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ゼロセンチメートル
聖地「小豆島」へ
日本のオリーブ発祥の地であり、醤油や佃煮が有名な香川県小豆郡に属する瀬戸内海にある島。
そしてなにより、『からかい上手の高木さん』の聖地である。
私は突然いてもたってもいられなくなり、その日の夜行便を予約した。
今回は、小豆島旅行記〜ふたりの距離はゼロセンチメートル定規を添えて〜より印象に残ったことをお届けする。
出航
AM1:00、神戸港より出航。
ジャンボフェリーの夜行便に乗って、小豆島の坂手港を目指す。
到着時刻は7時30分、つまり6時間半の航海になる。
私は個室を予約しているので、一旦自室に向かった。
展望デッキで出航の瞬間に立ち合い下に降りると売店があった。
仮にも香川県周辺をうろうろしている船なので、
うどんのラインナップが充実していた。
オリーブの島へ向かう前に予習をしておこうと思い、オリーブうどんを頼む。
おそらく人生で初めてオリーブを認識して食べた。
震えるくらい嫌いだった。
一通り船内を散策した後、特にすることもないので自室に戻った。
アナウンスによると、起きられずに島を一周して神戸港に戻ってきてしまうお客様がいらっしゃるとのこと。
自分はそうなるまいとアラームを何重にもかけて寝る。
朝6時過ぎ、目覚める。
4時半ごろに経由地の高松港に到着した時、サビがあるのかないのかわからないむずがゆいジャンボフェリーのテーマソングが爆音で流れ起こされたので眠りが浅く、良くも悪くも簡単に目が覚めた。
少し早いが、「だんだん見えてくる小豆島」という体験をしてみたかったので展望デッキに出たりしてみる。
寒いのですぐに中に入った。
というかもうとっくに見えてた。
7時半、小豆島坂手港に到着。
夢にまで見た小豆島が目の前にある。
しかし、ここからが勝負なのだ。
フェリーの時間が中途半端なので、
15時15分坂手港発の船に乗る必要があった。
約8時間の小豆島滞在を無駄なく過ごすためには、
どう考えても移動手段がなさすぎたのだ。
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聖地の反対側
聖地に足を踏み入れたものの、ここは聖地の反対側。
私が目指すのは小豆島「土庄港」である。
島内に電車はなく、移動手段はバス、タクシー、レンタルサイクルである。
到着した瞬間にレンタルサイクルで島の真反対まで1時間モリ漕ぎプランも覚悟していたが、うまい具合にバスに乗れた。
しかしこれは計算済み(バス側が)。
約50分間バスに乗る。
途中で大量の高校生が乗り、大量に降りて行った。
「ああ、ここで生まれ育つ人もいるのか」
などと物思いに耽っていると土庄港に着いた。
観光案内所に入ると、もうすでに「からかい上手の高木さん」に溢れていた。
写真を撮りながらうろうろしていると、
「TVアニメ からかい上手の高木さん 舞台探訪マップ」
を渡された。
土庄町に来たことを実感させられた。
どうもありがとう。
まず初めに、金色の像(『太陽の贈り物』というらしい)を目指す。
意外に見つからないな〜と歩いていると急に目の前に現れた。
「あー!!!3期9話で『100%片想い』の映画を見にいくときに西方と高木さんが待ち合わせした場所だ〜!!!」と心を躍らせながら正面に立つ。
10分ほど眺め、ソロショットをキメてレンタルサイクを探す。
ご存知の通り『からかい上手の高木さん』にとって自転車は重要なアイテムであり、
高木さんverのカバー曲ではJUDY AND MARYの『自転車』が一番好きなので、自転車で移動することにした。
天使の散歩道
天使の散歩道こと「エンジェルロード」に着いた。
直接作品内で触れられてはいないものの、3期OPでのエンジェルロードは印象的であり、普通に小豆島名物でもある。
というか今後絶対に出てくる。
向こう側に渡ると、貝殻の絵馬があった。
西方と高木さんの幸せを願い一筆したためようよ思ったが、どこに売っているか分からなかったのでやめた。
靴を脱いで少し海に入る。
聖地とはいえ作品に出てきていない以上はただの海だし寒いしですぐに出た。
念の為、山の上の恋人の聖地とやらにも行き、
1人で鐘を鳴らしソロショットをキメて降りる。
もはや動悸がする
天使の散歩道を後にして、自転車にまたがり次なる目的地を目指す。
途中、「Booksことぶき」や「妖怪美術館」、「迷路のまち」を通った。
Booksことぶきではあからさまに『からかい上手の高木さん』が平積みされた山本崇一郎コーナーが設置されてており、またも聖地に来たことを実感させられた。
そういえば電動自転車に乗るのは初めてだった。
ちょうど自転車を買い換えようとしていたので、候補にしようかなどと考えていたらすぐに目的地に着いた。
小豆島は、狭いようで広く、広いようで狭い。
鹿島明神社に到着。
そう、ことあるごとに登場する鹿島明神社である。
作中で一番カット数が多いとも言われている。
印象に残っているのは、1期10話「背比べ」や、2期9話「お悩み」、そしてなんといっても2期11話「お土産」だろう。
この場所での会話をきっかけに、高木さんの「予定あけてるよ」が生まれ、
2期12話「夏祭り」につながる。
そもそも、2期9話「お悩み」で……と議論を進めたいところだが、皆様の期待には添えない。
今回はあくまでも小豆島旅行記なので、ご理解いただきたい。
鹿島明神社横の駐車場に自転車を駐め、一旦下に降りて階段を登りなおす。
拝殿の前に巡礼ノートが置かれていたので、当然のように自前のサインをかき裏へ回る。
そこには、何度も見たふたりの場所があった。
この感情は、筆舌に尽くし難い。
某所に腰掛けてみたり、その正面に座ってみたり、ただふたりの幸せを願うだけの時間が過ぎた。
聖地を見るだけで、ドキドキが止まらない。
動悸がするほどの感動。
今思い出すと正面をほぼ素通りしたため、
お賽銭どころか拝殿に目も向けなかった。
ただ自分のサインをかきなぐり、
聖地で胸に手をあてていただけだ。
神がなんだ。神社がなんだ。
おれにとっては
『からかい上手の高木さん』の方が
大切なんだよ!!!!!!!!!!
さて、バスの時間が近づいてきた。
バスは自分が思っているより多く走っているが、坂手港⇄土庄港の2パターン以外はアウトオブ眼中だったので、タイトなスケジュールを強いられていた。
土庄港に戻りレンタルサイクルを返却する。
お土産コーナーにある小豆島限定クリアファイルを買おうと思ったが、
全4種あるうちの1種類しか売っていない。
他3種は小豆島の名所に散らばっているらしい。
そういえばエンジェルロードに売っていたのを思い出した。
違う!!!
高木さん単体のクリアファイルなんていらない!!
西方といる高木さんがいい!!
バスはあと10分で出発する。
悩んだ末、欲しい種類のクリファイルを買いに
売り場の1つである妖怪美術館へ行くことにした。
ここなら3分で行って1分で買って3分で戻ってこれる!!
もう一度レンタルサイクルを借りようとアプリを操作すると、
「返却が完了していません」
いや、完了していますが?
と言いたい、というかたぶん言っていた。
実際、返却は完了しているが決済エラーでシステム的には完了していない状態らしい。
つまり、自転車を新しく借りることができない。
試行錯誤するも解決せず、結局サポートセンターに電話する。
原因はクレジットにあるらしく解決せず。
あー、バスきてるなーと思いながら思考を巡らせる。
いつもこうだ。
なんでこうなるんだ。
小豆島で1人泣きそうになりながら戦う。
こんなことなら観光案内所とかのアナログ手続きでレンタルサイクルを借りるべきだった。
デジタルはこれだから…
支払い方法などを全て登録し直しなんとか解決。
(後日、クレカの上限通知がきたので原因の一つだと思うが、それにしても解せないことが多かった。なんだこれ。)
もうバスの時間なんて関係ない。
最悪1時間自転車を漕げば島の反対側にある坂手港に戻れる。
それはそれでありか、と思いながらヤケクソで妖怪美術館へ向かう。
美術館への入場はせずクリアファイルだけ買うつもりだったが、この際入場してやろうか。
私は5分足らずで到着し、売店の扉を開け…
開かない…?
自動ドア…じゃない。
え、この感じで引き戸じゃない…?
誰かが出てくる気配もない…ん?
なんか暗くない…?
あ、あそこに何か書いてあ…
定休日
もはや感情はない。
クラっとくるほどの動悸をおさえるために、
大きく息を吸って深呼吸することに努めた。
もういい、帰る。
オリーブとか、醤油とかもうどうでもいい。
嬉しい誤算で坂手港を経由するバスが来たので、
慣れた手つきでレンタルサイクルを返却しバスに乗った。
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観光地「小豆島」
下を向きながらバスに揺られる。
2時間前に港に着いて、アニメとか見るんだ。
道のりの真ん中くらいにある、
「道の駅 小豆島オリーブ公園」で降車に時間がかかっている。
ほとんどの人が降りるみたいだ。
オリーブ…
まずかったしな…
気が付くと、オリーブの木に囲まれながらオリーブアイスオリーブオイルがけを食べていた。
止められない衝動。
まずかった。
さて、特にすることもないので坂手港に帰るか…
どうやって?
次のバスは1時間以上こない。
この近くにはレンタルサイクルもない。
歩いて戻るには遠すぎる。
やばい、また体が震えてきた。
そこに女子3人を乗せた青いタクシーが来た。
助かった。
この際お金は関係ない。
タクシーに乗り坂手港を目指す。
もう分かっていると思うが、
私は問題を解決した後、自分のことを無敵だと思ってしまう。
あやうく小豆島で迷子になるところだった状況から、お金さえ払えばどこにでも行ける乗り物に乗ることができた。
私は、運転手に状況を話し、目的地を有名な醤油蔵に変更した。
醤油蔵で30分ほど説明を受けた。
要約すると、
「木桶で作る醤油は、現在流通している醤油の1パーセント未満。
そもそも木桶をつくれるひとがいなくてヤバい。
木桶で酵母菌やら乳酸菌やらが醸す醤油が一番いいのに」
みたいな話だった。
発酵のピーク時はパチパチと菌が活動する音が聴こえるというので、
なんかもやしもんみたいな話だなあと思っていると、またタクシーが迎えに来てくれた。
どうやら今日はタクシーが満員で、運転手は運転手ではなく事務員らしい。
この人に出会えなかったら、私は今もまだ小豆島の海岸を歩いていたかもしれない。
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話は弾み、いろいろな提案をしてくれた。
どうやら坂手港付近には本当に何もなく、
1時間半前に戻るような場所ではないらしい。
そこまで言うなら、ということで、
映画村とやらによることにした。
なんか時代劇のセットとかがあるのかな〜。
結果として、私が映画村に目を向けることはなかった。
まずここで言う映画村とは、映画『二十四の瞳』のオープンセットを改築したものである。
忍者や侍が闊歩する時代劇ごっこのような世界に入れると思っていた私は、映画村を門の隙間から垣間見ることもなく、通り過ぎた。
帰りのフェリーは15時15分坂手港出発。
現在の時刻は14時30分。
もう映画村に用はない。
少し時間があまってるなぁ…
なんかあれだし、自転車で帰ってみよう。
タクシーの運転手にその旨を伝え、
驚かれながらもレンタルサイクル設置場所まで歩き出す。
もはや聖地とはかけ離れてしまったが、
せっかくの小豆島で風をきりたかった。
2人に思いを馳せながら自転車を漕いだ。
海沿いを通り、
山を登り、山を下り、
山を登り下り登り登り登り登った。
港までは約7キロあった。
ふと海沿いで足を止める。
なぜ私は、聖地の反対側にいて、
自転車で山を越えているのだろう。
ただ、港に帰りたいだけなのに。
流れる塩水は、
海なのか、涙なのか。
二度と自転車になんて乗らない。
今度からは金に物を言わせてやる。
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なんとか坂手港に着いた私は今日3度目のレンタルサイクルの返却をして、船に乗り込んだ。
約3時間の航海の間で、
私は何度後悔しただろう。
強風吹き荒れる中、展望デッキで
心の嵐がやむのをまった。
島の旅行は難しいなあ。
足を踏み入れた瞬間、またこようと思った小豆島。
ふうつに不完全燃焼でリベンジすることになった。
ただ、またふたりが生まれ育つこの聖地に来る理由になるならと、
私はそっと、遠くなっていく小豆島を見つめた。
遠いと思っていた小豆島は、ゼロセンチメートルより近く、
狭いと思っていた小豆島は、ゼロセンチメートルにはとてもおさまりきらなかった。
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