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岩清水式 is 何

香りという楔

人生で初めて、推しカプ概念アイテム「香水」を入手した。

香りというものは、時として人の記憶や心の深層に深く刻み込まれるものだ。
記憶に密接に結びついたにおいを感じると、思いがけないところで忘れていた記憶を呼び覚まされることがある。
通り雨に濡れた芝生の青さ、やかんで煮出した麦茶の香ばしい湯気、ひんやりした仏間に立ち上る線香の筋、屋台の鈴カステラの誘惑、551の肉饅頭、赤ちゃんのミルキーなにおい、好きだった人の香水…。
別にDOLCE&GABBANAでなくてよい、人は懐かしい情景や人を、においで思い出すのだ。

自ら蓋をした感情すら揺さぶり、大人の枯れた心にセンチメンタルな潤いを連れてくる。そんな香水という罪深いアイテムを、キャラ考察に定評のあるメーカーから公式が出すという。めでたい。しかし推しは小学校一年生、現役の児童なのである。

モラリティー

六歳児をイメージした香り、一体どうすりゃいいんだ……成人女性である私は歓喜と共に動揺もしていた。
未成年…もとい…ちびっこイメージのフレグランスに興奮していいのだろうか…、それは、人として大丈夫なラインだろうか?

幅広い層からの人気を博しているアーニャの香水が、黄昏+いばら姫と同時リリースされたのは、わかる。
暖色系の似合うキュートな女の子である。エロさを排除したフルーティーな香りであれば、元気な少女をイメージした香水として、受け入れられる気がしていた。
幼いアーニャが実際にそんな人工的な香りをまとっているとは、もちろん思ってはいない。石鹸とお菓子のにおいだけで、アーニャは充分かわいいそんざいだ。

ただ、ダミアンとなると話は別である。彼のイメージ香水が商品開発会議でゴーサインが出され製造された、これは結構すごい話なのではないだろうか…? おそるべしダミアニャ、イメフレ界を席巻である。
※なお、同世代の「たった一つの真実見抜く名探偵(7)」も素敵な香水を出しているのだが、内なる人格が高校生なのでまたちょっと趣が異なる。

一般的な小1男児はフレグランスとは無縁で、何なら対極に位置する存在かもしれない。ただ、彼は香水文化の円熟した欧州の生意気お坊ちゃまなので、子供向けの香水を嗜んでいる可能性がある。育ちの良さゆえに、自宅から持ち込まれた衣服から、自然といい香りをさせていても何もおかしくはないのである。
つまり、「本当にダミアン・デズモンドが漂わせている香り」として、こちらが受け取ることができてしまうのである。

私自身はいわゆるダミアンの夢女子ではない。
彼と彼の片想い先であるアーニャとのカップリングに萌え、人生を豊かに楽しんでいるほうのどうしようもない見守り系オタクである。
であるからこそ、推しの香りと真剣に向き合うと心に決めたのである。
そしてアーニャの香水も同時に求め、化学反応を楽しむことにしたのである。

四の五の言わずに吸ってみよう

以前推しカプルームフレグランスをお迎えした時は「デズモンド家の空気が我が家においでなすった」「どちらの花言葉も尊すぎる…ありがとう…合掌…!」という心の動きがあったものの、まだ人として大丈夫なラインのレポートを書けていたように思う。

今回はそうはいかなかった。初日に書きなぐったレビュー文はあまりにも気持ち悪かったので消した。そこには推しの奥行きがあったのだ。こんなけしからんプロダクトを生み出しておいて、オタクに「騒ぐな」と言う方がどうかしている。

事前に、心を落ち着かせるため、自戒としてこんな画像を作っていた。

※遠足のしおりを作るのが大好きなタイプ。


松屋銀座スパファ展も間もなく終わろうとしていたお盆初日、エックスデー8/11到来。銀座店へ発売日に突撃。静かな店内で説明を受け二人分の香水を入手、人の肉の形を保つので精いっぱいであった。
心を鎮めるために寄ったITOYAのエレベーターがメンテナンス中で、自力で上がった7階画材フロア(聖地)の特殊紙サンプルの前に佇み、外国人観光客の方々の邪魔になったりしていた。
プリマニアックスのショップバッグは、見る人が見れば袋の中身は明白である。小さな袋の中には、1瓶6600円の、無限の夢が詰まっているのだ。


ファーストインプレッション、正直なところ本当に好きな香りだったので安心した。
この香りのよさについて、私は香水に詳しいわけではないので、語る言葉を持たない。ただ、推しのイメージフレグランスが、自分の好みにマッチしてくれて、これ以上嬉しい事はないと思った。
好き嫌いが激しいほうなので、今まで推し香水とは残念ながら縁が無かったが、どちらも普通に購入をお勧めしたいし、毎日つけたいと思えるくらいに気に入っている。
気になっている方、とにかく試してみたらいいと思う。

推しの香りが好ましいものであればとても幸運なので、色々な愛で方で愛でて欲しい。
手首、足首、首筋、肌に付けて時間経過と体温による変化を楽しむも良し。香水をつけない人は、空中にエアプッシュしてほんのり浴びるのもお勧め。概念として、推しはもうそこに居ない、この残り香は残穢のようなもの……として捉えるのもありだ。己の妄想力が試されるときだ。こんな時のために磨いてきた力だ、大切にしたい。

岩清水式とは何なのか


さて、ここで小題の「岩清水式」について解説させていただく。
これは火宅リコが某名作漫画を元ネタとして勝手に命名した「ハンカチに推しの香りを忍ばせて持ち運ぶ愛で方」の呼称である。

※初出のリプ

↑のようにしれっとSNSで使ってみたところ、「なんかすごそうですがどういう意味なんですか?」という質問をいただき、元ネタのマニアックさに思い至り、ここに解説をするものである。

70年代の名作漫画「愛と誠」に登場する、「岩清水弘」という男の中の男が「岩清水式」の元ネタである。
けっして自分に振り向くことのないヒロインを一途に想い、命を懸けて自己犠牲(愛)を貫く姿が壮絶だ。

生徒からの嫌がらせでびしょ濡れになってしまったヒロインに、彼は優しくハンカチを差し出す。ヒロインは顔や髪を拭い、礼を言いハンカチを彼に返す。
……ここで岩清水は、あろうことかその場で無言のうちにハンカチに鼻を押し付けるという変態行動をとる
ヒロインがちらっとでも目線を向けたらジ・エンド、というGIRIGIRIの状況にもかかわらずだ。とんでもない奴である。

更にその直後、岩清水は不良グループによって校内の上層階に拉致され、制裁を加えられる。公衆の面前で校舎の窓から逆さづりにされ、落下させられそうになってしまうのだ。
命の危険に加え、「重度の高所恐怖症」だった岩清水はショック状態になり、絶体絶命の大ピンチに陥る。
ところが……
そんな差し迫った状況で彼がとった行動、それは
「ポケットからハンカチを取り出して鼻にあて、推しの残り香を嗅ぐことで高所恐怖のパニックから逃れる」という、とんでもねえ方法であった。
人は推しの香りで奮い立ち、何なら空もトべるのである。
わかっていただけただろうか、岩清水式のなんたるかが…
みんなも、ハンカチ経由で推しを吸うときは、彼の生き様を思い出して欲しいのだ……言いたいことはそれだけだ。


蛇足★
岩清水の好きエピソードの中に、倒れたヒロインの看病をするシーンがある。
好きな子の一人暮らしの自宅を訪れお世話をする、男子の夢膨らむシチュエーションに違いない。しかし哀しい事に……ヒロインは熱にうなされながら、無意識のうちに意中の男(主人公)の名を呼びやがるのである。ヒロインの狂信者・岩清水の面前で。控えめに言って地獄の様相だ。
彼はその何もかもを受け入れ、健気に台所で「もうひと煮たちで完成する状態まで仕上げたビーフシチュー」を作り置きし、ヒロインに声をかけて紳士的に去っていくのだ……! 
気配りパラが高すぎる、愛が重い、だがそれがいい。

「君(推し)のためなら死ねる!」と恋文に書いてしまう岩清水弘……生まれる前の時代に、こんなにも推しを愛しすぎた漢(おとこ)がいたというわけだ。
彼の純度100%の激重愛を思い出すたび、自分も推しへの愛で負けてはいられない、と思うのだ。

2023.08.13 火宅リコ

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