刀の茎と鉄鐔をマイクロスコープで比較して時代推定が出来るのか?
鉄鐔は古墳時代から見られ、その後なぜか鎌倉時代や南北朝時代の鉄鐔は現存品がほぼ無いとされ(山銅が主流に)、室町時代になりいわゆる古刀匠鐔と言われる薄造りで簡素な物が登場して、次に少し手の込んだ古甲冑師鐔と呼ばれる物がほぼ同時期に登場すると考えられているようです。
つまり古墳時代から室町時代の間の鉄鐔がポカンと無い事になります。
と言っても古墳時代の物は埋蔵されていたからこそ現代に残っているのかもしれませんが…。
この辺り製鉄技術の歴史や諸外国との貿易の歴史などを追わないと正しい推測が得られないと思うので現時点では知識不足でまだ出来ないものの、鎌倉時代や南北朝時代の刀身がこれだけ残っている中において同時期の鉄鐔を全く見ないというのは何か違和感を覚えるのもまた事実です。
数は少なくとも相応に紛れている可能性もあるのではないか。
…という事で前回の続きで、今回は古刀匠鐔や甲冑師鐔と思われる物、現代鐔工の成木鐔をマイクロスコープで見てみる事で、先日の鎌倉時代の太刀の茎の表面と類似点が見られるかどうかについて調べて見ようと思います。
因みに鉄鐔は製作後に付錆されていると思われるので、実際に刀の茎の錆状態と単純比較は難しい気もしています。刀も時代の途中で付錆が行われている可能性もありますが。
このような状況ですのでどのような刀を選ぶかによっても結果が大きく変わる可能性があり、本来は沢山の刀を調べないと正当なデータは取れないとは思うのですが、そんな事を言っているといつまで経っても出来ないのでひとまず実験として1つやってみようと思います。
もしかしたらある程度の製作年代の推測には役立つかもしれません。
という事で。
まず、以下が先日の茎の錆の様子です。
赤い線で区送り(摺上げ)がされているので、①と②の黒錆の付き方は同期間経たものではなく、①の方が古く(700~800年程経過と見られる)、②の方が若い(300~400年程?経過と見られる)です。
つまり①と②の錆具合と、各鉄鐔の表面の様子を見比べる事で、黒錆びの進行具合から製作年代を推測する事が出来ないか?という試みをしてみる、というのが今回の主旨です。
①古刀匠鐔
まず古刀匠極めの鐔を見てみました。
先の茎の写真と比較すると、①と②の中間位のようにも見えます。
ともすれば室町時代頃というのはあながち間違っていないのかもしれません。
②甲冑師鐔?
次に個人的に古そうに感じた鐔を見てみます。
これは鑑定書も付いていないので物は不明ですが、甲冑師あたりの極めになるでしょうか。
先の茎の写真と比較すると、①に近いように見えます。
茎孔が比較的大きい事から大きな太刀に付いていた事が想定されます。
櫃孔は後世開けられたものでしょうか?
素紋(絵柄が無い)なので判断が難しいですが、南北朝あたりという判断が出来るのかどうか。
以前複数人の方に見て頂いた際は切羽台の厚みが3.5㎜程で厚い点から江戸期頃のものではないかという意見も多かったです。
③現代鐔(成木一成氏)
次に付錆の様子を見るという意味で、鉄鐔を研究し数多くの様々な鉄鐔を再現されていた現代鐔工の成木一成氏の鐔の表面をいくつか見てみます。
鉄質の異なりそうな3つを選んでみました。
・柳生写し
成木鐔に良く見られるトロンとした焼きなましてある鐔です。
・甲冑師写
表面に阿弥陀鑢の掛けられた鐔で焼きなましていない鐔。
・古刀匠写
乾燥したようなひび割れたような質感の鐔。
これらを鎌倉時代の茎と比べると以下になります。
うーん…どれも雰囲気が異なります。
他の現代鐔工の方の作品がどうかは分からないのですが、成木氏の付錆は時代を経たような錆と少し異なるように見えます。
④終わりに
という事で、マイクロスコープでの写真比較をしてみました。
個人的には以下の鐔が結構鎌倉期の茎に錆具合が似ていてロマンを少し感じてしまうのですが実際どうでしょうか。
まだまだ他の古そうな鐔を色々見て比較してみないと分からなさそうです。
あとは製鉄技術や貿易についても勉強せねば。。
因みにちょうど手にしたので古墳時代の鐔の表面も見てみたところ驚きが。
ここから先は
刀箱師の日本刀note(初月無料!過去記事も読み放題)
日本刀の奥深さや面白さ、購入するに当たって持っておいた方が良い知識などについて日々発信しています。 今まで820日以上毎日刀についての記事…
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?