魚座の誠実さは、善悪や常識を飛び越えている
魚座は、善悪の判断や社会的な常識を重視しません、そういったものとは別の世界観で生きているからです。
「同じ月を見ている」という漫画作品を知っていますか。主人公のドンちゃんは、貧しい家庭で育つ小学生の男の子。母は早くに亡くなり、父はネグレクトで暴力的。ドンちゃんはいつも同じランニングに短パン姿で、満足に食べたりお風呂に入っていたりする様子もないようです。
しかし、彼はそんな過酷な環境で育っているのにも関わらず、まるでスレたところがありません。口下手でほとんど喋らないかわりに、絵を描くんですね。言葉を交わさずに相手が心から求めているものを察知して、それを絵で表現するのです。
絵を通じて他人と交流する彼に、周りの人々は魅せられていきます。
ある日ドンちゃんが、丘の上で友達と遊んでいた時のこと。そこには、大使館で働くコールドマンさん一家の大きな別荘がありました。
別荘の外壁にドンちゃんが落書きしていると、お屋敷の主人である父親が表れます。そこで怒られるどころか、大きなお屋敷の中へ招待されるのです。
お屋敷には、一人娘のエミちゃんがいました。エミちゃんは体が弱く、療養のために丘の上に住んでいるようです。エミちゃんはずっと家に引きこもっている様子で、あまり元気がありません。
そこで、ドンちゃんがおもむろに、エミちゃんの部屋の壁に絵を描き始めます。その絵は、エミちゃんがほしがっていた犬、ブルテリアだったのです。
嬉しそうな顔をする娘を見て、父親は感激します。「エミが笑った!!」
ドンちゃんの突飛な行動により、エミちゃんは数年ぶりに笑顔を取り戻したのです。
それ以来、父親はドンちゃんを気にかけるようになり、度々娘の遊び相手としてお屋敷に招待します。そこでもやはり、ドンちゃんはほとんど話しません。
周りの人々が語りかけ、ドンちゃんが優しく受け止める、それだけなのです。どこか純粋さや心の温かさをまとう彼に、父親とエミちゃんは心を通わせていきます。
そして、エミちゃんの誕生日会では、ドンちゃんは丸い石に彼女の似顔絵を描いてプレゼントします。お金はかけずとも、心がこもっているのが伝わってきました。
そして、エミちゃんは彼にこう言います。
常識で考えたら、他人の家の壁に落書きするのって絶対にダメじゃないですか。
でも、その行動によって、エミちゃんも父親も幸せを感じられたんですよね。魚座のサインには「目の前の人が笑顔でハッピーになってほしい」「その際の善悪は問わない」というような性質があるのです。
他人の持ち物に落書きするのは悪いことかもしれないけれど、結果的にエミちゃんは笑顔になりました。そこで、落書きした罪についてどうこういうよりも、ハッピーになったことの方が大事だよね、というのが魚座の性質なのです。
物語が進むにつれて、ドンちゃんはその純粋さ故か、不遇な目に遭ったり、危うい世界へ足を踏み入れたりしていきます。
でも、ドンちゃんは不思議と自分の置かれた状況に満足しているように見えるのです。そこから大きく這い上がったり、無理に良くしたりしようとせず、流れに身を任せるように生きています。
時に大胆な行動に出ることはあるけれど、それは「誰かのため」であって、事が済んだ後は、再び現状を受け入れようとする器の大きさがうかがえます。
ドンちゃんと関わる人々が、目の前で悲しそうにしていなければ、幸せそうにしているのであれば、それで良い。それがドンちゃんの魚座めいた生き方なのかもしれません。
参考文献:土田世紀.同じ月を見ている 1.小学館,1998,216P