。
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