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刀の茎から分かる事

日本刀の中で恐らく最も情報が詰まっていると言っても過言では無い箇所、それが茎(なかご)。
茎はただの錆の塊なかれ…刀の中で唯一当時の状態を残している貴重な部分なのです。

①茎から分かる情報

・誰が作ったか

後世の加工により銘が無くなってしまった無銘と呼ばれる刀も数多くあるのですが、基本的には茎には刀工銘が書いてあります。
なのでそれを見ることで誰の作かが分かります。
(偽銘もあるので必ずしも本人の作かは分からない)

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・いつ作られたか

銘の反対面に年期が切られている事があります。
それを見ると何年に作られた刀なのかという事が分かります。
下の慶長18年というのは1613年です。

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・試し斬りなど行ったか

江戸時代になると試し斬りが流行します。
戦が無くなって平和になったものの、武士はより斬れる刀を求めたといい、試し斬りを行いその記録を刀に刻む事で刀のブランドを高める為の手法として行われていたのかもしれません。
「三ツ胴裁断」などと書かれているものもありますが、これは三つの胴を重ね刀で斬ったところ、全ての胴を2つに切り離したという意味です。
以下の土檀割というのは試し斬りの際に土檀(土の山)の上に死体の体を置き裁断するわけですが、体を両断したあと下の土檀まで切った(割った)という意味ではないかと思われています。

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・誰が持っていたか

所有者やその刀を注文した人の名が刻まれている事があります。
よほど思い入れがあり惚れた刀なのでしょう。

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(画像出典:刀剣ワールド 無銘 伝兼光(金象嵌)本多平八郎忠為所持之


・元々どのくらい刀身に厚みがあったか

刀は使うとボロボロになり研ぐ事でまた切れるようになります。
しかし繰り返すと段々と緑線方向に細くなっていきます。
でも茎部分を削る事は普通しない(偽造工作などではする)ので茎をこの角度から見れば製作時の刀の厚みが分かります。

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・短く手直しされた形跡はあるか

主に無銘の刀は短くされている可能性が高いです。大摺上げともいいます。
時代時代の戦闘様式に合わせてより効率的に人を殺せるように日本刀は形を変えてきましたが、昔の刀を武器として使う際にそのままでは使いづらいので、短くする事で再利用する事が出来ました。
その為、歴史上のどこかの所有者が使いやすくしたのだろうなと伺い知る事が出来ます。

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・拵えは何回位作られたか

刀には本来拵えがセットで付いています。但し現代はバラバラになっている事が殆ど。拵えの付いていない白鞘のみの刀も多いです。
当時は拵えの方が使用している材料的にも貴重だったらしく、拵えに目釘孔を開けずに、拵に刀身が合う様に刀身に目釘孔を追加していたようです。
なので、刀身には以下のように穴が何個も空いている事があります。
概ね一つの拵えには穴が1つ必要なので、以下で言えば最低3個は拵えがあったと考える事が出来ます。

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・工作されていないか

左の写真に比べて、右の写真は緑丸部の錆が薄いのと、黄色丸部に銘を消したような跡がある事が分かります。

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刀は歴史上、下賜されたり献上する為の道具としても使われていました。
その際におおよその相場と言うのが決まっており、献上するなら正宗にしなくては、でも正宗が無い…作ろう!というような流れで化かす為に加工された歴史のある刀も存在しているでしょう。
その他で言えば刀を高く売る為、鑑定書で上の鑑定を受けるために加工したか…。
いずれにしてもどこかのタイミングでこういった考えをした所有者がいたという事が想像できます。


②茎錆の時代毎の変化

・製作直後

もともとは刀身と同じ銀色をしています。
そして鑢目という細かい線が茎に入っています。

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・150年位経つと

部分的に黒くなっていきます。鑢目もまだしっかり残っています。

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(画像参照:刀の蔵 月山雲龍子貞一造 明治二己年仲夏

・400年位経つと

均等に黒錆びが満遍なく付いています。このように黒錆びでしっかりコーティングされていれば悪い赤錆等が侵食しづらくなります。
鑢目が少し見えづらくなります。サラサラとした柔らかい肌触りです。

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・800年位経つと

表面が朽ちてトロンとした艶やかな黒い錆びになります。
触るとしっとりしています。

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このように時代を経る事で刀の茎は味わい深い物になっていきます。
この錆を意図的に付ける事もされているようですが、やはり本物とは違うらしい。
でもこの違いは私には分かりません。

③終わりに

という事で日本刀の茎は実は錆を含めて沢山情報が詰まっています。
なので茎の黒錆を取り除く事はご法度とされています。
日本刀を手に入れた方は是非茎も楽しんでみてください。
刃文や地鉄のようにキラキラとはしていませんが、鉄の肌触りや匂いなど刀を一番肌で感じられるところでもあります。
隅々まで見ていると刀の歴史を垣間見る事が出来るかもしれません。


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それでは皆様良き御刀ライフを~!

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