小説【 あの夏あの島で 】-2-

次に彼を見たのはその日の帰り。

結衣とは江の島の観光スポットをひと通りまわり、江島神社、サムエル・コッキング苑、シーキャンドル、御岩屋道通りを抜けて太平洋の見渡せる定食屋でお昼を食べ、そのあと龍恋の鐘、稚児ヶ淵に行き、帰りは人通りの少ない西側の道をまわった。仲見世通りに戻ると結衣は再び土産物屋にひっかかり、今度は和柄の雑貨、財布や筆入れを見る。美歩は人通りを見まわした。行きに彼を見たのはこの辺り、と探したがいるわけない、とすぐ諦め、結衣のいる店に行きかけて「お客さん」という声を聞いた。見ると彼だった。

たたんだ日傘を手に美歩の横を通過し「これこれ、忘れ物」と50代の女性3人組に声をかける。

「あらうっかり」「やぁね歳で」「ごめんなさいわざわざ」と女性たちはにぎやかに笑い、

「いえ。お気をつけて」と彼は朗らかに言って、

「ありがとう」「また来ます」「必ず」

「お待ちしてます」とサッパリお辞儀すると笑顔で引き返してきた。腰にエプロンを巻いていて美歩とすれ違い、美歩が見上げると仲見世通りを登って脇道に入った。

   ***

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